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第14話 貿易代行会社

 飛行船は第一高等学院を離れ三区の空を進む。

 マイケルが階級の高い軍人に話しかける。


「私たちを乗せずとも良かったのでは?」

「軍としてもギルドの失点をそのままにしておくのは良くないとの判断です」

「軍がギルドに気を使うのか」

「ギルドは軍人の退役後最大の就職先です。それに宇宙を警備するのに軍だけでは人数が足りません」

「私も元軍人であるため分からなくもないが、ギルドの失態は軍としても予想外だったか」

「そのようです。ただ……」


 軍人が言い淀む。


「ただ?」

「ただ、もっと上も動いたと噂があります」

「噂ね……」


 自分たちの住んでいるデッカートスペースコロニーで軍の上。コロニーの代表かデッカート子爵しかいない。

 どちらかが命令を出した可能性が高い。

 デッカート子爵はあまり政治には口を出さないが、今回の問題はエレメンタル王国全体の問題ということで動いたか……?


「では上の思惑通りに踊るとするか」

「踊るといわれますと?」

「成果を奪って申し訳ないが、私らが突入して倒してくる」


 マイケルの提案に軍人は黙る。

 しばらく沈黙が会った後、軍人が頷く。


「連れて行けという命令はそういうことなのでしょう。分かりました」

「申し訳ないな」

「いえ、先に探し出したのはギルドの方です。問題ありません」


 軍人が政治的な判断で動くのは本来間違っている。

 しかし、スペースコロニーとエレメンタル王国の将来に配慮したようだ。


 貿易代行会社がエレメンタルカートリッジを持っているかはまだ分からない。もし会社あるのなら、三個一気に出てきて欲しいものだ。繁華街を歩き回るのは飽きた。


「フカ、指揮を取れ」

「わかった」


 マイケルは余裕がある時は自分たちを鍛えてくれる。

 今回はマイケルからすると余裕がある相手のようだ。自分としても武力だけでどうにかなる分、簡単な分類に入る。

 マイケルと渡り合えるような人が出てくる可能性は低いだろうしな。

 仮に出てきたとしても、自分、スクアーロ、ミヤルがいれば……ミヤル?


