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第9話 見回り

 自分たちは慌ててギルドにエレメンタルカートリッジ持ちが一般人を襲う可能性があると連絡を入れる。

 ギルドに連絡を入れ終わると、マイケルが見回りに向かうぞと誘ってきた。

 自分はソードデバイスをカバンに入れたまま持って、マイケルとビルを出る。


「マイケル、あのまま出てきて良かったのか?」


 まだ部屋の中は混乱状態だった。


「あれ以上はどうしようもないだろ?」

「それはそうだけどさ」

「エレメンタルカートリッジを見つけない限り事件は終わらない。探しに行ったほうがいい」

「拠点にいてもエレメンタルカートリッジは見つかりはしないか……」

「ああ」


 納得したため、マイケルと繁華街を歩き始める。

 学生が多い繁華街を歩いているとマイケルがすごい目立つ。


「マイケル、目立っているね」

「ああ、五区なら避けられるくらいで目立たないんだがな。五区で学生服を着ていると目立つフカとは逆だな」


 自分が五区のギルド周りで学生服を着て歩いていると結構目立つが、腰にソードデバイスを大体差しているため目を逸らされて避けられるのが常。


 周囲の人に避けられるマイケルと繁華街をひたすら歩く。


「マイケル、歩いているだけだけど、これって意味あるかな?」

「そういえば言ってなかったな。エレメンタルカートリッジを使うと反応する機械を知っているだろ?」

「警察とか軍が持っている機械か」


 エレメンタルカートリッジは使用すると周囲に過剰なエネルギーを撒き散らす。撒き散らしたエネルギー反応を見つけられる機械があり、警察や軍は機械を使って使用者を見極めている。

 ギルド員は必要のない機械であるため、持っている人はほとんど居ないはず。


「ギルドがあるだけ機械を買い占めて、ギルド員に配っている」

「なるほど。反応があった場所に行けば、エレメンタルカートリッジがあるかもって感じか。だけど相手がエレメンタルカートリッジを使用しないと反応しないんじゃ?」


 エネルギーに反応して見つけ出すもので、動作していないエレメンタルカートリッジには反応しない。


「ああ、なので軍と警察が怪しいところに突入しているらしいとは聞いた」

「それ、ギルド員が街を歩き回る意味あるの?」

「警察は特殊部隊しかエレメンタルカートリッジを持っていないからな、五区は警察や軍と一緒に突入している」


 ギルド員に捜査権はない。

 警察と一緒に居たとしてもギルド員は本来見てるしかできないはず。


「そんな事していいの?」

「緊急事態ということで許されてる。ちなみに五区以外でも怪しいところは警察か軍を呼んで、許可が出れば一緒に突入できるらしいぞ」


 どうやらギルドは汚名返上のため、かなり無茶をやっているようだ。


「ギルドは何をそこまで焦っているんだ?」

「宇宙船にエレメンタルカートリッジは絶対必要だろ?」

「売ってもらえなくなるってこと? でも今回のことで売ってもらえなくなるのは有り得ないんじゃ?」


 エレメンタルカートリッジの使用許可を剥奪して困るのはギルド員だけでなく、宇宙の治安を維持している警察や軍も同じように困ることになる。

 広大な宇宙を飛び回り、細かな雑用から運び屋や傭兵などを請け負っているギルドは宇宙に必要な存在。


「ほぼ無いだろうな。だが、積み重なれば分からん」


 積み重なる。

 国外でエレメンタルカートリッジを売っているギルド員がいるのは周知の事実というのもある。

 国外ではなく、ギルド員が国内でエレメンタルカートリッジを売る不祥事が続けば、ギルド員に対してエレメンタルカートリッジの使用許可剥奪が話し合われるだろう。

 宇宙の治安を考えるとギルド員に対するエレメンタルカートリッジ使用許可剥奪は避けるべき。


「警察と軍も思惑があって、ギルドの汚名返上に協力的になっているのか」

「それもあるが、軍と警察もまた失敗していて焦っている。デバイス付きのエレメンタルカートリッジを三区まで入れてしまったからな」


 区画の移動はスペースコロニーを支える柱の中を通る関係上、不審者を見つけやすい構造になっている。移動人数が多いため、止めて持ち物を確認することはないが、許可証の有無や荷物のスキャンはされている。

