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第17話 スティングレー

 宇宙船に乗る予定日。

 寮の前で待ち合わせて、ミヤルの実家がやっている造船所へと向かう。

 車はスクアーロの運転で五区に入り、造船所の入り口からさらに奥へと進んで港の桟橋まで走らせる。

 白い塗装の宇宙船が見えてくる。


「あれが今日乗るスティングレー」

「なんか変わった形だね」


 スティングレーは海に住むエイの形に似ている。

 エイの中でも毒針を持つエイを英名でスティングレーと呼ぶ。宇宙船は毒針ではないが、武装を装備しているためスティングレーと名付けた。


「この宇宙船は兵装を多く積んだ戦闘用の宇宙船でもあるけど、メインは小型宇宙船の発射台として設計されたんだ」

「発射台?」

「レース用のカタパルトがついているんだ」


 宇宙で開かれるレースに参加するためにスティングレーは建造された。

 レース用だけに建造するには費用がかかりすぎるため、戦闘もできて物資の輸送もできる宇宙船として作られている。


「レース用の宇宙船ですの?」


 レースと聞いてサンオさんが興味を持ったようだ。


「そう。宇宙から出発するタイプのレースに参加する場合、発射台を自前で持っている必要があるからね」

「ギャラクシーレースなどがそうですわね」


 ギャラクシーレースはエレメンタル王国で開催される最大の宇宙船レース。


「最終的にはギャラクシーレースに出たいと思って建造したんだ」

「ギャラクシーレースに出る時は呼んでくださいまし。私も見に行きますわ」


 サンオさんは宇宙船のレースも好きなようだ。


「地方予選を突破できたら呼ぶよ」

「楽しみにしておりますわ」


 ギャラクシーレースは地方予選を突破すると本戦へ参戦ができる。

 地方予選を抜けるにはスティングレイのようなカタパルトが取り付けられた発射台となる宇宙船が重要。また本戦に出るのであれば絶対に必要な装備となってくる。


「しかし、よくこんな宇宙船を作れましたわね? 普通の宇宙船を作るより相当お金がかかるのでは?」

「三人で稼いだお金を入れたのもあるけど、スポンサーがついてるからね」

「学生でスポンサーがついているのですか」

「うん。最大のスポンサーはミヤルの親が経営する造船所だけどね」


 他にも車のレースからスポンサーを続けてくれている会社があり、建造費の一部をサポートしてもらっている。

 当然、スポンサーの会社名は宇宙船に貼られている。


「スティングレイに貼られているスポンサーのステッカーは大きすぎて近くだと見えないかな」

「大型宇宙船はカメラに抜かれる前提ですから、近くでは見にくいですわね。それでも一部は見えるのではありませんか?」


 確かに一部の会社名が見えてる。

 白い宇宙船に会社のロゴがよく映える。


「あれ? スポンサーにルセールがある。私が所属している事務所もフカくんたちをスポンサーしているの?」


 ルセールがアクーラさんの所属事務所?