「……あ。ミヤル、学校に置いてきた」

「…………」


 スクアーロとマイケルが黙る。

 急いでいたのは事実だが、何も言わずに出てきている。


「拠点にも連絡していない」

「どちらの連絡も作戦が終わってからだ」


 マイケルに連絡を止められる。

 作戦行動中に連絡するのは不味い。ただ、他にも何か忘れている気がする。

 忘れたことを思い出そうとすると、軍人から話しかけられる。


「ビルの図面が送られてきました。共有します」


 送られてきた図面を見ると4階建て。

 一部屋が大きく倉庫として使われていそうだ。1階には搬入用の大きいドアがある。


「部屋が広いからソードデバイスを振り回して戦えるか」


 スクアーロとマイケルも同じ意見だったようで同意してくる。

 作戦を考えていると、軍人から話しかけられる。


「軍と警察の地上部隊も移動中とのことです」

「分かりました」


 当然軍だけではなく警察も動き出すか。


「拘束具と通信コードです」


 コードをデバイスに登録する。

 拘束具を邪魔にならない位置に装備して、動きに阻害がないかを点検する。

 装備の確認が終わると、パワードスーツの支援機能で表示している地図を見る。飛行船が貿易代行の会社がある地点に近い。

 飛行船のハッチが開く。


「目標地点に到着! 降下!」


 降りるビルを確認した後、エレメンタルカートリッジからパワードスーツへとエネルギーを供給する。

 開けられた飛行船のハッチから自分、スクアーロ、マイケルが降りる。

 重力に引かれて落ちていく。


 空気を切り裂く凄まじい音が響く。

 パワードスーツのバリアによって空気の抵抗は感じることがない。

 三区の天井付近からビルの屋上に降り立つ。

 パワードスーツの機能は優秀で軽い音を立てただけ。


 ビルの屋上でパワードスーツのセンサーを全開にする。

 三階から人の反応がある。

 センサーを妨害するような建材は使用していないのか。


「三階に人がいる。スクアーロ、自分、マイケルの順番で進む」

「了解」


 屋上についていたドアは鍵がかけられていた。

 スクアーロがドアを切り裂いて先を進む。

 ビルの中は荷物で溢れているが、図面通りに仕切りがない。


 スクアーロを先頭に音もなくビルの中をかけていく。

 四階から三階に近づくと声が聞こえてくる。

 止まるように指示を出す。

 パワードスーツの支援機能に表示されているのは三人。


「おい! 軍隊がビルを囲んでるぞ!」


 一人目。

 どうやら地上部隊の展開が始まったようだ。


「不味い。生きて牢獄から出て来られるか……」


 二人目。


「クソ! こんな時に二人はどこをほっつき歩いている!」


 三人目。

 支援機能に表示されているのと同じように声も三人。


「二人? そういえば最近見てない気が……いや、ルーカスはこないだ来たか?」

「クソ! 私も思い出せない。薬は本当に問題ない物だったんだろな!」

「わかるかよ!」


 当たりか。

 薬の副作用で記憶が混濁しているようだ。


 スクアーロに進むように指示を出す。

 階段を音もなく降りていく。

 階段から様子をうかがうと三人の男が目視できた。

 三人で騒いでいるため、まだこちらには気づいていない。


「スクアーロは左のグレーのスーツ。マイケルは右の黒のスーツ。自分は黒のレザージャケットをやる」

「了解」


 三人で一気に距離を詰める。


「なんだお前ら! 何処から入ってきた!」


 最初にこちらに気づいたのは自分が相手するレザージャケットの男。

 男はソードデバイスを腰に差している。鞘からソードデバイスを抜くと正眼に構える。エレメンタルカートリッジからエネルギーを供給したのか、ソードデバイスが黄緑色の光をはなつ。


 ソードデバイスの構え方から素人ではないのがわかる。

 自分もソードデバイスを抜く。

 エレメンタルカートリッジからエネルギーを供給すると黄緑色に光り始める。


 こちらがソードデバイスを抜くと男の顔が引き攣る。

 それでも男は自分にソードデバイスを振り下ろしてくる。

 思ったよりもデバイスを振り下ろす速度が速い。素人ではないと思ったがパワードスーツを着ているのか?


