奴隷の亜人は偶然助けた皇太子殿下に拾われたので、皇太子をめちゃくちゃ愛します。~ただの奴隷なのに、皇太子殿下からの溺愛が止まりません~
「ったく、遅いんだよ! ジャンヌ、この亜人女! 飯抜きにするぞっ!」
坂の向こう側から怒声が響き渡る。叫んでいるのは自分と同じ奴隷だった。私は奴隷の中でも最も身分が低い亜人だ。同じ奴隷仲間にですら、唾を吐かれ石を投げられる。
若い亜人は酷使しろ。
主人の指示通り、毎日のように無茶苦茶な量の仕事を押し付けられた。主人たちにも見てみぬふりをされ、時にはいわれもない暴力を受けるときもある。
木材を積んだ荷車を、馬も使う事も許されず一人で引いている。歯を食いしばって、とにかく前に進むようにと踏ん張るが、なかなか進まない。
それはそうだ。もともとは隣国の騎士団の一員だったとはいえ、女であり、独りではどうすることもできないのである。それでも、文句の一つも言わずに働いていたのは、何か言えばさらに嫌がらせがひどくなるだけだった。
何とか荷車を運び終えると、私に投げ渡されたのは欠けたパン一つだけだった。それでも私はこう言うしかない。
「こんな私に、わざわざありがとうございます」
ずいぶんと卑屈になったと思う。この言葉を発するたびにそう感じるようになった。だが疲れで反抗を起こす気もなくされている。私はこうして飼い殺されて、死んでも放っておかれるのだろうか、と思った。
それだけはいやだ。悔しくて仕方がなかった。あの奴隷たちや主人たちにではない。こうして運命を受け入れようとしている自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
「生きているんだ……亜人だろうと、なんだろうと……! 生き抜いてやる……!」
そう小さくも、心を震わせながら声を発した。どんなに理不尽な目に遭っても、亜人という下級種族であろうとも、運命だと言われようとも、生き抜いてやると思った。しかし、叫んだところで現状が変わることはない。現実は非情で、私を打ちのめしてこようとしている。
なぜ騎士団にいたのにもかかわらず、奴隷に堕ちたのか。
はめられたのだった。もともと頑丈な体を活かし、成り上がろうとして一兵卒から始めた。兵力になるならば、下級種族だろうがなんだろうが、門戸が開いていたため、文句を言われることはなかった。時には前線に出て戦った。そうしているうちに当時の騎士団長の目に入り、騎士にならないかと言われた。
私は大きく喜び、その誘いを受けた。文字の読み書きも教えてもらい、騎士団の一員として一生懸命働いていた時間は私にとって幸せだった。ここには種族もなにもない。ただ仲間がいると思っていたのだ。
だが、勘違いだったと思い知らされたのは団長が何者かに殺された事件が起きたことだった。その死が白日にさらされると、即座に犯人仕立て上げられた。そんなことを、私がするはずがない。そう叫んだが、聞き入られることはなかった。死刑だけは何とか免れたが、身分を奪われ、罪人として奴隷商人に売り払われた。あの時は、すべてを失ったと思って、何も考えることもできず、今の雇い主の元に買われた。ちょうど、王国の中心から離れた農場だった。いつしかこの場所は帝国領、つまり今の国の領地になったが、それで立場が変わったわけではない。
なぜ生きたいのか。問うたこともある。答えることはできなかった。ただ生き延びれば、何とかなると、前向きに考えるほかなかったのだ。死ぬだけは嫌だと、気力を振り絞って生きるしかない。
「……いつか、亜人もヒトも関係ない世界を作りたい」
自分には過分な夢なのかもしれない。でも、叶えたいとずっと思っていた。幼いころから、亜人だからと言って虐められ、兵卒になってからも扱いの差があった。騎士になって少しの間だけが、叶えられたと思っていた。しかしそれは幻想でしかなかった。
もはや執念なのかもしれない。ねぐらにしている洞窟に向かいながら思う。亜人の奴隷には寝る場所すら与えられなかった。逃げられないよう、首輪はつけられているが。
