玉に瑕
どのお話からでも読める一話完結掌編です。
令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。
箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。
ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。
R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
063.瑕疵
地割れが起きたのは先週の話。直ちに警備署が出動して調査を始めようとした矢先、地割れがあった場所にはすでに堅牢な橋が架けられており、比較的小さい裂け目には柔らかい素材が充填されていた。
近隣住民に話を聞くと、夜中に匠が橋を架けたようだ。
「いつもの大工さんだと思うけど」
そんなことを確認するなと言わんばかりの態度で、住人が話す。この地区には謎の大工が住んでいる。その姿を人目に晒したことがないため、正しくは大工だと思われる存在である。壊れた建造物を片っ端から直していく変わった住人だ。攻撃を受けた住人はいない。直す以外にも、空き地に住宅を建てることもあり、その腕前は確かで、建てられた家に長年住んでいる住民も多い。とにかく倒れない家を建てる。竜巻が起ころうが、モンスターのしっぽが当たろうがびくともしない住居。家の評判は良い。――ただし、自治会の承認を受けていない違法建築にはなるが。
親しみを込めて匠と呼ばれていた。
玉に瑕なのは増築に関してだ。匠は家を一から建てるだけでなく、気が向いた時にあらゆる場所に増築を施していった。窓が付いている面に後付けされた謎の小部屋、道路に作られた半分の木馬、子供部屋に作られた小さな檻――ここには住人の子供が閉じ込められて騒ぎになった――、どこからいつ作ったのか家の下にできた入り口も出口もない地下室を作ったこともあった(用途は不明である)。
とにかく堅牢な家を作る大工が増築したものは、とにかく解体が難しい。どんな重機を使っても、どんな溶解液を使用しても、建築物自体が決して崩れないという意志を持っているかのようである。そして、その建築物は気まぐれに自壊して騒ぎになるのだった。
しばらく、橋は撤去不可能だろう。
読んでいただきありがとうございます☺
読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!
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