 パワードスーツを着ているか確認するため、男のソードデバイスに自分のソードデバイスをぶつける。

 デバイス同士がぶつかると凄まじい音が響き、エレメンタルカートリッジから供給されるエネルギーが反応して光をはなつ。

 男は吹き飛ばない。

 やはりパワードスーツを着ている。


 デバイス同士がぶつかり光る中、男の顔を見る。

 男は食いしばり、目を見開いている。

 力を相当入れているようだ。

 こちらはまだ余裕があり、パワードスーツの出力に差がある。しかし、一般流通する製品よりは出力があるように思える。


「学生服を着たガキがなんでソードデバイスを振り回してやがる!」


 男がわめくように話しかけてくる。

 付き合う義理はないが、少し話を聞いてみたい。


「おじさんこそ使用許可を持っているのかな?」

「持っているに決まっているだろ! お前こそ持っていないだろ!」


 男はわめきながらも大きく飛び退く。

 飛びのきながらも、追撃されないよう剣先をこちらに向けたまま。

 戦い慣れている。


「許可証は持っているよ。外にいる軍に聞いてみる?」


 自分も剣を相手に向けて構える。

 パワードスーツのバリアがあるとはいえ、油断はできない。


「軍人かよ! なんで学生服を着てやがる!」

「いや、ギルド員だよ。なんで探しにきたかは心当たりがあるだろ?」


 男の剣が揺れる。

 男の返事は剣。


 黄緑色の光をまといながら、最初と同じ上段から振り下ろし。

 先ほどと同様に受けてやる義理はない。攻撃範囲から飛び退く。


「シッ」


 飛び退いた自分を追いかけるように、男は振り下ろした剣を巻き上げるように振り上げる。

 次は男の側面を取るように移動する。

 側面はがら空き。


 パワードスーツのバリアを当てにした隙の多い攻撃。

 ソードデバイスを振れば致命的な一撃を与えられる。


 さて、男のパワードスーツはエレメンタルカートリッジを装備しているのだろうか? 残りのエレメンタルカートリッジとデバイスは三組。

 この場にいるのは三人。

 パワードスーツの出力的にどちらかわからない。

 バリアを張っていない場合、ソードデバイスを振り切ってしまうと即死する。


「バリア張っているのかな?」


 男は目を見開いて、体制を崩しながらも飛び退く。

 これもまた隙だらけ。

 男の慌てようから、バリアを張っていないのだと理解して追撃しない。


「エレメンタルカートリッジを使う前提の剣技。元軍人あたりか」


 男は荒い息を整えようと肩が上下している。


「なぜ、リスクのある仕事を?」

「金だよ」


 ありふれた理由。

 ギルド員になれば稼ぐことはできるだろうに。

 いや、ギルド員になれないほど素行不良だったとかか。


「依頼主は?」

「思い出せない」


 男は会話を終わらせるようなことを言う、息を整えるため時間を稼ぎたいはずなのに。嘘の可能性もあるが……。


「薬の影響か?」

「薬。そう薬だ。飲んでから頭がぐちゃぐちゃだ」


 男は頭に手を当てて、体を揺らしながらこちらに歩いてくる。


「薬の副作用については聞いていなかったのか?」

「ああ、聞いていないよ!」


 男はソードデバイスの間合に入ると、片手でソードデバイスを横凪に振るう。

 あからさまな攻撃に当たるわけもない。


「もういいか」


 自分の呟きと共に、男の顔に焦りが浮かぶ。

 再び無茶な動きでソードデバイスを振り上げる。

 どうやら男は上段からの振り下ろす攻撃が得意なようだ。


 踏み込み男の間合いに入る。

 踏み込んでくると思っていなかったのか、男は雑にソードデバイスを振り下ろす。

 自分はソードデバイスを利き腕と逆の左腕に持ち、男のソードデバイスを片腕で受ける。


「なっ」


 男が驚愕の声を上げる。

 男は両腕で振り下ろしているのに、自分は片腕。


「装備差だね」

「やめっ」


 空いている右腕で胴体を殴る。

 バリアはないようだが、パワードスーツの硬い感触を一瞬感じた。

 男は数メートル吹き飛んで止まる。


「生きてるかな?」


 手加減したつもりだが、パワードスーツの出力を上げていたため少し怪しい。

 警戒を怠らず男に近づくと息はしている。

 骨折はしてそうだが息をしているのならば、すぐに死ぬことはないだろう。

 拘束具を使って拘束する。


「終わったか」


 先に倒して自分を見ていたマイケルが近づいてくる。

 センサーでマイケルの戦いが一瞬で終わったのは捉えていた。


「マイケルの相手は弱すぎた?」

