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第8話 三区の拠点

 三人で車に乗ると、スクアーロが運転席に座る。

 スクアーロが自らハンドルを握って運転する。自分はデイビットに今から向かうとメールで連絡する。

 自分が連絡をとっている間、スクアーロとミヤルが会話を始めた。


「拠点、近いな」

「僕らのために近場にしてくれたんじゃないの?」

「俺は遠くてもよかったんだが」

「それは運転したいだけでしょ……」

「その通りだ」


 スクアーロは当たり前のように同意している。

 デイビットへの連絡が終わったため顔を上げると、ミヤルが呆れた顔で運転席のスクアーロを見ている。


「ミヤルいつものことだろ、気にするな」

「それもそうだね……」


 スクアーロの運転好きはどうでもいい。

 それより今は今日の捜査。自分の端末に三区の地図を出す。


「改めてコロニーの地図を見ると絶望しそうになるな。拠点から探すとして、どう捜査するか……」

「三区だけでも相当広いからね……」


 自分たちの住んでいるスペースコロニーは、円柱に穴が空いている中空のコロニー。コロニーの中は5層の区画に分けられている。

 一番外側の層が一区と呼ばれ、中心に近づくほど二、三、四、五と数が増えていく。中空の穴がコロニーの港となっており、宇宙船に乗るための桟橋がかけられている。

 各層をつなぐのはコロニーを支える柱で、全ての層を貫く柱の中が道路になっている。


「三区は学校とか研究機関が多いから一個の敷地が大きいからまだいい。二区は住宅地で大変だ」

「フカ、二区も五区に比べたら、一個の家が大きいからまだいいよ」


 五区には一軒家という贅沢な環境はなく、コロニーの天井まである巨大なビル群が住居となっている。


「もしかして、五区のビルを一棟ずつ回るのか?」

「やるんだと思うよ」

「そんなこと出来るのか?」


 自分だったら絶対にやりたくない。


「軍を投入して一気にやるんじゃないかな」

「五区はすごいことになりそうだ……」


 五区は港と繋がっているため、スペースコロニーへ入るパスが必要ない。

 そのため五区は港と同様にスペースコロニーの行政から外側と認識されており、他の区と違って法律が緩い。スラムに近い状態になっている場所も有って、治安がかなり悪い場所も存在する。

 冒険者ギルドも五区にあるのだが、治安のいい場所にあるとは言い難い。


 それと同時に五区は港と隣接しているため、企業は五区に工場だとか輸出前の倉庫が必要になる。工場や倉庫は土地が必要になるが、土地が足りないため超高層ビルが乱立する状況になっている。