 違反者がいれば道路が閉鎖され連行される仕組み。


「軍と警察も事前にエレメンタルカートリッジを見つけられずに焦っているのか」

「ああ、そのため特例の協力体制でコロニー全体の大捜索が起こっている」


 コロニー全体の大捜索。

 三区の繁華街はいつも通りと言いたいが、マイケルのように普段は見かけない人物を見かける。


「捜索は三区の繁華街も例外ではないか」

「三区のいつもを知らないが、五区に比べたら平和だな」


 繁華街は学校帰りの学生が練り歩いている。


「自分も繁華街は滅多にこないけど、たまにくるのと学生の数は変わらなそう」

「注意情報がでているんだがな」

「五区と違う意味で危機感ないから。注意情報出ているのを知らないんじゃ?」

「そんなものか」


 惑星などと違いコロニーは天災が無いため、注意情報を見る癖があまりない。五区だと酸素濃度の注意情報などが出るが、三区は注意情報が出ていることを見たことがない。


 マイケルと喋りながら繁華街を歩いていると、自分たちの捜索範囲がどの程度なのか聞いてないことに気づく。


「マイケル、捜索範囲ってどうしているの?」

「他のギルド員とすり合わせているが、かなり広範囲になっている。範囲を記録した地図を送る」


 マイケルから送られてきた地図を見て驚く。

 繁華街を中心に3キロ四方に範囲が指定されている。


「広くない?」

「広範囲と言ったろ。地道にやるしかないな」


 広いコロニーに対してギルド員の数には限りがある。

 ある程度は覚悟していたが、コロニーを探すとなるとこんな広さを探す羽目になるのか。歩いているだけじゃいつまで経ってもエレメンタルカートリッジを探し出せないと気づく。


「怪しい場所に警察呼んで、中を捜索するのを繰り返さないと終わらないんじゃ……?」

「フカもデイビットと同じ意見か。手間がかかるので、できればやりたくなかったんだが」

「自分もやりたくはないけどさ」

「仕方ない、やるか」


 マイケルはやりたくなさそうだったが、渋々同意してくれた。


「マイケル、裏通りの怪しい場所を警察に連絡するってのはどう?」

「表通りを歩いていても効率が悪いか」


 方針が決まったことで裏通りを歩いて探してみる。

 しかし、意外に怪しそうな場所は見つからない。


「フカ、怪しい場所を知らないのか? 三区に住んでるんだろ」

「そう言われてもな。これでも真面目な学生をやっているから、変な場所には出入りしていない」


 これでも学校では真面目で通っている。

 品行方正であった方が学校では目立たないのだ。


「真面目な奴はギルド員になって五区に出入りしない」

「そこを突かれると痛いな」


 実際のところは真面目でもなんでもないのは自覚している。


 マイケルと雑談しながら裏通りを歩いていると、ビルから不良ぽい人が出てきてこちらを睨みつけてきた。

 自分とマイケルが喋っているのがうるさかったのだろうか?

 なんにせよ都合がいい。ビルの場所をマーカーしながら素通りする。


「フカ、どうする?」

「拠点に残っている人に連絡して、ビルの使用目的を調べてもらうかな」


 地図につけたマーカーからビルを特定。

 情報を整理している四人に連絡をとってビルを調べてもらう。

 ソフィアからすぐに連絡があり、調べた結果少しだけ怪しいという。警察を呼んで一緒にビルに入ることになる。


「お待たせしました。冒険者ギルドの方ですか?」

「ああ、俺とこいつだ」


 警察官がマイケルに話しかける。

 自分は学生服を着ているためギルド員だと思われなかったようだ。どちらがギルド員に見るかといわれると、自分でもマイケルをギルド員だと思う。


「失礼ですが、学生ですよね?」

「三区第一高等学院の生徒です。ギルド員もしています」

「第一とは優秀なんですね」


 ギルド員であることより第一高等学院に通っていることに驚かれ困惑する。

 第一高等学院はギフトと呼ばれる特殊能力を持った生徒が通う学校であり、他の学校と比べると優秀だという印象がある。

 関係ない話をしていても仕方がないので、怪しいビルに向かうことにする。


「行きましょうか」

「分かりました」


 自分はカバンに入れていたソードデバイスを取り出すと腰に差していつでも抜けるようにする。戦闘準備ができた後、エレメンタルカートリッジを持っていない警察官を自分とマイケルで挟み、ビルまで護衛するように歩いていく。

 ビルの前に不良ぽい男はまだいた。


「警察です。中を改めさせて頂きます」

「警察? 急に何だ? 令状はあるのか?」


 男は立て続けに質問を重ねる。


「現在武装した不審者が確認されています。一時的にコロニー全体が警戒体制となっており、特例で令状なしで捜査できるようになっています」

「は? 特例とかあり得ねえ。そもそもうちは武装した不審者とか関係ない」

「関係ないと証明するため、中を改めさせて頂けますでしょうか」


 三区の警察官のためかとても丁寧に対応している。

 しかし、男はビルの中に入れさせる気は無いようで、何とかして追い返そうとしているのが自分にも分かる。広範囲を探索する必要があるのに、一件に時間をかけていては永遠に終わらない。