「え? アクーラさん、ルセールの所属だったの?」

「うん。言ってなかったっけ?」

「聞いたことなかった」


 ミヤルとスクアーロを見ると、やはり知らなかったようで首を横に振っている。

 自分たちは元々アクーラさんとそこまで接点はなかったからな。

 意外なところに接点があったようだ。


「私は高校入る直前くらいにルセールにスカウトされたの」

「それだとアクーラさんの方が先輩だね。自分たちのチームにルセールがスポンサーになってくれたのは高校入ってからだね」


 しかし、ルセールか。

 アクーラさんすごい事務所に入っているんだな。

 ルセールはエレメンタル王国にまたがる大企業で、経営者がエレメンタル王国の侯爵家という少々特殊な会社。

 自分たちも特殊な繋がりがあるためサポートしてもらっているが、普通は実績のないチームにスポンサーしてくれるような企業ではない。


「執事のような行動ができたのはルセールで研修を受けたからだよ」

「え? ルセールで執事の研修を受けれたの?」

「覚えろって強制的にね……」

「ルセールの執事や侍女教育はお願いしても教えてもらえないものだよ」

「そうらしいね。後で知ったよ……」


 研修では地獄を見た。

 執事を目指している人にとってはなんとしてでも受けたい研修なのだと思うが、自分は別にそうではなかったのでただの地獄だった。


 話をしているとスティングレイの目の前までくる。

 ミヤルが遠隔でスティングレイの扉を開けて、車に乗ったまま宇宙船の中にはいる。

 車を駐機位置に停車させると自動で車が固定される。


 車が停車したのは格納庫。

 格納庫には整備用のクレーン以外はまだ何もないため、巨大な空間が広がっている。内装は真新しく傷のない状態で、白と黄緑の二色で整えられている。

 自分もまだスティングレイに乗ったのは片手で数えられるほど。しかも建造中だったため、今のように整えられた状態で乗るのは初めて。


「メイン動力が停止中で重力が軽いから注意してね」


 車を降りる前にミヤルから注意される。

 桟橋はスペースコロニーの中でも重力が軽くなっている。重力が軽い状態の方が重たい宇宙船を係留するのには都合がよく、港や五区の一部は重力が通常の半分以下となっている。

 重力が軽いため、普通の重力のように足を踏み出すと飛び上がってしまう。


「本当に全然違う」


 アクーラさんは車から降りるとふわりと浮く。


「大丈夫?」

「うん。学校の実習でやったきりで久しぶりだけれど体が覚えているみたい」

「久しぶりにしては上手だよ」

「そう?」

「ああ、とっても」


 自分が褒めるとアクーラさんは嬉しそうに笑う。

 格納庫から操舵室に移動する。

 各部屋に移動するための通路もまた白と黄緑で色が統一されている。

 操舵室に着くとメインの機関が落とされた状態であるため、最低限の表示しかされていない。


 操舵室に椅子は五つ設置されている。

 スティングレイは一人でも操縦できるのだが、兵装や動力を分担して操作できるようになっている。椅子を五つにしたのは自分たち三人と客用二人分。後から増設できるだけの空きはまだある。


「外が見えないけど、此処が操舵室なの?」


 操舵室は宇宙船の中心付近にある。

 宇宙船の中心にあるため、当然外は見えない。


「戦闘が前提の宇宙船は防御を優先するため、外は見えないことが多い」

「どうやって運転するの?」

「ディスプレイ、AR、各種計器かな」

「大変そうだね」

「慣れるとそうでもないよ」


 メインの機関を稼働させればもう少し表示が増える。

 表示が増えればもう少しわかりやすくなるだろう。


「ミヤル、メインの機関を稼働しても問題ないか?」

「うん」


 スティングレイのメイン機関を稼働させるボタンを押す。

 操舵室の足元から天井まで全ての壁が外の様子や動力炉の状態を表示する。ステティングレイの操舵室は全画面ディスプレイを採用している。

 表示された情報が増えると一気に部屋が明るくなったかのように感じられる。


「わあ!」

「これは凄いですわね」


 情報量が増えたことでアクーラさんとサンオさんが感動している。


「それじゃ宇宙にでようか」


 アクーラさんとサンオさんを操縦席の後ろの席に座らせる。

 今回は自分が操縦席に座る。


「ミヤル、調子はどうだ?」


 ミヤルとスクアーロは操縦席の前にある副操縦席に座っている。


「機関のパラメーターは安定している。出港できるよ」


 ミヤルに頷いた後、後ろにいるアクーラさんとサンオさんを振り返る。


「これから出港します」

「はい」


 今回は特に仕事を請け負っているわけではないため、スペースコロニーから少し離れた場所を遊覧する形のルートを申請している。


「こちら冒険者ギルド所属、フカ」

『こちらデッカート・スペースコロニー管制室。キャプテン・フカ、提出済みフライトプランの承認を受諾しました。誘導空域Cー02を使用し、フライトプランの該当宇宙域へ飛行してください』