 建っているビルはスペースコロニーの法に則って立っているらしいのだが、五区の天井まであるビルは本当に法を守っているのだろうか……。


「五区の治安が一時的に絶対悪くなるよ」

「なるだろうな。しかし、五区を捜索すると想像するだけで恐ろしい」


 たった四個のエレメンタルカートリッジを探し出すため、軍とギルド員が戦闘用の装備で五区を探し回る。五区は大荒れになるのが目に見えている。

 ちなみに五区に比べて港の方が安全だったりする。港は軍の管轄で、常に兵士が巡回しており、変なことをすればフル装備の軍人が大量に突入してくる。

 港は荒っぽい人たちも大人しくしている。


「僕たち三区の担当で良かったと思わない?」

「ああ、三区でよかった」


 話していると車の速度が落ちる。

 スクアーロがこちらに声をかけてくる。


「二人とも拠点にそろそろ着く」

「わかった」


 拠点は学校から一番近い繁華街の中にあるため本当に近い。

 拠点に着く前に荷物を整理する。持っていく必要のない鞄は車に置いていき、武器のソードデバイスが入っている細長い鞄だけを手にもつ。


「ソードデバイスを鞄で持つのは邪魔だな、腰に差しておければ楽なんだが」

「確かに。僕たち部活しているわけでも無いから、こんな大きもの持っているの違和感あるんだよね」

「そうなんだよな……」


 剣は鞘に入っており、生体認証がなければ抜けないようにしてある。しかし、鞘に入った剣の状態でも学校で見つかれば何だこれはと大騒ぎになるだろう。

 悩んでいると、ミヤルが提案してくる。


「学校終わりに寮に取りに行く?」

「いや、個人ロッカー開けた上で、カバンの中見てくるやつは居ないと思う。今のままでいいんじゃないか?」


 自分たちが通っている学校は個人にロッカーが貸し出されている。ロッカーは4桁の数字を入れる鍵で、ないよりはいいという程度。

 自分たち三人は数字を共通にしており、お互いのロッカーの位置を把握いる。


「最悪先生に誤魔化してもらうしかないかな」

「そうだな」


 剣術大会があるとかで誤魔化せるだろ……多分。

 車が停止して運転席のスクアーロが振り返る。


「到着。フカ、何階?」

「3階を貸し切っているらしい」


 自分たち三人は車を降りて、ビルの中に入っていく。

 3階でインターホンを鳴らと、ソフィアさんらしき声がスピーカーから聞こえる。


『ドアの鍵を開けたから入って』


 声と同時に鍵が開けられる音がする。

 ドアを開けて部屋に入ると、機械が色々と設置してある。

 ソフィアは椅子に座って机で作業している。


「ソフィア、随分と機械が多いな」

「二区と三区の情報が此処に集まっているの。私たちだけじゃどうしようもないから、大半は機械任せよ」

「そういうことか」

「襲撃に備えて監視カメラも用意している。モニターに写っているのがそう」


 ソフィアが指差す方向を見ると、仮想ディスプレイの普及により普段あまり見ない、投影式のモニターが用意されている。写っているのは通りだったり、今いるビルの周辺が写されているようだ。


「まだ機材の設定をオリバーとオリビアがやっているの、ミヤルも設定を手伝ってもらえる?」

「わかった」


 ソフィアから拠点の鍵を配られる。


「デイビットとマイケルはもうすぐ戻るらしいから、もう少し待機していて」

「了解。ところで自分たちのために近場にしてくれたの?」

「いえ、オリビアの趣味よ」

「え、趣味?」

「ええ、窓から広告が見えるかしら」


 ソフィアに言われて窓から外を見ると、ビルの壁面に広告を表示している投影式のモニターが見える。

 モニターにはアクーラさんが表示されている。


「アクーラさんがモデルしている広告?」

「アクーラを知っているのね。私は知らなかったのだけれど、オリビアがファンらしいの」

「そうなんだ」


 ギルド関係の知り合いでアクーラさんのファンがいるとは思っていなかっため、ちょっと驚く。


「詳しく聞きたい場合は、オリビアに聞いてちょうだい」

「うん」


 アクーラさんはクラスメイトのため。どう対応すればいいか困る。

 しかもこの後話す内容的に、アクーラさんの名前が出てくる。

 どうしようか……?


「ふふふ、良いでしょう。私がアクーラについて詳しく話しましょう!」


 奥で作業していた筈のオリビアがいつの間にか隣にいる。

 小柄なオリビアはメガネをかけた女性。視力の治療は簡単にできるため、オリビアはメガネをファッションとしてかけている。

 オリビアの見た目は地味に見えるが、性格は全く地味ではない。


「え、いや、いいよ」

「アクーラは動画配信だったり、自身の写真をSNSに上げることで有名になりました。以前は同世代からの支持が多かったのですが、2年ほど前からモデルの仕事も始め、現在は幅広い世代から支持されています」


 オリビアは自分の断ったことを聞いていないようで、アクーラさんのこと語り始める。

 困ってソフィアを見ると、頭を抱えている。止まらないやつだと理解する。


「私は配信初期から追っている結構な古参なのですが、可愛いからきれいに変わっていくアクーラを応援しているのです。まだ高等部ですから、彼女はもっときれいになっていきますよ」


