第7話 注意情報
今日もまた早めに学校へ向かう。
教室に入ると自分以上に早くきていたミヤルとスクアーロがいた。挨拶して二人の近くに座る。
「二人ともさすがに早いな」
「フカこそ早いね」
「早く起きてしまったのもあるが、流出品のことで寝つきが悪かった」
ミヤルが同じだと言いながら頷く。
スクアーロは珍しくゲームをやっていない。
「ところで昨日の連絡は問題なかった?」
ミヤルとスクアーロが頷く。
「ああ、僕は問題ないよ」
「俺も問題なし」
学校でギルドについて詳しい話ができない。
どう話したものかと考えていると、自分の端末に注意情報の通知がくる。
内容は武装した人物が暴れる可能性があるため、外出時は注意するようにと言うもの。
「これは……」
「どうした?」
「注意情報の通知来なかったか?」
ミヤルとスクアーロが端末を見ると、スクアーロが小声で話し始める。
「これ、五区でたまに出る注意情報。特定の軍人とかギルド員が暴れると出るらしい」
「よく知っているな」
「ギルドでゲームやっていると時々でるんだ。通知が邪魔だってギルドのゲーム仲間に相談したら、どう言う時に出るか教えてくれて、注意は通知が出ないようにしとけば良いと教わった。それと警告は逃げるようにとも言われた」
スクアーロらしい理由で知っており苦笑する。
五区で軍人だったりギルド員が暴れると出ると言うことは、エレメンタルカートリッジについての注意なのだろう。
注意も逃げた方が良くないかと思うが、危険な状況に敏感なギルド員が即座に逃げ出さないということは、喧嘩程度でも出るような注意なのだろう。
周囲に聞こえないよう小声で話していると、アクーラさんとサンオさんが近づいてくるのに気づく。
「フカくん、おはよう」
「おはよう。アクーラさん」
「フカくん、さっき注意情報の通知が来たんだけどこれって……」
アクーラさんは不安そうな表情で尋ねてくる。
サンオさんがアクーラさんの隣に居る上、学校の教室という非常に答えにくい場所でどう伝えたらいだろうかと悩む。
エレメンタルカートリッジについてはぼやかして伝えてみる。
「一昨日の件と関係している注意情報だよ」
「関係あるんだ……」
アクーラさんの表情が曇る。
「注意情報に書かれている通り、用事がないなら外はあんまり出ない方がいいかな」
「分かった。ところでフカくんはどうするの?」
「自分はギルドのバイトが入っていて外に出る予定」
黙って話を聞いていたサンオさんが一歩前に出る。
「失礼。フカさん、質問してもよりしくて?」
「自分に答えられることなら」
「今回のことはギルドが関係しているんですの?」
サンオさんはアクーラさんから何か聞いたか?
エレメンタルカートリッジについてサンオさんの家なら知っていても不思議ではない。知っているからと言って、はいそうですとは返事できないのだが……。
「自分はバイトなので、今回のこととギルドが関係あるかは聞かされていない」
「いえ、フカさんは正規のギルド員ですわね」
なんで気づかれた?
