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短編集【不思議】

目玉焼き

作者: ポン酢

ある日、目玉焼きを焼こうと卵を割った。


そうしたら、中から変なものが出てきた。


「おめでとうございます!100年にひとりの幸運の持ち主にあなたは選ばれました!」


そんな事より、俺は目玉焼きが食べたい。

早くしないと、トーストが冷めてしまう。


俺は無視して、新しい卵を割った。

じゅっと音を立てて、フライパンに乗った。


良かった。

普通の卵だ。


「あの~聞いていますか?」


「今、それどころじゃないから。」


ここからが肝心だ。

俺は半熟の目玉焼きしか食べない。


しかも裏だけ焼くやつじゃない。

水をちょっと入れて上側も蒸らして作るやつだ。


俺は塩コショウを振りかけ、少量の水を入れ蓋をする。

水は入れすぎると目玉焼きがべちゃべちゃになるし、少なすぎれば上側がちゃんと蒸れないし、堅焼きになってしまう。


様子を見ながら、ここぞと言うときに、火を止める。


バターを塗っておいたトーストにさっとのせる。


「よし!……で、あんた何?何だって?」


俺はやっとそれに話しかけた。


「………………。」


そいつは何故か黙っている。


その目は俺の目玉焼きを見ている。

トーストを左右に動かすと、猫の子みたいに顔がそれを追いかけた。


「………食べたいのか?」


こくりと頷く。


卵から出てきたのに、目玉焼きを食いたいとは、なんてやつだ。


共食いも面白いかと差し出すと、ちゅるんと目玉焼きだけ食べやがった!


「何でトーストを残す!!今が両方の食べ時だったのに!!」


「ご、ごめんなさい。お皿かと思いました…。」


あぁ、なるほど。


「とりあえずトーストも食べて。」


俺はまた、パンから焼き始める。

ここぞと言うタイミングで食べたいのだ。

トーストも目玉焼きも、妥協したくない。


フライパンのコンディションを整えて、油をしく。


「あの~話を~。」


「今、忙しい。」


フライパンに卵を落とす。


「あっ!!」


「どうしました?」


「見てこれ。」


今度の卵は黄身が2つあった。

今日はいいことがありそうだ。


俺は上機嫌になって、塩コショウをふる。

水を入れて蓋をする。


「あ!トースト!!」


しまった!忘れていた!


「なぁ!ちょっとトーストにバター縫って!!」


「え?私がですか!?」


「他に誰がいるんだよ!!」


なんだかわからないそれは、四苦八苦しながらバターを塗ってくれた。


「持ってきてっ!!」


ワンルームに俺の声が響く。


慌ててそいつが持ってきた熱々のトーストに半熟の目玉焼きを乗せる。


「やった!完璧!!ありがとう!!」


かぶりついたトーストは、とても美味しくできた。


黄身も半熟ので、噛むとトロリと溢れてくる。

ずずっと吸い上げるのはご愛嬌だ。


黄身が2つだから2倍旨い。


変なのは、少し困ったように笑いながら、俺が食べ終わるのを待っていた。


「で?何だって?」


俺はコーヒーを啜りながら聞いた。


そいつは今度は俺のマグカップを見つめている。


「飲みたいのか?」


こくりと頷く。


俺は仕方なく、電気ケトルでお湯を沸かし、コーヒーをいれてやる。


「熱っ!苦っ!!」


なんだかコントみたいだな。


俺は砂糖と牛乳を出してやる。

量がわからなそうだったので、甘めにした。


「あ、美味しいです。」


「それは良かった。」


ほくほくとコーヒーを飲んでいるので、俺は洗濯機を回しに立ち上がった。


それをそいつは不思議そうに眺めていた。


「何をしてるんですか?」


「洗濯。」


ピッとスイッチを押せば、後はお任せだ。


「それで何だって?」


「はい、あなたが100年にひとりの幸運の持ち主に選ばれたんです。」


「え?何それ、いらない。帰って。」


「は?え?」


「新手の宗教だろ?いらないよ、金ないし。」


「宗教ではありません!」


「どうせお約束で壺とか売り付けるんだろ?」


「違います!あなたの願いを、ひとつだけ叶えると言うやつです!」


「へ~~~。」


「信じてませんね?」


「そりゃ、卵から出てきたしね?」


「玄関から入ってくるよりは、それっぽくないですか?」


そう言われて見ればそうかもしれない。


「卵から出てきたのに、目玉焼き食ったよな?共食い?」


「卵はたまたまの出口だっただけで、私は卵ではありません!」


「卵だけにたまたまなんだ。」


「違います。」


変なのは俺の寒いギャグに若干、引いていた。


「何で目玉焼き食べたんだ?」


「それは……とても美味しそうだったので……。」


「腹、減ってたの?」


「まあ、100年に一度しか出てきませんから……。」


なんだかわからないやつも、なんだか大変なんだな。


「なら、昼飯も食うか?」





俺はフライパンに卵を落とす。

卵を2つ落とす。


ハンバーグは冷凍だが、ご愛嬌だ。


チーンとレンジが鳴る。


「鳴りましたよ?どうすれば?」


「テーブルに持ってって!熱いから落とすなよ!」


塩コショウをして、水を少し入れる。

入れすぎても、入れなさすぎても駄目だ。


蓋をして、ちょうどいいタイミングで蓋をあける。


「熱いフライパン通るから、退いて!」


目玉焼きをハンバーグに乗せる。

2つのお皿に1つずつ乗せる。


ひとまず流しにフライパンを突っ込んで、ご飯をよそった。


熱々のうちに食べなければもったいない。


目玉焼きに箸を入れる。

トロリと黄身が流れ出て、ハンバーグにかかる。


完璧だ。


俺はそれをご飯の上に乗せた。


顔を上げた俺の目に、そいつが目玉焼きをちゅるんと飲み込むのが見えた。


「え?」


「だって、美味しいうちに食べたかったから……。」


うん。

食べ方はひとそれぞれあっていい。


美味しく食べれば、それが一番だ。

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ll?191224709
― 新着の感想 ―
[良い点] 目玉焼きの描写がとても美味しそうで、目玉焼きを食べたくなる作品でした。 私も半熟が好きですね(笑) すごい幸運より、日常の幸せの方がずっと大事だと思わせてくれました。
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