 オリビアが止まらない。


「今回の仕事で三区か二区で拠点を作ると聞いて、アクーラが出ている広告がよく見えるこのビルを私がピックアップしたのです!」


 止まらないオリビア、自分たちは唖然と眺めているしかない。


「ちなみにあの広告ですが……」


 自分たちが止められない中、オリバーが近づいてきてオリビアの肩を叩く。

 オリバーはオリビアの兄であるため、背丈は違うがよく似ている。


「オリビア、何をしている?」

「あ、オリバー」


 肩を叩かれたオリビアの顔が引き攣っている。


「そ、そのアクーラについて知りたいとのことで、説明を……」

「オリビア、アクーラが好きなのはいいが、人一倍頑張るからこの場所がいいとお願いしたのはオリビアだったろ」

「うっ」

「ほら、作業に戻るぞ」


 オリビアがオリバーに連れられて部屋の奥に戻ろうとしたところで、ソフィアが声をかける。


「待ってオリバー。そろそろデイビットとマイケルが戻ってくるから、先にフカたちの話を聞きましょう」

「わかった。なら飲み物でも持ってこよう」


 オリバーはオリビアを連れて飲み物を取りに行く。

 オリバーが飲み物を持って戻ってきたところで、部屋の扉が開いてデイビットとマイケルが部屋に入ってきた。


「戻った。オリバー、その飲み物をくれ」


 オリバーが疲れた様子のデイビットに手に持っていた飲み物を渡す。


「マイケルもよかったら」

「ありがとう」


 デイビットは一気に飲み干すように飲み、マイケルはゆっくりと飲む。


「あー……飲み物が沁みる。宇宙船乗ってばかりだと運動不足だな」

「少しは運動したほうがいいぞ」

「マイケルほどはしていないだろうが、やっているつもりなんだがな」


 デイビットは飲み物を一本空けた後、おかわりをもらったところで落ち着いた様子。

 皆で話し合いをするため部屋にある椅子を持ち寄って、機材で埋もれた部屋の片隅に集まる。


「フカ、話があるんだって?」

「ああ、ミヤルとスクアーロに一昨日の事件のことを話したんだが、違和感を覚えることがあって相談したい」

「昨日、少し聞いた記憶はあるが、詳しくは聞いていないな。エレメンタルカートリッジを流出させたジャン捕まえて、流出した物を見つけるためにどう動くかを重要視してたから仕方ないが……」


 昨日はギルドからエレメンタルカートリッジが流出したことが衝撃で、自分だけでなくギルド全体が慌てていた気がする。

 一昨日の夜起きたことを最初から話していく。


「ギルドの仕事が終わって、学生寮の前まで来ると言い争っている声が聞こえたんだ。様子を見るとクラスメイトのアクーラさんが——」

「アクーラ!」


 自分が話し始めて、アクーラさんの名前を出したところで、オリビアが叫ぶ。


「オリビア、話が進まないから全部終わってからだ」

「はぁい」


 オリビアは不満そうだが、チームのリーダーであるデイビットの言うことを聞いた。

 オリビアが黙ったところで続きを話す。


「アクーラさんが不良ぽい男にこれから遊ぼうよと声をかけられており、経緯はよくわかりませんでしたが、知名度があるアクーラさんなのでその時点で警察に通報」


 この時点までは警察で十分に対処できる問題だと思っていた。


「警察に通報後、パワードスーツの出力を上げた状態で二人の間に入って、アクーラさんから男を遠ざけつつ話を試みました。自分は落ち着くように説得したのですが、男は逆に興奮していきました」


 この時は取り出しても刃物程度だと考えていた。


「興奮した男は懐からナイフデバイスを取り出しました。取り出した時点ではエレメンタルカートリッジからデバイスにエネルギーが供給されておらず、エネルギーが供給される前にナイフデバイス毎手を蹴飛ばして取り押さえました。後で分かったのですが男はパワードスーツを着ていませんでした」


 自分はパワードスーツを着ていたが、武器は持っていなかったため、本当に運が良かった。


「最初、男は軍の関係者だと思っていたが、言っていることに違和感があり、男にエレメンタルカートリッジが違法品なのかと問うと黙りました。その時点で違法品だと判断して、軍に連絡してMPを派遣してもらいました」


