第16話 学校へ
学校に戻ってきたところ、丁度昼休みだった。
教室に戻るとクラスの皆から注目され、すぐにミヤルに気づかれた。
ミヤルは自分とスクアーロを引きずるように教室を出る。ミヤルに連れられて行ったのは以前にアクーラさんと来た生徒指導室。先生はおらず、先生がいた席にはミヤルが座っている。
「何があったか手短に話して」
「はい」
ミヤルの冷たい視線に晒されながら自分とスクアーロは説明する。
全ての説明が終わるとミヤルが重々しく頷いた。
「——で、今戻ってきたと」
「はい」
ミヤルが大きくため息をつく。
「そっちの事情はわかったけど、戻って来れたならもう少し早く戻って来て欲しかった。学校はまだ良いとして、クラスメイトにどう説明すればいいか困ったよ」
「申し訳ない」
自分はミヤルに頭を下げる。
説明すごく大変だったであろうことが想像できる。
「後でアクーラさんとサンオさんにお礼を言っておいて、随分と助けて貰ったから」
「分かった。後でお礼を言いに行くよ」
事情を知っているアクーラさんとサンオさんが助けてくれたのか。
しかし、自分も学校でエレメンタルカートリッジを使うことになるとは思ってもいなかった。事情を知っている学校はともかく、クラスメイトにはどう説明したのだろうか?
「ミヤル、クラスメイトにはどうやって説明したんだ?」
「流石にギルド員だって事は誤魔化せなかった。ギルドの仕事で武器を携帯してたって言ったけど、その武器がね……」
拳銃ならまだしもナイフや剣ではな……。
「やはり光るナイフはなんだと聞かれるか」
「当然聞かれた。けど答えるわけにもいかない」
エレメンタルカートリッジを不特定多数に教えるのはまずい。
学校全体に知れ渡れば三区中に広まるのも時間の問題だろう。スペースコロニーの行政としても望ましくない。
エレメンタルカートリッジを知ることに、いくら罰則がないと言ってもエレメンタル王国としては秘密にしている情報。人伝だとしても広まって嬉しいはずもない。
「エレメンタルカートリッジの説明をなしにどう納得させたんだ?」
「守秘義務があるで押し切った。アクーラさんとサンオさんが協力してくれて一応納得してくれた」
「自分とスクアーロも守秘義務で押し通すか」
スクアーロも同意する。
ガレオスはどうなったかが気になる。
「ガレオスはどうなった?」
「怪我もなく体は元気だけど、ショック受けてるみたいだね。今は休ませてる」
「そうか」
しばらくは治療が必要になるだろうな。
ガレオスだけではなく、学校の生徒全体がしばらくカウンセリングを受けることになりそうだ。というか慌てて戻ってきた自分が言うのも変だが、何で学校に生徒がいるんだ?
「ミヤル、何で学校に生徒がいるんだ?」
「先生たちは学校にいる方が安全だって判断した。さすがに授業はやっていないけれど」
「寮に帰るまでが危険か」
それに寮に帰らせたところで、学生が寮に留まってくれるかはわからない。
学生を監視できる学校に留まらせた方が管理はしやすいか……。
「学校には軍や警察がいるからね」
「そういえば学校に入る時に学校の生徒か確認されたな」
学校を囲むように大量の警察と軍人が配置されていた。
「フカとスクアーロが戻ってきたのは学校も知っているだろうし、そろそろ学校から寮に帰されるんじゃないかな?」
「そうかもしれないな」
まだ捜査は続いているが、事件は一応収束した。
これ以上学生を学校内にとどまらせる理由もない。
「僕から話すことは以上かな」
「こちらも聞きたいことはないな」
あらかたの話が終わったところで、教室に戻らなければいけないが……。
「教室戻りたくないな」
「うん……」
今日のところは帰ってしまいたいが、今日帰ったところで明日クラスメイトに囲まれるだけだろう。一日引き伸ばしたところで結果はそう変わらない。
それにアクーラさんとサンオさんにお礼を言いたい。
「行くか……」
重い足取りで生徒指導室を出る。
教室に戻ると当然注目され、皆から囲まれて質問攻めにあう。
ミアルのように答えられないことには守秘義務だと言って答えることを避ける。ナイフデバイスやソードデバイスを見たいとも言われたが、実用の武器ということでお断りをする。
終わらない質問攻めに絶望していると先生が教室に入ってくる。
「下校の許可を出す。ただし、まだ何があるかわからない、真っ直ぐ寮に帰って外に出ないこと。不安だと感じるのであれば学校に残っていてもいい」
帰れる!
質問攻めから解放される!