やばいと思いつつ、焦りを表情に出さないよう意識する。
「いやいや、仮登録だよ。高等部で正規のギルド員になれるわけないだろ?」
「私も昨日アクーラから話を聞くまで、高等部で正規のギルド員になれないと思っておりました。ですがアクーラから聞きました、フカさんが例の物を装備していたと」
顔が引き攣る自覚がある。
エレメンタルカートリッジの使用許可が正規のギルド員しか出ないと知っているようだ。
騙すのは無理そうだ。両手を小さく上げて降参する。
「降参。その通りだよ、よく知っているね」
「うちの商社が例の物を取り扱っていますの。必要な知識として教えられておりますわ」
サンオさんの実家でエレメンタルカートリッジを取り扱っているのか。
「そう言うことか。校内だったら知っている人いないと思ってたよ。注意しているつもりだったんだけどな……」
「暴いてしまったのは申し訳ありませんが、物が悪すぎますわ。それでギルドは関係あるんですの?」
調べれば出てくるだろうし、ギルドから流出したものでアクーラさんが危険な目に遭っている。引け目もあって、ギルドからの流出品だと教える。
「今回の物はギルドからの流出品だよ」
「そんな……ギルド員であれば、国外で売れば捕まりませんのに」
サンオさんはギルドについて本当によく知っている。
「昨日、ギルドで流したやつを捕まえたんだけど、少し前に船を大破させたらしくてね」
「それでお金に困ってコロニーの中で売ったと?」
「その通り」
自分が同意すると、サンオさんがため息をつく。
「馬鹿なことを」
サンオさんが目を伏せてもう一度ため息をついた後、こちらをみる。
「流出した数はわかっているんですの?」
「全部で流出したのは五個。一個減って、残りは四個。ただし全部デバイスとセット」
「最悪ですわね」
サンオさんが三度のため息をつく。
ギルドから流出したものでアクーラさんは被害にあっている。
自分が正規のギルド員だと知られてしまった以上、謝っておくべきだろう。
「アクーラさん、ギルドの不手際で怖い思いをさせてしまって申し訳ない」
「謝らないで、フカくんが悪いわけじゃないのはわかっている。それに、助けてくれたのはフカくんだよ」
「そう言ってもらえると助かる」
「それに、ミヤルくんとスクアーロくんが居るところで、フカくんがギルド員だってこと問い詰めちゃったから……」
アクーラさんが申し訳なさそうにしている。
サンオさんもエレメンタルカートリッジでなければ問い詰めなかっただろう。アクーラさんが謝ると、サンオさんが自分を見てバツが悪そうな表情を浮かべている。
自分がミヤルとスクアーロに顔を向けると、二人が肩をすくめた。
「アクーラさん、僕とスクアーロも正規のギルド員。フカと同僚だよ」
「えっ」
ミヤルがギルド員であることを話してしまう。
「ミヤル、俺まで教える必要ないだろ?」
「教える必要がないって、そもそもスクアーロは調べれば出てくるだろ?」
「ぐっ……」
スクアーロはミヤルに言い返せない。
「あら調べれば出てくるんですの?」
「レースに出た時、経歴に書いたら選手紹介に書かれてしまった」
サンオさんに聞かれたスクアーロはガックリと項垂れながら説明した。
スクアーロはレースに出てる関係で経歴を主催者に伝えることが多く、ギルド員であることを伝えてエントリーしてしまったことがある。ギルド員であることを主催者に伝えるのは問題ないのだが、出場レースによっては出場選手の経歴が書かれる。
レースの出場選手一覧を見た時、スクアーロの経歴にギルド員と書かれていて、三人で顔を真っ青にして慌てたことがある。幸いなことにレースはそこまで注目を浴びるレースではなかった。
学校内で噂になることもなかったので、おそらく誰にも知られることなくレースは終わった。
しかし、公式の情報自体は残っており、調べるとギルド員と出てくる状態になっている。
スクアーロのとんでもないやらかしもあって、三人の中でギルド員だと最初に気づかれるのはスクアーロだと考えていた。
しかし、実際には自分が先にギルド員だと気づかれてしまったか……。
「サーキットで走っているとは聞きましたが、レースにも出てるんですの」
「俺がサーキットで走っていると誰かから聞いたのか?」
「ええ、フカさんから聞きましたわ」
「フカから?」
スクアーロから何でという視線を感じる。
「昨日アクーラさんとサンオさんを寮まで送ったんだが、いつもの車を使ったらレース仕様だってサンオさんが気づいたんだ」
「車体に補強が入っているから気づく人はいるか」
