直し屋さんの原点
どのお話からでも読める一話完結掌編です。
令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。
箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。
ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。
R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
010. 歪
小さなころから何かを作るのが好きだった。図画工作創意工夫の授業が大の得意で、終了のチャイムが鳴るのも構いなく、好き勝手に何かを作っては教師にため息を吐かせていた。
進学してからは技術増進の授業に執心した。最初はパッケージに忠実に作っていた作品はいつしか改造されて、規定外の機能を持つものに変化した。
異なる素材を切り貼りして形になった時の達成感が好きだった。
自宅では壊れた物を分解して構造を知ることに夢中になる。なにか生み出すこと、何かを直すこと、それらが組み合わさり、マニブス・パルビスという特殊な環境で変異し、直し屋という人間を作り出した。
初めて、猫を直したとき、両親の顔は渋かった。
猫だったものはちゃんと四つ足で歩いていたにもかかわらず、その首は悪戯した犯人に持ち去られてしまったようで、代わりに陣ノ目が作り出した木の首が据えられており、声帯のない猫は首に電子工作で作ったスピーカーを付けざるを得なくなった。
両親に秘密裏に処分されそうになった猫を懐に隠して夜道を走る。逢魔が時は別の世界への入り口だ。すれ違う怪異や化け物の影に身震いする。夜の住人達から隠れるように路地の脇のドラム缶の影に隠れた。
いつの間にか腕の中の猫は息絶えている。今まで二人だったのが急に一人になる。死が笑っているのを感じた。
「陣ノ目」
ふいに少女が名前を呼んだ。
手を差し出したのは幼馴染だった。くせ毛を爆発させたシルエットでそれとすぐにわかる。
「迎えに来た」
抑揚がない声はいつものことで、それでも陣ノ目を元気づけようと言葉を紡ぐ。
「おじさんもおばさんも心配してたよ」
「それは、俺が猫を直したこと?」
陣ノ目の問いに首を横に振った。
「あなたが夕方から出ていっちゃったことに決まっているでしょ」
その返答は真実かどうかわからない。
それでも帰る場所はそこしかなかった。少年は幼馴染と共に猫を埋め、家路を辿った。
読んでいただきありがとうございます☺
読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!
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