上臈蜘蛛は嘘の色にそっと涙する
夜明けの空の色が美しい時は、雨が降ると言う
私に生涯忘れられない愛をくれた泰子センパイが、物憂げな枕から窓の外を見やって、こう呟いたのを思い出す。
その頃の私はまだブラックコーヒーが飲めなくて……センパイに背中から抱きしめられて、“朝のココア”を口移しされ、最初は涙ぐむくらいにビックリしたのに……三口目からは雛鳥の様にセンパイを貪っていた。
「まるで雷鳥になったみたい」
センパイが“平塚らいてうのエピソード”を踏まえておっしゃったのに……私はキョトンとしてしまって、クスクス笑われた。
優しく愛に溢れたセンパイは、その優しさ故に家に順じ男を受け入れ子を成した。
最後まで幼かった私はセンパイに嫉妬と怒りを浴びせ続けて……二人で過ごした日々をすべて台無しにしてしまった。
贖罪などできるはずも無いが、せめて私が愛した子達には優しくありたいと思う。
私は本来、斯様に嫉妬深く執着が強いのだから……
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「アイツの網にかかったら動けなくされ、ゆっくりと捕食されるんだ!」
私の“性癖”を毛嫌いする輩はこう言って、私の事を上臈蜘蛛に例えて蔑む。
すべてを“愛する子”一点に傾けてしまう私だから……そう思われても仕方がないが……
やがて来る“別れ”をいつも覚悟しながら、みっともない愛情を注いでしまうのは止められない。
中途採用で入って来た琴音は“ブラックな”前の勤め先の影響で身も心も疲れ切っていた。
でもその“コークス”の中に封じ込められているダイヤを私だけのものにしたくて脇目も振らず堀り起こして、丹精込めて磨き上げた。
やがてそのダイヤの輝きが人々の目を惹いて……二人だけのカレンダーは、まるで“リバーシ”の様にパタパタと“白”のコマが増えていった。
こんな“ゲーム”の終わりを見たくなくて
私は駄々っ子の様に“盤”をひっくり返し、その事を詰った琴音は踵を返して出ていった。
さようなら私の愛する人
そして、こんにちは
独り寝の長い夜。
私は白いシーツの上に身を投げてピノ・ノワールのシャワーを体に浴びた。
終わり
黄・黒・白・赤と……色を使って書いてみました。
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