伸びきった髪を揺らし、耳と尻尾は垂れ下がり、服はボロボロで、もはや衣服としての機能など持っていない。そんな自分が水たまりに映り込む。
「……っ!」
と、洞窟を見て何かに気が付いた。
黒い鎧を着こんだ男がいる。黄金の髪に、鋭いがしっかりとした意志を持つ目つき。息は荒い。どこか怪我をしているようだ。帝国の軍人だろうか。ただ、思わずその顔をずっと見つめてしまっていた。
「おい」
と声を掛けられ、やっと我に返った。低いがはっきりとしていて、よく通る声だった。心臓が鳴る。ドクン、ドクンと、鼓動が私の体を揺らしていた。なんだろう、この気持ちは。この感覚は。ただ、見つめていることしかできなかった。軍人は寝ころんでいた体をゆっくり起こして、こちらを見つめてくる。彼もまた、しばらく私のことを見つめていた。
互いに沈黙が続いていたけれども、雨が降ってきたのをきっかけに、軍人が口を開く。
「逃亡防止用の首輪……奴隷か」
「は、はい……そうですが」
「すまないな、お前の場所か、ここは」
亜人に謝る軍人がいるとは思わなかった。思わず驚いたが、声には出さなかった。出さなかったつもりだったが、軍人はクク、と笑って言う。
「耳と尻尾が逆立っているぞ。驚いたか、それとも怒ったか?」
「いや、そういうわけでは……」
「近くに寄れ。許す」
尊大な口調だ。だけれども、自然と歩み寄ってしまう。恐る恐ると、軍人の元へ近づいて、その前で座った。そうした瞬間、軍人は私の体を抱きしめてきて、ゆっくりとなで回す。耳が垂れ下がり、甘い声を出しそうになった。
「温かいな」
驚きふためき、なんとか軍人から逃げようと思ったが、体が言う事を聞いてくれない。まるで受け入れるかのように抱きしめられていた。
「すまない、突然だったな……ちょうど寒かったから、温かいものが欲しかった」
「私の体など……暖かくもなんともないでしょう」
「いや、温かい。ぬくもりを感じる」
何を言っているのだ、この男は。と心の中で訝しげに思っていたが、軍人はふうと息を吐くと、私を解放した。解放した、というより腕から力が無くなって、垂れ下がった。
よく見れば、わき腹に傷がある。軍人の顔色も悪かった。私はどうしようかと慌てた。こんな服で傷をふさぐわけにもいかない。傷薬ならば、どうにか手に入れてこられるかもしれない。
「少しお待ちください!」
私は空腹すら忘れて、走り出した。なぜこんなにもあの男に必死になっているのかわからなかった。わからなかったが、とにかく助けなければと思った。
主人の家に忍び込み、傷薬や清潔な布、食べ物を何とか調達した。ばれたらどうなるか、自分がよく分かっていたが、構わないと思って駆け抜けた。洞窟に戻って、軍人の元に戻ると傷薬や布で傷をふさいで、食べ物を渡した。軍人は構わず食べ始める。
「ありがとう。助かった」
「いえ……」
「この恩は忘れない」
軍人は立ち上がり、雨が降っている外へと出て行った。追いかけようとしたが、もうすでに姿はなかった。素早い動きなのか、雨のせいだったのか。わからなかったが、もう一度彼に会いたいと思う。
しかし、その前に私は死んでしまうのだろうなと、思った。ある日洞窟から引っ張り出され、主人の前に突き出された私は、怒り狂っている主人とその妻の前で土下座をさせられていた。
「お前は盗みを働いたそうだな?」
私はあの夜の時のことがばれていたのだと、理解した。しかし、話を聞く限り金や財産なども盗んだと、話が膨らみだしている。他の奴隷たちがニヤニヤと笑っているのを見ると、謂われもないことすら報告されたのだろう。まったく、なんでこう二度も同じ目に遭うのか、学習をしない自分に嫌気がさす。運命という者があるのならば、なおさら呪いそうになる。
私は口を堅く結んで、何も言わなかった。何か言えば、鞭どころじゃなくなるのかもしれないと体に刻まれた恐怖心が邪魔をしてくる。だけれども、今回は恐怖心だけではなかった。あの軍人を助けたこと、その誇りを汚されたくなかった。