 自分がマイケルに視線を送ると、マイケルが頷いた。話し合いではなく強行する。

 自分とマイケルが殺気を飛ばしながら警察官の前に出る。


「な、なんだよ」


 強がっているが、男は完全に腰が引けている。


「いいから中に入れろ、すぐ終わらせるから」


 男はマイケルに威圧されているようで、マイケルが男に話しかける。

 威圧されている間にビルの中に入ろうとするが、肩を掴まれる。


「おい、勝手に入るんじゃねえ!」


 パワードスーツの出力を上げ、無視して男を引きずるように室内に入っていく。


「どうなってんだこれ! 止まれこのやろう!」


 男が殴りかかってきた。

 殴ってきた拳を受け止め、関節を極めつつ男を壁に向かって投げる。

 室内に居た人たちが気づいて騒ぎ出す。


「テメェ! 何してやがる!」


 殴りかかってきた男をマイケルが拳をいなした後、首根っこを掴んで壁に向かって投げる。


「大人しくしてればすぐに終わります」


 大人しくはしてくれないだろうなと思いながら一応話しかけてみる。

 予想通りに話を聞くはずもなく、自分とマイケルに室内にいた男たちが向かってくる。向かってくるのは全部痛めつけた後、警察と家捜しし始める。しかし、向かってくる時に銃すら出してこなかったので期待していない。


「ここはハズレぽいな」

「だろうな」


 それでも小一時間ほど探してみたが、違法ディスクが出てきた程度。エレメンタルカートリッジどころか、まともな武器もなかった。


「どうします? この違法ディスク」

「警察で回収します。普通なら逮捕するのですが、今回は無しです」

「逮捕しないんですか?」

「既に五区は留置場が溢れているらしく、重大犯罪でなければ厳重注意で終わっていいと言われています」


 納得というか驚きというか、五区は既に留置場が溢れているとは……。

 五区は大荒れだろう、当分近づきたくないな。


「分かりました。それじゃ、代表者ぽいの連れてくるんで」

「ありがとうございます」


 それっぽいのを連れてきて、マイケルに睨んでおくように言う。自分は周りを警戒しつつ、ソフィアに空振りだったと連絡を入れる。

 警察の注意を終わったところで一緒に表に出る。


「ご協力ありがとうございました」

「いや、ギルドこちらこそ助かった」


 自分は警察官が前に出過ぎていたことが気になる。


「失礼ですが、今回の事件中は我々より前に出ないようにしたほうがいいですよ」

「我々は警察官で全てをお任せするわけには行きません」


 職務に忠実な警察官のようだ。


「相手は薬で判断が悪くなった上に、デバイスにエレメンタルカートリッジを付けた武装状態です。エレメンタルカートリッジを装備していない警察官が前に出るのは危険です」

「薬ですか?」


 軍はまだ警察に薬の情報を回していないのか。

 本来軍から伝えるべきことだろうが、人命優先で今伝えたほうがいいか。


「最初に捕まった男が薬で記憶を読み取れなくしていたようです」

「記憶を読み取れなくする薬ですか」

「ええ、薬には副作用があるようで、判断能力が低下しています。エレメンタルカートリッジを急に使用してくる可能性があります」


 可能性だと前置きした後、副作用を知らずに飲んでいた場合、エレメンタルカートリッジを持っている全員が薬を飲んでいるかもしれないと伝える。

 自分の話を聞いて警察官は絶句している。

 警察官は顔を白くして警察内で情報を共有すると言う。


「警告ありがとうございます」

「いえ、何かあればギルドに連絡をください」

「了解しました」


 改めてお礼を言ってきた警察官と別れ、自分とマイケルはまた怪しそうな場所をあてもなく探す。

 あてもなく歩き続けて気付く、警察の捜査に呼ばれた方が早いんじゃないかと。


「怪しい場所って警察の方が知っているんじゃ……?」

「……そうだな」


 無駄に歩き続ける必要はなかった?


「五区の警察は怪しい場所に突入して捜査しているって言ってたけど、同じような捜査を三区もやらないのかな?」

「わからんな。情報収集組にでも聞いてみたらどうだ?」


 その手があったか。

 自分は先ほど対応してくれたのがソフィアだったので、連絡を入れ質問してみる。しばらくすると直接電話がかかってきた。


『ギルドに聞いてみたのだけど、警察は上手く機能していないみたい。五区以外の区は混乱状態らしいの。五区の警察が突入しての捜査に慣れすぎているだけみたい』


 確かに五区の警察は日常的に突入している印象がある。


「五区が例外なのはわかった。三区の警察が上手く機能するようになるのはいつ頃か聞いてる?」

『予想ができないようね。早ければ明日だけど、遅ければもっと遅いって』

「早いと嬉しいけど、遅くなるほど探す時間がどんどん伸びていきそうだ」


 地道な捜査を何ヶ月もやりたくはない。


『ギルドも最低でも一ヶ月は覚悟しているらしいわよ』

「最低でもって、どれだけの長期間を想定しているんだ……」

『見つかるまでね』

「勘弁してほしいな……。ソフィア、他に情報は?」

『今はないわ』

「わかった、また何かあったら連絡する」


 ソフィアとの連絡を終え、マイケルに聞いた話を伝える。


「つまり今は地道に探すしか無いのか」


 マイケルがため息をつく。

 三区の無駄に平和な路地裏で自分とマイケルは立ち尽くす。


「そういえば、突入して捜査していないなら、さっきの警察官に怪しい場所聞いておけばよかったな」

「そう言えばそうだな」


 今更どうしようもなく、自分とマイケルは何とも言えない気分で繁華街の路地裏を再び歩き出す。

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