そう思ったが、質問攻めは止まらない。なんでだ……。
拠点に行きたいが、先生が寮に帰れと言った手前、外出するとは言いにくい。逃げられずに困っていると、サンオさんとアクーラさんが近づいてくる。
「フカさん、スクアーロさん、ミヤルさん。私とアクーラは寮に帰るのですが、ご一緒なさいませんこと」
「あ、うん。是非」
サンオさんの有難い提案に乗る。
クラスメイトにはサンオさんと帰るからと断りを入れる。
学校から出て車に乗り込むと一息つける。
「サンオさん、本当に助かりました」
「いえ、この位は問題ありませんわ。フカさんたちは目立つのに慣れていませんから大変そうでしたわ」
「学校では目立たないようにしてたからね……」
ギルドでは年齢故に目立つので、目立つのに全く慣れていないわけではないのだが、同世代相手に目立つのは初めてだった。
アクーラさんが自分に声をかけてくる。
「フカくん、飛行船乗って行った後は大丈夫だった?」
「問題なかったよ」
普通の生活を送っているアクーラさんに戦っていたとは伝えにくい。だがアクーラさんも流出したエレメンタルカートリッジの被害者でもある。流出したエレメンタルカートリッジについて報告すべきか。
「アクーラさん、エレメンタルカートリッジは流出していた五個全部見つけ出しました」
「本当に?」
「うん。飛行船で向かった先に残りが全てを回収した」
「良かった」
アクーラさんは軽く息を吐く。
自分たちとは違い、荒事に巻き込まれることがないアクーラさんはこの二週間不安だったと思う。
「注意情報も時期に消えると思う。いつも通りの生活に戻れるよ」
「フカくんはいつも通りの生活に戻れるの?」
「自分たちは拠点を維持しながら交代で待機しようって話し合っている」
「まだいつも通りの生活には戻れないんだ……」
アクーラさんは言い出しにくいような表情を浮かべている。
「何か用事があった?」
「ううん」
アクーラさんは首を横にふるがこちらに配慮しているのがわかる。
ギルドが迷惑をかけたお詫びや、今日のクラスメイトへのフォローのお礼をしたい。
「待機は他のギルド員とも合同で行うから時間はあるよ」
「そうなの?」
「うん。良かったら、今日のお礼をさせてほしいな」
アクーラさんは迷った様子を見せた後、上目遣いにこちらを見てくる。
「前サンオと話してたんだけど、宇宙船に乗せて貰えないかなって」
「宇宙船?」
どんなことを言われるかと思っていたが、宇宙船か……。
「あ、ダメなら良いの」
アクーラさんが顔の前で大きく手を振る。
「ダメじゃないよ。だけど普段乗っている宇宙船は誰かを乗せて飛ぶような船じゃないんだよね……」
普段ギルドの依頼で使う宇宙船はコンテナを取り付けて作業するような作業船。
資源をコンテナに収納して、コンテナごと納品することで依頼が完了する。
外観や居住性よりも強度や効率の良さを重視しており、窓もほとんどない上に狭い。
外観がいいという意味ではもう一隻あるのだが、そちらはレースと戦闘用の宇宙船で完全に一人用。無理すれば二人なら入れるかもしれないが、こちらも窓がない宇宙船で乗ったところで面白くはないだろう。
デイビットに宇宙船を出してもらうかと考えていると、そういえば新造船がそろそろ完成間近なのを思い出した。
「ミヤル、大型船のスティングレーは完成しているか?」
「個室の内装が残っている程度で、他は完成しているよ」
スティングレーは複数人で動かす前提の大型船。
寝泊まりすることを前提に作られているため、客室や窓もあり居住性がかなりいい。
「スティングレーは動かせるのか?」
「うん。造船所から出して桟橋に係留しているから、いつでも動かせるよ」
造船所から出されているのは都合がいい。
「アクーラさん、観光用の宇宙船ほど豪華でなくていいのなら宇宙船を出せるよ」
「良いの?」
「うん。予定を合わせて宇宙船に乗る日を決めようか」
日付を決めれば拠点で待機するのを交代してもらえる。
「あ。サンオも一緒で良い?」
「もちろん」
アクーラさんの隣で聞いているだけだったサンオさんが驚いた表情を浮かべる。
「アクーラ、私もですの?」
「ダメだった?」
「いえ、ダメではありませんわ」
「なら、一緒にどう?」
「分かりましたわ」
サンオさんも納得したようだ。
「ミヤルとスクアーロも来るだろ?」
こちらもミヤルとスクアーロを誘う
「桟橋と宇宙船を管理しているのはうちの会社だし、僕は付いて行ったほうがいいだろね」
「スティングレーはまだ乗っていないから当然行く」
五人で行くことが決まった。
「学校終わりでは夜中になってしまうか。休日の昼間がいいかな」
「そちらの方が嬉しいかも」
アクーラさんとサンオさんが頷く。
今は仕事を休んでいるアクーラさんだが、問題が解決したため仕事が再開される。仕事が入れられる前に宇宙に行く日が決まる。
「それじゃ休日開けてもらうように言っておく」
話していると寮に着いた。
サンオさんに改めてお礼を言って別れる。
自分の車を呼んでおいたので乗りかて拠点に向かう。
拠点に戻ると新しい情報はないとのこと。
拠点に待機する人数と日程を決め、皆疲れていることもあって早めに解散する。
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