「何も言わない、ということは認めるということだな、この愚図め! 亜人風情が、つけあがりよって!」
「そうだ、なぜおまえは何も言わない」
どこからともなく、あの時の声が聞こえてきた。ゆっくりと顔を上げる。主人や奉公人、奴隷たちが動揺して浮足立っているようにも思える。あたりを見渡すと、こちらにやってくる軍団がいた。その先頭にはあの時の軍人がいた。
「フェルドース皇太子の御前である!」
控えていた兵士が叫ぶとともに、奴隷たちが慌てて平伏し始めた。主人も手をゴマするように動かし、へらへらとした笑みを浮かべて軍人……フェルドース皇太子に近づいた。
「こ、これは殿下……突然のご来訪ですが、いったいどのようなご用件で……?」
「うむ、この女子に興味があってな。雨の中、私がこの農場へ逃げ延びたという知らせがあったのにもかかわらず、誰も迎えにこなかったが、この女子は私を何も知らず、ただひたすら助けてくれたのだ」
「……っ! それは誤解です、殿下! そうです、私がこの亜人に命を下して……」
「嘘を言うな!」
私は叫んだ。わなわなと震えながら、私はゆっくりと立ち上がる。ふらつくが、それでもしっかりと地面に足をつけた。
「しゅ、主人に対してその口答えはなんだ!?」
「私がお前に主人らしいことなどされた覚えはない! 私はただ、この人を救いたかっただけだ! お前の命令など知るか!」
「……き、貴様……殿下! このような奴隷の言葉など……」
「ああ、聞き入れるつもりはない」
フェルドース皇太子の言葉に、私は愕然としそうになったが、彼はすぐに私のことを抱き上げてきた。驚き、声を上げられなくなったが、彼は優しい笑みを浮かべると、そのまま馬に乗ってしまった。
「この女子は私が引き取らせてもらおう。調べさせてもらう」
「え、あ……」
「恩は忘れぬと言っただろう?」
耳元でささやいた声が小恥ずかしくて、くすぐったくて、耳が勝手に動いてしまう。そして、踵を返そうとした。が、その前にフェルドース皇太子は冷たい声を発した。
「そうそう、お前たちには我が帝国にではなく、敵対している王国へのスパイ容疑がかけられている。証拠も挙がっているから、覚悟をしておけよ」
フェルドース皇太子がそういうと、兵士たちが主人たちを囲み始めた。彼らはひどくおびえ、叫び散らしていたが、兵士たちによって連れていかれてしまった。
何が起こったか、私にはわからなかったが、ともかく助かったようだ。
そのまま抱きかかえられたまま、私は帝都へと連れていかれた。皇太子が亜人を抱きかかえている、その状況だけでも異様だったはずなのに、彼は堂々とした状態で帝都を走り、宮殿へと私は連れていかれた。
宮殿の一室で、私は着替えさせられ、髪も整えられた。騎士団にいたときよりも煌びやかな姿になったと思い、なんだか恥ずかしくなってしまった。そして、私は彼がいるという執務部屋に案内される。
私はひとまず深呼吸をして、部屋の扉のノブに手をかける。そして作法も関係なく、扉を勢いよく開けた。
すると、机に足をかけながら何かの筒をこちらに向けているフェルドース皇太子の姿があった。フェルドース皇太子は筒を上に向け、入ってきたのが私だと気づくと、つまらなそうな表情を浮かべて筒をソファーに投げた。
「なんだ、驚かないのか。つまらないやつめ」
「申し訳ございません」
「それとも、本当に撃てば驚いた顔を見せたか?」
「……? なんのことでしょう」
私は首をかしげるだけだったが、フェルドース皇太子は自分の膝を打って笑い出し、しばらくそのまま笑ったままだった。
状況がつかめず、私は扉を閉めて一先ずフェルドース皇太子の方へと近づいていく。フェルドース皇太子はある程度近づいた後、にやりとした笑いに切り替え、私の方を見た。
「あれが銃だと知っていたか?」
「ジュウ?」
「やはり知らないか。王国が遅れているのか、それともお前の知識が少ないのか。まあでもどっちでもいいがな。構えられてもなお呆けた顔をしていたのは笑い種だ」