「了解。良い一日を」

『良い一日を』


 指示通りに誘導空域を使う。

 大型船であるスティングレイはスペースコロニーが設定する誘導路の中でも中心に近い広い場所を航行する。スペースコロニーに開いた中空の穴を通り、宇宙へと飛び立つ。

 スペースコロニーから出ると、スペースコロニーの重力圏から脱するために一気に速度を上げる。

 真新しい動力炉の出力が一気に上がる。


 交通量が少ない位置まで一気に飛ぶと、巡航速度に変えてオートパイロットにする。

 このまま席を立つと、重力がほぼないため体が浮いてしまう。


「ミヤル、重力装置を起動」

「重力装置起動します」


 ミヤルが重力装置を起動させると船室内に重力が発生する。


「随分としっかり重力を発生させられますのね?」


 宇宙船に乗り慣れているのだろうサンオさんが不思議そうに尋ねてきた。


「この大きさの船だと、普通なら重力はコロニーの三分の一から半分かな」


 作業船などは重力装置を積んでいないため、無重力状態で作業することになる。

 スティングレイのような長距離を移動する宇宙船は健康上の理由から、重力装置を積むことになる。重力装置は大きく高価なため、1Gより軽い重力しか発生させない物を積む。


「操舵室の全面ディスプレイもそうだけど、重力装置も知り合いから載せろと言われてね」

「載せろ? 全面ディスプレイと重力装置はかなり高額なのでは?」

「重力装置なんかは最新式の小型重力装置なので、お金があっても手に入らないね」

「よく手に入りましたわね」

「知り合いが持ってきたから実質取付費用だけだね」

「それは……凄い方なんですのね」

「まあ……うん」


 サンオさんは知り合いについて尋ねてはいけないと察したのだろう。詳しくは聞いてこなかった。


「はー……凄いね」


 アクーラさんは全面ディスプレイに映る宇宙を見続けている。


「そこまで喜んでくれたなら良かった」

「うん。これは良い」


 思った以上にアクーラさんは宇宙が好きなようだ。


 アクーラさんが満足するまで宇宙を見た後、船内を見て回ることにする。

 エレメンタルカートリッジの格納室に着くと中にはいる。

 部屋はエレメンタルカートリッジが発する黄緑色の光に照らされている。黄緑色のラインは各種動力炉に向かって伸びている。今はエレメンタルカートリッジのエネルギーをほぼ使っていないが、全力で使うと部屋は凄まじい光量となる。


「エレメンタルカートリッジですわね」

「きれい。だけど前見たエレメンタルカートリッジより大きいね」


 アクーラさんは個人用しか見た事がないので驚いたようだ


「これは宇宙船用。アクーラさんが襲われたのは個人用。どっちもエレメンタルカートリッジだよ」

「宇宙船用は大きいんだね」


 アクーラさんは納得した様子。

 サンオさんは個人用と宇宙船用があることを知っていたようで頷いている。


「サンオさんの家は宇宙船用のエレメンタルカートリッジを輸出しているの?」

「ええ、輸出の大半が宇宙船用ですの。工業用や個人用は滅多に取引しないと聞いておりますわ」


 工業用は他国へ出荷すること自体が難しいだろう。

 個人用の出荷が少ない理由は、大量に受注することが少ないためだろうか。軍隊規模で欲しがれば別だろうが、個人単位では利益を出すのが難しそうだ。


 エレメンタルカートリッジについて改めて説明しておく。

 説明後確認すると、サンオさんは大半を知っており、アクーラさんは必要な事はほぼ知っているという状態だった。


「フカさん、もし知っているのでしたら聞きたいのですが、エレメンタル鉱石とエレメンタル王国どちらが先にあったか知っておりまして?」


 やはりエレメンタルカートリッジを知っている人は皆疑問に思うよな。

 自分も不思議に思って尋ねたことがある。


「エレメンタル鉱石が先」

「知らないと思いましたわ」


 サンオさんが目を見開いて驚いている。


「なんで知っているかは言えない。人にも言わないでくれ」

「厄介な話なんですの?」

「そこまでじゃないけど、エレメンタル王国建国についての話になるから言いふらしにくいんだ」

「フカさん、そんな話誰に聞いたんですの?」

「秘密」


 慎重なサンオさんが誰に聞いたか尋ねてくるとはな。

 サンオさんは厄介な話を聞いたと思っているのか、眉をひそめている。


「そんなに心配する事じゃない。知っている人が少ないってだけ」

「そうですの?」

「ああ。自分にも簡単に教えてくれたしね」


 気を取り直して船内を案内して行く。

 個室はまだ物がほぼなく、医務室、倉庫など見て回る。

 客室近くには展望室があり、宇宙を見られるように窓が用意されている。

 スティングレーの全てを回って、操縦室に戻ってくる。


 飲み物を配ってのんびりしていると、デイビットから連絡が入る。


『優雅にクルージング中に悪いなフカ。ミヤルとスクアーロとも話したい』

「クラスメイトがいるから一対一の通話にしたんだけど」

『そのクラスメイトはエレメンタルカートリッジについて知っているか?』

「知っている」

『なら問題ない。全体で良いぞ』

「許可が出たら切り替える少し待ってくれ」

「ああ」


 アクーラさんとサンオさんに、知り合いのギルド員から連絡が来たことを伝える。さらに全体で通話しても良いかと尋ねると、二人から問題ないと言われたため、通話を全体に切り替える。


