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第3話 先生からの呼び出し

 いつもより早めに寮を出る。

 車に乗って、自分が通う第一高等学院へ向かう。

 第一高等学院のコンセプトである日本風の学校に着くと、自分のデバイスに呼び出しの連絡が入る。連絡の内容を確認しながら教室に向かうと、アクーラさんが自分の方に歩いてくるのが見えた。


「フカくん、おはよう。先生から連絡が来て呼び出されたんだけど……フカくんは?」

「自分も丁度連絡きたところ。場所は生徒指導室へ来るようにって書かれてる」

「私も同じ」

「昨日の事についての呼び出しだろうから、一緒に行こうか」

「うん」


 早めに来て部活をやっている生徒が、自分とアクーラさんがともに行動することに不思議そうな目を向けている。

 自分でも普段からするとアクーラさんと二人で行動は考えられないな。そんなことを考えながら教室を二人で出る。


「アクーラさん、昨日は遅かったのに、こんな時間によく起きれたね?」

「私はモデルの仕事している関係で、高性能なカプセル型の寝具を使うように言われてるの。寝具の設定を短時間睡眠にして寝たから随分と楽なんだ」


 どうやらアクーラさんも自分と同じような寝具を使っているようだ。


「自分も高性能なカプセル使っているよ。おかげで今日は寝過ごさなかった。短時間睡眠使いすぎると、身長伸びないって噂があるから普段は短時間睡眠使っていないんだけど」

「言うよね。本当のところはわからないけど」


 自分は百八十センチ近い身長であるため、もう伸びなくてもいい気はするが、短時間睡眠を使わないのは癖になってしまっている。


「ところでフカくん、高性能なカプセルよく手に入ったね? 私は事務所経由で買ったけれど、お金があっても中々買えないって聞いたよ」

「それはツテがあって。クラスにミヤルっているだろ? 実家が造船所で、宇宙船に取り付けるのに買うから割り込ませてもらったんだ」


 ミヤルの実家は宇宙船の造船所を経営している。

 大きな造船所で生産する宇宙船の数も多いため、部品を多めに発注することも可能。宇宙船に絶対必要な高性能な寝具は、多めに発注してもメーカーから何か言われることはない。


「そんな手もあるんだ。造船所ってことはギルドのバイトで知り合ったの?」

「いや、中等部から一緒。自分、ミヤル、スクアーロの3人でよく一緒にいるんだ。ミヤルは宇宙船が好きで、スクアーロは宇宙船とか走らせることが趣味。三人とも宇宙関連が好きってことで似てるんだ。時々一緒にギルドでバイトしている」

「なんかいいな、そういう関係」

「そうかな? 長いこと一緒にいるからよくわかんないな」


 アクーラさんは昨日と比べると随分と落ち着いている。

 雑談しながら廊下を進み、生徒指導室の前に着く。

 ドアをノックすると、先生はすでに来ていたようで、中から入るようにと言われた。


 自分がドアを開けて入室する。

 椅子と机がある程度で、飾り気のない部屋で待っていたのは担当教員のいかつい男性。正規のギルド員である自分の経歴を知らされている数少ない先生でもある。

 先生は今回の事件について話す相手としては丁度いい。


「二人で来たか……いや、丁度いいか。座って」


 先生は一瞬悩んだ様子を見せたが、一人で納得した。

 自分たちが座ると先生が再び話始める。


「寮の監督者から話は聞いている。警察と軍には問い合わせて、警察からは調査中だと言われたが、事件があって出動したのは事実だと回答をもらった。軍はまだ回答貰っていない。実質何も聞けていない状態のため、二人から詳しく話を聞きたい」


 昨日というよりも今日起きた事件で、まだ六時間程度しか経っていない。警察と軍は徹夜で捜査していそうだが、さすがに事件が解決するには時間が短すぎる。


「アクーラから事情を聞いていいか?」

「はい。私のファンだと思うんですが、寮の近くで帰りを待ってたのか声をかけられたんです。一緒に遊びに行こうと言われたんですが、そう言うのは全部断っているので断ったんですけど、しつこくて……。寮に逃げ込もうとも思ったんですが、上手く逃げられませんでした」


 時間が深夜なこともあって、非常識で断るのは当然。


「困っていた時にフカくんが間に入って話をしてくれたんですが、ファンの男性が怒って途中からナイフみたいなもの取り出したんです。フカくんがナイフを蹴飛ばした後、男性を抑え込みました。その後警察と軍が来て、事情を聞かれました」


