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パワーバランス

どのお話からでも読める一話完結掌編です。

令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。

箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。

ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。


R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)


創作家さんに100のお題よりお借りしています。

084.balance

 例え天変地異が起こったとして、それをいちいち気にしていたらきりがないというのが多くの住人の見解だ。


 ***


 無線での連絡を受けて、西地区警備署長は顔をしかめた。


「どうしました?」


 出勤していた署員が尋ねる。


「東地区で通り魔が出た」


 署員はそんなことか、と肩をすくめる。東地区は西地区に比べて治安が悪い。通り魔が出現するのは序の口だ。


「取り逃がして、西に逃走中だそうだ」


「人間ですか?」


「人間だ」


 署員も眉を顰めた。


 現在、西地区では大型のモンスターが出現しており、住民には緊急勧告を発令している最中である。緊急勧告を発令中はより殺傷力の高い武器の携帯を許されており、突然の襲撃に備えて過激な反撃も許可されていた。


 通り魔がモンスターか西地区住民の餌食になる可能性はかなり高い。


「モンスターが先か、西地区住民が先か、我々が先かですね」


 たかだか人間の通り魔を検挙するのは何も難しいことではない。怪異や異形が引き起こす事件は人間の凶行に比べればもっと解決が難しいのである。その人間を取り逃がした東地区警備署に呆れつつ、面倒な状況になったな、と署員がため息を吐いた。


 自治会の身柄保護基本方針がある。自治会とその管理下にある組織は――特に地区警備署に関しては――第一に人間の住人の安全を確保すること、第二に住人ではない人間の安全を確保すること、第三に人外の住人の確保すること、最後に人外の安全を確保することである。身を守る術が少ない以上、人間の安全が優先されるようになっている。


 よって、今守られるべきことは、近隣の住民の安全、その次に犯人の身柄の保護であった。


 何が悲しくて通り魔を保護しなくてはならないのか、署員は気が進まないままパトロールに出ることになる。


 ――人間であることに感謝することね。


 心の中で皮肉が漏れる。


 ***


 緊急勧告が発令されているにも関わらず、通りには住民がまばらに歩いていた。


「モンスターが出ていると聞いていませんか?」


「モンスターなんて昔からいるわよ」


 腰の曲がった老婦人がそんなことで外出を辞められるかという素振りで署員をどかせた。


「買い物はできませんよ」


「できなくてもいいのよ。買えるんだから」


「買えませんって」


 意思の疎通がはかれない押し問答が署員と老住人との間で繰り広げられる。住人が買える、と言うならばもしかしたら買えるのかもしれないが、何かを購入することよりも住人の身柄保護が優先である。署員が呆れながら、老婆を説得する。その視界の端で揺らぎがあった。無線での報告通りの容姿。すぐに通り魔だとわかる。


「ほら、あれ、通り魔なんです。危ないから家に帰りましょう」


 署員は顔色一つ変えず指差して老婆に示す。しかし、老婆も顔色を変えない。ニヤニヤと笑っている通り魔に動じもせず二人で押し問答を続ける。その様子を見て釈然としない表情になる通り魔。


 老婆の背を抱え込みながら、署員が通り魔に警告をした。その声に付近を歩いていた住人が反応する。通り魔だって、と署員にならって指をさすものもいた。


「モンスターが出てるからおとなしく警備署まできてください」


 相手が通り魔だというのに意に介さない署員の様子に立腹したらしい。通り魔が刃物を振りかざした。


 次の瞬間、横からモンスターが現れ、通り魔の上半身を食いちぎっていった。


「あーあ」


 老婆が呆れた声をあげる。


 とりあえず退避してください! と背中を押して、署員は近くにあった家の庭に老婆を押し込んだ。


 ――もっと、この辺の住民は危機感と言うものを持ってくれないかしら。


 そう思ってモンスターに対峙する署員。その脇で、老婆が買ったわ、と呟いた。


 チャリン、と金属音――小銭が落ちた音がした。次の瞬間、モンスターは筋肉に沿って解体されたように肉塊に変化していた。


 声の主は、今しがた庭に押し込んだ老婦人である。視線をやると財布の中からいくらか小銭が転がり出ていた。


 唖然とする署員をよそに、老婆が肉塊に近寄って一つ二つを抱える。道にいた何人かの住人も肉塊に近づいて小脇に抱えて帰ろうとしていた。


 貴方も買ったらどう?


「私は結構です」


「あらそう?」


 それじゃあ、と老婆が路地を去っていく。


 事の次第をどのように報告すべきか悩み始める警備署署員である。

読んでいただきありがとうございます☺

読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!


もしよければ評価を頂けるととても嬉しいです。


各種リアルイベント、WEBイベントに参加しています。参加情報については、活動報告に掲載中です☺

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文学フリマ東京39、コミケっと105ありがとうございました。
BOOTH通販を開始しています。よろしくお願いします☺
なにかありましたら、お題箱にて。感想や反応をもらえるととても喜びます☺
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