「ああ、話を聞き出す前に気絶した。もっと手加減すべきだったな」


 マイケルが相手するには弱すぎたようだ。

 自分が相手した男が一番手だれだったかもしれない。

 手だれとは言っても、装備差がない状態で戦っても自分が勝つ自信がある。

 男は装備に頼りすぎで動きが雑すぎた。


「マイケルは相手を殺さなかっただけ上出来だろ」


 スクアーロがそんなことを言いながら近づいてくる。

 マイケル同様に一瞬で戦いを終わらせていたスクアーロは、手にソードデバイスを三本持っている。男たちが持っていたソードデバイスを回収してくれたようだ。


「エレメンタルカートリッジ付きのソードデバイス三個。これで流出した五個全て回収できたか」

「やっと終わりだ」


 スクアーロはいい笑顔を浮かべている。

 エレメンタルカートリッジの捜索で三区を歩き回るのに飽きていたのだろう。自分も同じ気持ちであるため、とてもよく理解できる。


「三人を放置もできない。軍と警察を呼ぶか」


 連絡を入れる前にパワードスーツの支援機能で他に人が建物にいないか確認する。自分たち以外の反応はない。特殊な装備を持っていない限りは建物内に人はいない。


 渡されたコードを使って軍へ連絡を入れる。

 エレメンタルカートリッジがあったことと、現在の状況を伝える。すぐに向かうとの返事があり、自分たちはこのまま拘束した男たちを見張っておいてほしいとお願いをされる。


 軍が来るのを待っていると、周囲を見回していたスクアーロが質問してくる。


「なあ、なんで三階が事務所なんだ?」


 言われてみるとなぜ三階に事務所がある?

 普通は一階か二階ではないのか?


「確かに」

「四階は倉庫だったよな」

「ああ。物が山積みになっていたな」


 荷物を持ち上げる苦労を考えて上の階にしているなら、最上階である四階に事務所を作りそうだ。

 降りてきた四階の階段を眺めていると、近くに二階に降りる階段が近くにないことに気づく。

 ビルの構造を改めてみると、階段が全て対角線上にある。


「倉庫として使っているのになんで階段の位置が全て違うんだ?」


 搬入用のエレベーターらしきものはありはするが、階段を全く使わないと言うことはないだろう。

 事務所が三階にあることも含め、作りが変なビルだ。


「時間稼ぎのためかもしれないな」


 マイケルの指摘は正しいかもしれない。

 犯罪する前提でビルは作られている可能性がある。実際に犯罪者がこのビルを使っているしな。

 しかし、犯罪のためにビルを建てたとすれば随分と手間をかけている。


 大掛かりな犯罪集団だったのであれば、エレメンタルカートリッジだけではなく、他にも隠されているかもしれない。

 パワードスーツのセンサーで建物を調べていると、大量の人が建物に侵入してくる。


「軍が建物に入ったか」


 軍は規則正しい動きで建物内を制圧していく。

 すぐに三階までたどり着きそうだ。

 実際すぐに二階の階段から足音が響き始めた。

 ソードデバイスのエネルギーを切って鞘にしまう。


「こちらです」


 声をかけると階段を上がってきた軍人に銃口を向けられる。

 両手を上げて敵意がないことを伝える。

 バリアがあるとはいえ撃たれたくはない。


「ギルドの方ですね」

「はい」

「犯罪者が使用したエレメンタルカートリッジを回収します」


 男たちから奪ったソードデバイスを軍人に渡す。

 製造番号の確認している。


「流出したエレメンタルカートリッジの製造番号と一致したようです」

「これで五個全てか」


 ようやく終わった。

 突入時からの話を聞かれて答えていく。


「ご協力ありがとうございます。ビルは軍と警察で処理します」

「それなんですが、ビルの作りが変です。エレメンタルカートリッジ以外にも違法なものが出てくるかもしれません」

「了解しました」


 軍人は一瞬眉をひそめたが、すぐに返事を返した。


「後はお願いします」

「はっ」


 ギルドにビルを捜査する権利はない。

 後は軍と警察に任せて大人しく帰る。

 軍人に囲まれてビルの外まで案内され、ビルの前で解放される。


「終わったけど、ここに放り出されるのか……」


 送迎付きではないようだ。

 地図を確認すると、学校や拠点から離れている。

 車を手配して、近くに来た車に乗る。


「フカ、拠点に向かう」

「分かった」


 マイケルの指示通り拠点に向かうルートを設定する。

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