「サンオさんもサーキットで走っているらしく詳しいみたいだ」
「サンオさんが?」
スクアーロがサンオさんを見て驚いている。
自分同様に、スクアーロも財閥令嬢のサンオさんがサーキットで車を走らせているとは思わなかったようだ。
「サンオさんが同じ趣味だとは思わなかった」
「私もクラスで同じ趣味の人がいるとは思いませんでしたわ」
自分たちはスクアーロの経歴がレースの情報に載ってしまったこともあって、クラスメイトでレースに興味がある人はいないと思っていた。
「スクアーロさん、次にサーキットを借りたときにはお誘いしても?」
「もちろん」
サンオさんとスクアーロの会話を聞きながら、そう言えば一区のサーキット借りられたらサンオさんを誘うと話したのを思い出す。
「そういやスクアーロ、一区のサーキットって借りる予定あったりするのか?」
「一区のは少し先だが予約してある」
「サンオさんも走ってみたいらしくて、誘ったが良かったか?」
「ああ、走るメンバーは少ないから問題ない」
サンオさんがスクアーロの返事を聞いて、一歩スクアーロに近づく。
「本当ですのっ」
スクアーロはサンオさんの勢いに押され気味。
「あ、ああ」
「一区のサーキットで走れますのっ」
「日付と車の搬入方法は今度連絡するよ」
「分かりましたわ」
サンオさんとスクアーロが連絡先を交換している。
「俺以外にそこまでサーキットで走るのが好きな人がいるとは思わなかったよ」
「一区のサーキットは借りられませんから、走るのが夢でしたの」
「同じく一区のサーキットで走るのが夢で、借りられるように努力した」
スクアーロとサンオさんは趣味が同じということで会話が弾んでいる。
「どうやってサーキットを借りたか聞いても?」
「詳しくは言えないけど、ギルドの仕事を頑張った」
「そうなのですね」
五人で喋っていると、結構な時間が経ったようで教室に人が増えてきた。
このまま会話を続けていると、色々と聞かれてしまいそうだ。
「人が増えてきた。話はまた今度にしようか。自分たちがギルド員であることは無理に隠す必要はないけど、できるだけ秘密にしといてくれると嬉しい」
「フカくん、ギルドについては言わないようにするね」
「ありがとう、アクーラさん。できる範囲で構わないのでお願いします」
口止めした後、皆と別れて自分の机に向かう。
授業の準備を終わらせても、微妙に時間が余った。
ギルドからの連絡とデイビットからの連絡を確認していく。
ギルドからは現状わかっていることが細かに報告されている。量が多いため、今は全部読む時間がない。
次にデイビットからの連絡を確認すると、二区と三区の情報網を構築したと報告がきている。
ギルドからセキュリティのしっかりしたサーバを借り、中に総合的な管理システムを用意したとのこと。何か情報があった場合は、サーバに書き込んでくれと連絡が来ている。
デイビットからの報告を読んでいると授業が始まる。
授業の合間に情報を読み込んでいき、昼休みになったのでミヤルとスクアーロを昼食に誘う。
購買で適当に昼食を買って、人が少ないところで食べる。
「二人ともギルドとデイビットからの情報見てる?」
「僕はみてるよ。スクアーロは見てるかい?」
「流石に見てる。こんな時までゲームやらない」
スクアーロならこんな時でもゲームやってそうだとちょっと心配していたが、そうでもなかったようだ。
「流石にゲームはやっていないのか、安心したよ」
自分と同じことをミヤルも考えていたようだ。
「当たり前だろ。ところでフカ、最初の違法品が出た事件、詳しく教えてくれないか? こないだは詳しく聞けなかったからな」
「簡単にしか説明してなかったか」
自分は二人に一昨日起こったことを時系列順に話していく。
自分の話が終わるとミヤルが不思議そうに聞いてくる。
「フカの話を聞いた限り迂闊というか、何を考えているか分からないね」
「というと?」
「ファンかナンパかわからないけど、アクーラさんに付きまとったまではわからなくもない。だけど、三区で学生相手にエレメンタルカートリッジ付きのナイフデバイスは武器として過剰すぎる」
ミヤルのいう通りなことに気づく。
「学生脅すだけならただのナイフで十分。エレメンタルカートリッジを持って付きまとうのも謎か……」
「小型のナイフなら三区でも職質されても捕まりはしないだろし、違法品を日常的に持っているのは理解できない」
よく考えてみると、アクーラさんに付きまとった犯人の行動は謎が多い。
「何も考えてなかったんじゃないか?」
スクアーロが飲み物のストローを咥えながら言う。