 先生はアクーラさんが言ったことを端末に入力していたようで、入力後にアクーラさんに内容が合っているか確認した。その後に自分の方へと視線を向けた。


「次はフカ、説明してくれ」

「はい。自分が寮に帰宅しようとしたところ、前で何か言い争っている声が聞こえてきました。片方がアクーラさんだと分かった時点で警察に連絡しました。連絡の後間に入って男の説得をしたのですが失敗してしまい、相手を興奮させることになってしまいました」


 正直、この先はあまり言いたくはないのだよな。

 先生の余裕から、まだエレメンタルカートリッジについて知らされていないのだろう。大事になるのはわかりきっているが、言わないわけにもいかない。


「興奮した男性はエレメンタルカートリッジの装備されたナイフデバイスを取り出しました」

「エレメンタルカートリッジだと!」


 先生は退役軍人であるため、学校側が正規のギルド員である自分の担当教員にした経緯がある。当然、退役軍人ということでエレメンタルカートリッジの危険性も十分に分かっている。

 そんな先生は驚き大声を出した後、アクーラさんを見て黙った。

 アクーラさんが居る事を思い出したのだろう。

 先生は一呼吸置いた後、心配そうに聞いてくる。


「フカ、そんなもの出した相手、よく対処できたな」


 MPから捜査情報を教えらてしまったため、どこまで喋って良いか考えながら話す。


「偶然ですがパワードスーツを着ていたため、ナイフデバイスを弾き飛ばすことで男性を拘束できました」

「フカはパワードスーツを着ていたのか?」


 自分の事情を知っていて、普段の行動を把握している先生はいぶかしげな表情を浮かべている。


「はい。着てた理由は昨日出した帰宅延長申請に書いてあるのですが、ギルドでバイトしていたからです。バイトの作業は終わったんですが、門限まで時間がギリギリで、着替えていると門限に間に合わない時間でした。そのためエレメンタルカートリッジつきのパワードスーツの上に制服着て、そのまま帰宅していました」

「エレメンタルカートリッジ付きのパワードスーツを着ていたのか。運がいいな」

「不幸中の幸いとしか言えません」


 本当に運が良かった。

 パワードスーツを着ていなかったら即対応ができず、どのような状況になっていたかわからない。


「そうか。いや、しかし……パワードスーツだけで制圧できるのか?」


 エレメンタルカートリッジを所有している人物がパワードスーツを着てないことはほぼない。自分がパワードスーツを着ていたからといって差は埋まらないため、普通は取り押さえられないのだ


「普通ならできないと思います。ただ相手が素人だったためパワードスーツを着てなかったようで、あっさり取り押さえられました」

「素人……? エレメンタルカートリッジ使ったんだろ? 素人はありえない」


 そう普通ならありえない。

 一呼吸置いて先生の目を見ながら続きを話す。


「先生、エレメンタルカートリッジは違法品です」

「違法品!? 学校の寮があるのは三区だぞ! そんな場所で違法品!?」


 自分同様に先生も三区で違法品が出てくるとは思わなかったのだろう、先生は大声を出す。

 先生に注意を促す。


「先生、違法品が一つとは限りません。学校でも注意喚起を」

「分かった。いや、しかし、エレメンタルカートリッジの危険性知っているのは教員でも少ない。どうやって注意すれば……」


 先生は頷いたと思ったら、頭を抱える。

 こうなるのが分かっていたため、言いたくなかった。

 エレメンタルカートリッジの説明が難しいのであれば他の方法で注意するしかない。


「先生、不審者が出たので注意するようにとかでよくありませんか? アクーラさんも襲われていて間違いではありません」

「うむ……候補に入れておく。他の教員と話し合って今日中に注意を促す」


 書き込むことが多くなったのか、先生はちょっと待ってくれと入力していく。


「フカ、すまん話を遮ってしまったな。エレメンタルカートリッジを取り出した男を制圧した後の話を聞かせてくれ」

「その後、警察ではエレメンタルカートリッジを処理できないと教わったを思い出したため、軍に連絡してMPを派遣して貰いました」

「その判断に間違いはない」

「MPが到着するまでに警察が来たので事情を説明し、MPが来るのを警察と一緒に待ちました。MPが到着後、MPから自分も事情聴取され、問題なしと解放されました。そのあとはアクーラさんを寮に送り届け、自分も寮に帰りました」