「……私が王国の亜人だったこと、ご存じだったのですね」
「調べさせてもらった。元騎士団の亜人で、騎士団長殺しの罪で奴隷に堕ちた……が、どうせお前を妬んだ奴の仕業だろう」
「……今となってはわかりません」
そう、真相なんてものはわからない。今は帝国の奴隷なのだから。しかし、フェルドース皇太子は私に近づくと、いつかのように私を抱きしめ、なで回してくる。
「あの時のように暖かいな」
「……なぜ私を助けてくれたのですか?」
「恩を返すと言っただろう。借りがあるのは気に食わないのでね。それに……」
「それに?」
「そばに置いておくのも悪くない、と思ったからだ」
「奴隷としてですか?」
そう言うと、フェルドース皇太子は少しだけ苛立ったような、悲しそうな表情を浮かべた。思わず頭を下げようとするが、それすらも許されず、抱きしめられる力が強くなるばかりだ。
「……好きなものをそばに置いて、何が悪い?」
「え……? それは……」
「ともかく、お前は今日から奴隷ではなく、俺の秘書として働け。これは命令だ」
「……わかりました。しかし、秘書とはどういうことを……?」
「それは部下が教える。とりあえず、今はそばにいればいい、それだけだ」
フェルドース皇太子はそう言って、私を放した。そして執務机に向かって座る。
「それにお前は騎士として働いていたんだ、少しは俺の護衛としても役立つだろう」
「……はい! 頑張ります!」
なんだろう、彼の体から離れたとき、落ち着くよりも何か寂しさを感じてしまった。私はどうしてしまったのだろうと、思いながらも、彼の命令を聞くことしかできなかった。
ともかく、私は秘書という役割を果たすことにした。髪も短くし、動きやすいようにしてフェルドース皇太子の護衛も務めた。最初はただ、それだけだと思っていたのだけれど、私の中の何かが日に日に膨らんでいくのがわかって、彼のそばにいるときは心臓の鼓動が止まらなかった。
ある日のこと。私が呼び出され、フェルドース皇太子は突如「帝都の視察に行くぞ」と言われ、帝都民の格好をさせられ、恋人同士のふりをして帝都を歩き回ることになった。
私はこれが逢引ではないかと思って、顔をずっと赤らめてしまっていた。堂々としているフェルドース皇太子がすごいと思って、私もしっかりしようと思う。
そんな時だった。私たちを見て、正体もわからずに指をさす若者たちが言った。
「おい見ろよ、あいつ、亜人なんか連れてるぜ」
「下級種族といて楽しんだか。ま、ただの体目当てじゃねぇか? なかなか見た目はいいじゃねぇか」
「へっへっへ、そりゃちげぇねぇ」
私はその言葉に激昂して、座っていたテーブルの席から思い切り立ち上がり、その男たちに詰め寄る。若者たちは少し驚いて後ずさりするも、こちらを睨みつけてくる。私は負けじと睨み返し、彼らに向かって叫ぶ。
「亜人だからなんですか! 私たちだって同じ人間です!」
「何を言ってやがる、亜人は亜人だろ。ヒトじゃねぇ」
「亜人だって、ヒトに恋することだってあるんです! ヒトだって……もしかしたらあるかもしれません! 少なくとも、亜人とヒトが一緒にいることは変ではありません! 先ほどの言葉を撤回してください!」
「何を生意気なっ!?」
私に組みかかろうとした男の腕をつかみ、背負い投げした。地面に叩きつけられた男は顔を赤らめて怒り、ナイフを取り出して向けてくる。私もまた八重歯をむき出しにして尻尾を逆立て威嚇をする。しかし、その腕を急に後ろから掴まれ、引き寄せられた。
「なっ……殿」
「しっ」
フェルドース皇太子は静寂を促し、私の前に躍り出た。若者たちは威圧に押し負けるように下がり始める。ナイフを持った男も後ずさり始める。
「俺の恋人が失礼した」
「ああ? 謝罪するなら……」
「謝罪はした。だが、これ以上何かするのであれば容赦はしない。それに……」
フェルドース皇太子の目がギラリと光る。男たちはヒッと悲鳴を上げた。