「犯人はエレメンタルカートリッジを持っていると重罪であることは知ってたぞ?」
「玩具を手に入れた子供みたいなものじゃね?」
「手に入れたから自慢したかったと?」
「そうじゃないかと俺は思っている」
スクアーロの推理というか予想は分からなくも無い。
しかし……。
「スクアーロ、そんな無計画な奴が何故エレメンタルカートリッジを手に入れられる?」
「あー……それについてはさっぱり」
そもそも国内で出回る違法品は数がかなり少ない。しかも三区までエレメンタルカートリッジを持って来られるだけの組織か個人。かなりのリスクを背負っているはずなのに、馬鹿なことをする理由がわからない。
「フカ、ミヤル、そろそろ時間切れだ。教室に戻るぞ」
三人で色々意見を出し合うが、昼休み中に答えらしいものにはたどり着けなかった。
「もうそんな時間か。放課後にデイビットたちにも話して聞いてみるか」
「賛成」
話し合って答えが出ないくらい変なところがある。
デイビットに報告しておいた方が良いのだろうが、昼休憩はもう終わりでまとめ上げる時間がない。放課後にまとめるしか無いだろうが、放課後にまとめるなら見回りの前に一度集まって情報を整理した方が良いのかもしれない。
思いついたことを教室に戻りながら二人に相談すると同意される。
教室に戻ると見回りの前に話がしたいとデイビットに連絡を入れておく。
連絡を入れた後、授業を受けるが、ナイフデバイスを振り回した男の事が気になってしまい集中できない。
何かを見逃している気がする……。
「集中できなかった……」
「フカも?」
「もしかしてミヤルも?」
「ああ」
授業が終わり皆が帰るために荷物を片付ける中、自分はミヤルとため息をつく。
「授業は集中すべきだ」
スクアーロが自分とミヤルを呆れた目で見てくる。
「スクアーロ、よく集中できるな」
「全力で授業を受け、勉強時間を極力減らすのが俺の勉強方法」
「それ以外の時間をゲームするためにって?」
スクアーロはいい笑顔で「その通りだ」と言い切る。
自分がそんなスクアーロに呆れていると、アクーラさんが近づいてきたのに気づく。今日も送った方がいいだろうかと思い、自分の方から誘うことにする。
「フカくん」
「アクーラさん、今日も寮まで送ろうか?」
「あ、それは大丈夫。サンオの家が心配して送迎するみたいで、私も乗せてもらうの」
サンオさんの実家はエレメンタルカートリッジのことを知っている。実家が用意する送迎には相応の護衛をつけるだろう。
「そうなんだ、それなら安全だね」
「フカくんは?」
「三人でバイトかな」
「バイト?」
アクーラさんが首を傾げる。
自分たちだけが分かるようにギルドの仕事をバイトと言っていたが、アクーラさんに伝わらないことを思い出す。周りに聞こえないように小声で伝える。
「ギルドの仕事をバイトって言っているんだ。別に変じゃ無いだろ?」
「仮登録ならバイトだもんね。なるほど」
納得しているアクーラさんを見ていると思い出す、アクーラさんはモデルの仕事をしているので毎日まっすぐ寮に帰れるわけでは無い。
「そう言えばアクーラさん、モデルの仕事は?」
「モデルの仕事はしばらく数を減らしてもらう予定だったんだけど、さっき注意情報が消えるまでモデルの仕事はお休みにするってマネージャーから連絡が来てた」
アクーラさんのマネージャーか関係者が、注意情報の意味がエレメンタルカートリッジが関係する物だと知っていた可能性がある。もしくはアクーラさんが襲われたことを受け、注意情報の武装した人物が暴れる可能性があるって書かれていることでやめたか。
なんにせよ仕事で外出する機会が減るのはアクーラさんの安全につながる。
「そうなんだ。寮にいれば安全だよ」
「うん。しばらくは配信して、のんびりしている」
そんな話をアクーラさんとしていると、サンオさんと他の女子たちがアクーラさんを呼んでいる。
「フカくん、また明日」
「また明日」
アクーラさんは挨拶すると、サンオさんと合流する。
「フカはアクーラさんと仲良くなったな」
「仲良くというか、襲われた後ということもあって不安なんじゃないか?」
自分の考えを言うと、ミヤルとスクアーロが顔を合わせて肩をすくませている。
どう言う意味か尋ねようとしてやめておく、ろくなことを言われない予感がした。
端末にデイビットから連絡が来ているのに気づく。
「三区に拠点を作ったから、そこで落ち合おうってさ」
「わかった。行こうか」
三人で教室を出る。
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