迷子の相手をしたら異界へ引きずり込まれた話
どのお話からでも読める一話完結掌編です。
令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区──通称「特区」。そこに出現するモンスターや怪異、怪人たちと、そこに住む住人たちとの奇妙な交流、共存──。
箱庭で起こる不思議なできごと、物騒で理不尽な事件、振り回される人間みたいなものの生活を書いています。
ファンタジーに近い少し不思議な表現があります。
R18に至らない成人向け表現、ゴア表現、欠損描写、グロテスクな内容を時折含みます。(成人向けではない商業小説程度の内容です)
創作家さんに100のお題よりお借りしています。
005. 迷
特区西警備署で一番稼働率が高いのは遺失物捜索課である。課と呼べるほど大きな組織ではなく、その日の班編成の都合上、課と呼んでいるわけだが……。
西地区は比較的治安が良い。南地区ほど閑静ではないが、東地区ほど酷くもない。北地区と比較すると未知エリアの規模などは可愛いものである。そのため、西警備署が扱う事件事故の件数は少数だ。
西地区の住人はそれを暇だと認識しているらしい。昼食に食べるメニューから逃げた飼い猫の行方、たまたま摂取してしまった違法薬物の体内捜索まで、軽いものから重たいものまで、とにかく事件性があるものならばなんでも、西警備署に提供しにきてくれるわけだった。
遺失物課の職員は大量の事案を一つずつ処理していく。新たに入職する署員にとっては最初に経験する業務としてはうってつけだろうか。
その遺失物課に今日は迷子が現れた。
対応したのは若い女の署員だった。む、という唸り声で受付カウンターを見る。奥に座っていた署員にはその姿を見ることができず、入り口に近寄ってカウンターの下方を覗き込むような形になった。
特区に義務教育課程があるならば、その範囲よりも下の年齢に見える子供がいた。血色の悪い青白い肌に灰色の瞳。職員と目が合ってもぼーっと見上げていた。
子供と言えど、依頼を受ける人間である前提で話を聞くように署員は教育を受けている。相手が子供ではないことも、人間でないことも特区では少なくない。丁寧に接するに越したことはないのである。
前者であればクレームが入り、後者に関しては対応を間違えただけで、この世から存在を消される可能性もあった。
「どうされましたか? 一緒に来た人はいる?」
カウンターの外に出て、子供の近くにしゃがみこむ。
外に出たのは悪手であった。
小さな姿をしたそれは、署員の思いもよらぬ力でその襟を掴んだ。
「きゃっ」
思わず声をあげる署員の襟ぐりを掴んだまま、それがオーバーオールのポケットに引きずり込む。女は必死に抵抗したが……。
ばき、という固いものが折れる音がして、それから特区西警備署内は静かになった。
***
「それで、その子供と署員がいっぺんに迷子になったわけだ」
『土御門』と書かれた名札の中年が頭を抱えている。
「私が来たときは佐藤さんはおらずに、防犯カメラを見て発覚しました」
癖毛と寝癖が同時に爆発している、『いばら』と書かれた名札の女がそれに答えた。
「佐藤君は生存していると思う?」
「生存していてもしていなくても遺失物課は動かなければなりません」
受付カウンターの外側、水溜まりのようにも見える半渇きの血糊。そこに指で書かれた文字が並ぶ。
『さがして』
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