「ヒトと亜人が結ばれるというところも証明してやろう。その日まで待つことだな」
「な、なんだと……!?」
「こら、何をしているかっ!」
と、騒ぎを聞きつけた警備兵たちが駆け付けてきた。若者たちは悪態をつきながら散るように逃げ出していく。警備兵はフェルドース皇太子の顔を見るなり、彼の正体を掴み、敬礼をしてその場から去っていく。
騒ぎが起こっている。私はただ何もできなかったのが悔しくて、手を握る。悔しい、悔しい。私は涙を流しそうになった。だけれど、それをとどめようと必死になって喘ぎ声を出す。
そんな私をフェルドース皇太子が手を握って、その場から離れ、路地裏に連れていかれる。そして私のことを抱きしめた。
「よくぞ言ってくれた」
「……私、私は……」
「泣くな。証明してやると、誓っただろう? いつもの元気な姿を見せろ」
私は涙をぬぐって、「はいっ!」と大きな声で答えた。私は、この人のことが好きだ。今、はっきりとわかった。この人と一緒にいたい。誰が何を言おうとも変わらない。
だからこそだった。敵対している『王国』との戦いが始まると聞いて、フェルドース皇太子も出陣すると聞いた時、真っ先に一緒に行くことを進言した。フェルドース皇太子は最初猛反対したが、私は絶対に譲らなかった。皇太子は最終的に折れて、私を連れて行ってくれた。
戦いは膠着状態となった。魔法を使う『王国』と、技術を駆使する『帝国』。両者の戦いは一進一退となり、決定打が見られなかった。その時、王国の騎士団が突撃を仕掛けてくる。私はツヴァイヘンダーを片手に、フェルドース皇太子とともに戦った。乱戦となり、私たちは他の兵士と離ればなれになってしまったがそれでも戦い続けた。
森に入り、しばらく身を潜めている中、騎士達の怒号が聞こえてくる。敵がいよいよ近づいてくる。覚悟を決めて、皇太子だけでも逃がそうと立ち上がろうとした。だけれど、その体を引き寄せ、私と口づけをした。私は突然の出来事に呆然としてしまう。口を放したフェルドース皇太子が意地悪な笑みを浮かべて言う。
「尻尾が立っているぞ」
「……殿下は意地悪です」
「フェルと呼べ。一度ぐらいは」
「……フェル。貴方は生き残らなければいけません。私がいなくても、ヒトと亜人が一緒に住める世界を」
「いやだな。私はお前とそれをかなえたい。それにな」
フェルドース皇太子がにやりと笑って言った。
「私が何もせず、ただ突っ込んでいったと思ったか?」
「え?」
何のことやら、と思っていたが、騎士団たちの声が浮足立っているようにも思える。そして一人、その騎士団を示す鎧を着たものが一人現れた。亜人のようだった。
「フェルドース皇太子、敵国故これ以上は近づけませんが、感謝いたします」
そう言い残し、騎士は去っていった。私は何が起こったのかわからず、ただ唖然とするしかできなかった。フェルは立ち上がり、私の頭を撫で始める。耳を重点的に撫でられ、私は少し甘い声を出してしまった。
「ど、どういうことなんですか?」
私は何とか訊ねることができた。フェルはふっと笑う。
「お前がいた騎士団のことを調べていた。奴らは闇商人と裏取引をして、金を横領していたことを判明してな。それを王国の信頼できる騎士に流した。奴らが退いていったところを見ると、しっかりと判明してくれたようだ」
「そんなことを……」
「すまないな。黙っていて」
フェルは私をゆっくりと撫でてくる。私はお返しとばかりにキスをした。
風の噂によれば、あの騎士団の連中は、戦場で混乱を招いたとして軍事裁判にかけられ、追放、もしくは処刑されたという。私としてはもはや過去の出来事だと思って、何も感じなかったが、過去の負債を払拭したと思えたことが嬉しかった。
帝都に戻り、私たちが凱旋している中。フェルは私の手を取って、微笑みながら言った。
「私と結婚をしよう」
私は頷き、涙をこらえながら。
「はい、不束者ですが」
と返した。
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