「デイビット切り替えたぞ」


 前面のディスプレイにデイビットの顔が映る。


『どうも。俺はフカの友人でデイビットと言います。お楽しみのところ少し失礼します』

「私はアクーラです」

「私はサンオですわ」


 デイビットが芝居がかった自己紹介を笑顔でしている。


『ギルド員なので次が有るかは分かりませんが、どうぞよろしく』

「はい」

「ええ」


 画面のデイビットが自分を見る。


『さてフカ、まずは良い話だ』


 なぜか芝居がかった表情と口調をやめない。


「もったいぶるな」

『正直もったいぶらないとやってられん。付き合え』


 珍しくデイビットがやさぐれている。

 嫌な予感がしつつもデイビットに付き合う。


「はいはい」

『良い話だが軍と警察の捜索がほぼ終わった』

「それは良かった。だがそれだけで連絡してきたわけじゃないだろ?」

『その通り』


 デイビットが重々しく頷き続きをなかなか言わない。

 痺れをきらす。


「続きを早く」

『軍が新しいエレメンタルカートリッジの流出を確認した』


 ……は?


「嘘だろ?」

『嘘じゃない。一個は倉庫にあったが、帳簿上まだ流出しているらしい』

「最悪だ」


 頭を抱える。

 一個は倉庫にあった? つまり複数個流出しているということじゃないか!


『エレメンタルカートリッジはコロニー中の倉庫をぐるぐる回って、最終的に国外へと出荷される』


 先ほどまでもったいぶって喋るのが遅かったデイビットが嬉々として喋る。

 デイビットがやけくそな心情でいることは想像できる。


「ギルドは無関係だろ? デイビット、そう言ってくれ」

『ギルドはエレメンタルカートリッジの流出元とは無関係だが、軍の要請でギルドもエレメンタルカートリッジの捜索に参加が決まった』

「嘘だろ……」


 信じたくなくて周りを見回すとミヤルとスクアーロは頭を抱えている。

 サンオさんは顔をひきつらせて顔色が悪い。

 アクーラさんだけは状況がいまいち理解できていないのか首を傾けている。


「どうやってエレメンタルカートリッジを探すんです?」

『探しかたかい? 軍、警察、ギルドでスペースコロニー中の倉庫を大捜索さ!』


 デイビットはやけくそな感じで説明する。


「でもエレメンタルカートリッジが宇宙に飛び立っていたらどうするの?」

『持って出た宇宙船がどれか調べる』

「そんなこと出来るの?」

『スペースコロニーの行政は物流の流れを把握しているから不可能ではない。しかし、相手も倉庫から倉庫にエレメンタルカートリッジを流して、どこにどう流れたかたどれなくしている』

「たどれないエレメンタルカートリッジを探すの?」

『そうだ』


 アクーラさんは状況を理解したのか、自分を気の毒そうに見ている。




Side ???


 恒星の光が注ぐ庭園。

 庭園に集まる鳥が木の実をついばむ様子を見ながら、侍女から報告を受ける。


「そう。それは困ったものね」

「はい」


 赤い髪の侍女が目をふせる。

 気分を変えるために、あずまやに移動する。

 今日は人前に出ることはないとドレスではなく男装にしたというのに、気分転換も許されない。


 終わらない問題が頭を悩ませる。

 他にも考えなければならないことはあるのに……。


「デッカートスペースコロニーは今どうしているの?」

「デッカート子爵の命で全ての宇宙船に臨検が行われております」

「そう」


 侍女が紅茶を淹れてくれる。

 香りの良い紅茶を飲みながらどうするかを決めた。


「ミヤルとは連絡を取り合っておりますね?」

「はい」

「では——」


 私が指示を出すと侍女が首を垂れる。

お読みいただきありがとうございます。一旦完結とさせていただきます。

続きが書き溜まりましたら連載を再開します。


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