 抜けている部分はあるが、おおまかな概要は伝えられていると思う。


「フカ、怪我はなかったか?」

「かすり傷もありません」

「それは良かった」


 先生は大きく息を吐いた。

 学校の教員が担当する規模を超えた事件、先生がため息をつきたくなるのもわかる。

 先生が端末に自分の話をまとめたものを見せてきて、間違いがないか確認してくる。自分が確認して問題がないと返すと先生は頷いた。


「軍と警察から事情を聞くまで仮ではあるが、二人とも行動に問題はなかったと考えている。寮の門限時間を超えたことに対する罰則はなしだ」


 罰則はなしと先生に言われ、自分は安堵する。

 アクーラさんを見ると表情を緩めている。自分と同じように罰則なしが嬉しいようだ。


「以上で聞き取りを終わり。教室に戻っていいぞ」


 椅子から立ち上がり、頭を下げて部屋を出ることにする。

 自分がドアを開け、アクーラさんを先に通した。自分は先生と視線を合わせてから、もう一度頭を下げ、扉を閉める。


「ねえ、フカくん。先生随分と驚いてたけど、エレメンタルカートリッジってなんなの?」


 やはりあれだけ先生が驚いているとエレメンタルカートリッジに興味を持つよな……。

 完全に話さないのも難しい。


「説明が難しいんだけど……爆弾、銃弾、刃物とかになったりするエネルギーの塊みたいなものかな? 所持に許可が必要で、そうそう出回るものじゃないんだ」

「爆弾!? そんな危ないものだったの!?」

「今回は爆弾じゃなくて刃物だったんだけど、エレメンタルカートリッジ自体に製造番号が振られて管理されてるくらいには危険なものだよ」


 話をしていると隣の部屋から誰かが出てきたようで「エレメンタルカートリッジ?」と呟く声が聞こえる。

 声がした方に振り向くと、同じ学年で一番の不良と言われるガレオスが立っていた。

 エレメンタルカートリッジについて聞かれたのはちょっと不味かったか。そんなことを思いながらアクーラさんを見ると、顔を強張らせているため場を離れることにする。


「アクーラさん、そろそろ教室に戻ろう。もう少しで最初の授業が始まりそうだ」

「あ、そうなんだ。気づかなかった。教室戻ろ」


 自分は別れの挨拶のつもりでガレオスに手を挙げる。すると、ガレオスは訝しげな視線を自分に送ってくる。

 何か変だっただろうかと手を下げ、少々不思議に思いながらも教室に戻るため移動する。

 しばらく歩いた後、アクーラさんが背後を確認すると自分に話しかけてくる。


「フカくん、よく平気だね」

「え? なんのこと?」


 なんのことかわからない。


「ガレオスくん、怖くないの?」

「あ、そう言うことか。ギルドに出入りしていると、もっと怖い人に出会うから特に怖いとかないかな」

「そうなんだ? 体験で行った時そう言う人見かけなかったと思うけど……」


 学生は宇宙を体験するときに一度はギルドに行く。

 学生が体験に来る前日に自分がギルドに行くと、怖いおっさんや派手なお姉さんが受付から明日は来るんじゃないと追い出されていた。肩を落としながら出ていくイカついギルド員を思い出すと笑ってしまう。


「それは前日に追い出しているんだ。ギルドから明日は学生来るから、見た目怖いのと、素行が悪いのは来ないようにってね」

「追い出すってよく言うこと聞くね」


 ギルド員は素行が悪いと世間一般からは思われている。

 案外行儀がいいのだが、見た目が怖い人が多いため、イメージはなかなか変えられない。


「ギルドの言うこと聞かなくて資格失効されたらたまったものじゃないからね」

「仕事はどうするの?」

「ギルドの仕事って実はネットで完結できるんだ」

「それならなんでギルドに行くの?」

「ギルド員だとギルドの中にある食堂は格安で飲食できるから、集まってお酒を飲んでる」


 お酒以外にも駆け出しギルド員が、お金を節約するのにギルドで飯を食っている人をよく見かける。

 駆け出しにベテランのギルド員が気を利かせて奢ったり、上手い仕事を教えたりする姿を見たりもする。


 自分は年齢的に空腹な時が多いため、仕事終わりなどにギルドに行って飯を食べることが多い。

 デッカートスペースコロニーの法律だと自分も酒を飲めるのだが、酒より飯をひたすらかけ込んでいる。


「飲み屋。意外というか、ギルド員なら飲んでそうなイメージがあるから、意外でもないというか……不思議な感じ」

「ギルド員は大半が宇宙船乗りで、仕事中は一人だったりチーム組んでればそのメンバーで行動するから、話し相手を変えたいって感じかな。ちなみにギルドでたむろして飲んでる人の言い分は情報収集が定番」

「情報収集はネットでできるんじゃないの?」


 普通はネットで情報収集できると思うよな。


「それが意外に馬鹿にならないというか、宇宙は広大すぎて些細なことまでネットに書かないんだよね。危険なことは軍に報告するけど、軍は確認するまで発表しなかったりするんだ。後はギルドの連絡網みたいなのもあるけど、航路の危険は報告義務があるけど他は緩いからね」

「へー、そう言う物なんだ」


 雑談しながら歩いていると教室に着く。授業が始まりそうだったの別れ、席に座ると授業が始まる。

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