 MPが来る前に警察が到着して男が逃げようと騒いだこと、MP到着して顔面を蒼白にして大人しく拘束されたことを話す。


「以上です」

「フカ、よくアクーラをよく守った!」


 真っ先に反応したのはオリビアだった。


「今はそうじゃない!」


 デイビットとオリバーが息を合わせてオリビアに突っ込む。

 チームのリーダーは大変だな。

 デイビットがため息をついてから視線をこちらに向ける。


「フカ、何が疑問なんだ?」

「男は何で学生相手にナイフデバイスを取り出したんだと思う?」

「あ? あーそういやフカがギルド員だったから違和感なかったが、言われると変だな?」


 そう、自分がたまたまエレメンタルカートリッジを知っている相手なだけ。


「普通の学生を脅すだけなら、小型のナイフで十分。普通のナイフなら職質受けても問題にはならない」

「確かにな。三区にまでデバイス込みでエレメンタルカートリッジ持ち込めるような奴が何でそんなことするんだ? 犯罪組織の場合、ここぞと言う時に使うもんだろ」

「違法品だと知らずに偶然手に入れた個人なら分かるけど、男は違法品であることを理解している様子だった」

「中途半端に知ってた個人か?」


 自分とデイビットが話していると、ソフィアが話に入ってくる。


「私の方で軍に探りを入れてみたんだけど」

「今回は共同で動くから、探る必要はないと言っていなかったか?」

「そのつもりだったのだけど、捜査を始めてから軍の動きが変だと気づいてしまったのよ」


 軍の動きがどう変だったのか気になる。


「軍の動きはどう変だったんです?」

「かなり広範囲を当てもなく探し続けているのよ。エレメンタルカートリッジを持っていた男を捕まえているのによ?」

「確かにそれは変だ。エレメンタルカートリッジの犯罪なら記憶を覗くはず」

「ええ。変だと思ってツテを使って調べたのだけど、捕まった男の記憶がうまく読めないらしいの」


 記憶を読み込めなくする?

 自分もそこまで詳しくはないが、生きている限りは記憶を読み取る機械だったはず。少なくとも男は生きていた。

 どうやってやるのだろうか……そもそも可能なのか?


「そんなことが可能なんですか?」

「ええ……薬でやれないことはなくも無いらしいのだけれど、後遺症が残る可能性が高いらしいのよ」

「薬は個人で入手可能?」

「無理ね。犯罪組織でも手に入れるのも難しいほどのものよ」


 記憶を読み取れなくする薬か……。

 機械の機能を考えると、飲んだ者の記憶が曖昧にならないか?


「ちなみに後遺症はどんな感じ?」

「軍でも詳しい人は居ないみたいなのだけれど、少なくとも記憶が混濁してまともな判断ができなくなるようね」


 男の変な行動の説明がつくようになる。しかし、記憶が読めなくしても、ナイフデバイス振り回したら意味が無いだろ……。


「男の行動を考えると薬を使っている可能性が高そうだけど、後遺症を考えるとエレメンタルカートリッジを持っている人に飲ませる物ではないきが……。

「ええ。運び終わった後に飲むならまだしも、持っている状態で飲ませる物ではない」


 運び屋が運んだ後に飲むのなら意味があるが、現行犯で捕まってしまっては意味がない。


「知らなかったのかもな」


 デイビットが呟く。


「というと?」

「そのままの意味だ。薬の副作用を知らなかったんじゃ無いか?」

「記憶を読み取れなくするだけの便利な薬だと思ったと?」

「ああ、でなければ使わんだろ、そんな危ない物」


 確かにデイビットの言うとおり、副作用を知らないで薬を使った可能性はある。

 エレメンタルカートリッジを手に入れた組織が存在を隠すために薬を用意したが、副作用を知らなかった可能性がある。


「でも、エレメンタルカートリッジを三区に持ってこられるくらいの組織が、事前の確認なしに怪しい薬を使うか?

「確かに言われてみると変だな。これじゃ堂々巡りだ……」


 デイビットがオーバーなリアクションで手をあげて、わからないと降参する。


「デイビット、答えは出さないで情報として書き込んでおきましょう」

「それもそうだな。根本的に情報が足りなさそうだ」


 出てきた情報を皆でまとめ上げていると、聞き役に徹していたマイケルが口をひらく。


「おい、デイビット」

「なんだ?」

「薬でバカになったやつが捕まったってことは、他のエレメンタルカートリッジを持っているやつも薬でバカになっている可能性がないか?」


 マイケルの言う通りだとすると、自分がされたように一般人に向けてデバイスを振り回す可能性があることを理解する。

 自分は顔が強張っていく自覚がある。

 皆の反応を見ると、自分と同じように顔を強張らせている。


「最悪だ」


 誰ともなく呟いた言葉に皆が同意する。

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