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詩集

人目に触れなかった作品達へ。諦めようとしている君へ。

作者: 片栗キノコ

人目に触れなかった作品達へ。


諦めようとしている君へ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「こんにちは。ようこそいらっしゃいました」


燕尾服を着た女性は軽くお辞儀をする。


(こいつは誰だ?なんのためにここにいるんだ?)


「今、少なからずそう思いましたか?」


(誰に言っているのだろうか…)


「貴方ですよ。そこの貴方」


(…?)


「今、スマホを触っていらっしゃるでしょう?」


そう。君だよ。


「ふふふ、驚きましたか?なんだかメタいですね」

「こう言うのってなんて言うんでしたっけ?私、こういうの疎くって…」


あぁ、まって。離れないでよ。まだ話これから。


「ありゃりゃ…私達の悪い癖が出てしまってますね…」


すぐに本題に入ろうとしないところ…そういうところだな…


「『人目に触れなかった作品達へ』喧嘩売ってますよね。このタイトル」


ははは、自虐ネタだよ。


「貴方が来てくれたので人目には触れましたが。まぁそんなことはいいんです。本題に入りましょう」


そうだな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「貴方は小説を書きますか?それとも見ているだけ?どちらでも構いませんが…少しだけ聞いてください」


彼女はどこからともなく現れた珈琲を啜る。


「ちょっと。勝手に飲ませないでくださいよ」


えっ?雰囲気出るかなと思ったんだけど。


「話が進まないので黙ってください」


……はい。


「小説って面白いですよね。想像でどんな風景にもいけますし、どんな敵だって倒せちゃう!どんな服だって着れます。ほら、燕尾服似合ってるでしょう?」


「人が書いた小説なら尚更ですよね。その人の個性豊かな文章は魅力的です」





「けど…人目に触れなかった作品っていっぱいあるんですよね…。点数もブックマークもついてない…アクセスすらない作品が」



「それは仕方のないことだと分かっているんです。なろうは何万作品と毎日毎日出ては消えて、出ては消えて…」



「私達だってそうです。いつ忘れ去られるかなんてわかりません。だけど遠くないうちにその日は来ます」



「人知れずに朽ちた名作は数知れないでしょう。私達の作品がそうとは言いません。駄文で恥ずかしい物ばかりです」


「正直に言います。今から独りよがりで、愚かで、そして何より人を怒らせかねない言の葉です」




「プライドがありますでしょう。

『私の作品は素晴らしい』と」


「どこかで思っているでしょう。

『なぜ、私の作品を誰も理解せず、無視をするのか』と」


「そして後悔してるでしょう。

『そんなことをちょっとでも思った自分が恥ずかしい』と」


……


「けど、それでいいと思ってるんです。我々作者は自分の作品が素晴らしいと思って出しているんです。口には出しません。あまり考えてもいません。無意識なんです。『あぁ、私の作品は駄文しかないなぁ』と思っていてもどこかで『けど、この作品を理解してくれる人がきっといるはずだよな』と」


「だから作品を恥ずかしげもなくネットに晒すんです」


…………



「そして、人目に触れない。貴方達の作品がどうとかは言うつもりはありません。私達の場合は結局の所、本当に駄文だから埋もれるのです。」


「そしてこう思うのです『理解してくれないか』と」


「なんて愚かで、傲慢で、気色悪い自尊心でしょうか」


「しかも、こんな気味の悪い設定で貴方に語りかけている」


「これはほんの少し頭の片隅にある私達のドス黒い部分なんです。」


「失望しましたか。ペンを握るなと罵りますか」


…そうしてくれたらどれだけ楽になれるか。


「けど、貴方は否定できますか。何も思わず、ただ文字を連ねるのが楽しいから、そんな事だけで貴方は根気よく物語をかけますか」


「私は無理です」


「埋もれてしまった作品達も、それを書いた作者もドス黒い部分なんてあるんじゃないですか」


…書くのは辛い。しんどい。


「そしてどこかで思うんです。『諦めよう』って


「『チンケなプライドを振り回して空振りして終わる。そんな虚しいこと初めからするんじゃなかったな』」

……


………


「貴方もそう思ってませんか…?」


「ドス黒い部分にとっくに気づいているんでしょう?」


「それを知っても諦めず書けることは素晴らしいと思うんです」


……


「だけど…どこかで貴方が自分を責めてしまっているなら」



……私は才能がないな


「いいえ、違うんです。才能なんてほんの一部に過ぎないんです」


……誰も見てくれない


「待ってください。今行きます」


…なにもなかった


「貴方は今、最高に輝いています。なにもなかったなんて言わないでください」


……こんな事なんの意味もない


「そんなことないです。貴方は素晴らしいんだ。ドス黒いなにかが(うごめ)いても貴方は負けじと残した。自分自身を貫いたんです」



何かを残すこと。そこに意味があるんです。

「作品は見てもらって上等」それはわかっています。

だけど、もし、この声があなたに届くのならば…。



今これを読んでいる人はどうか、どうか、そんな自分の作品も愛してください。今の貴方が自分の作品を愛してなくてどうするんですか。いいじゃないですか、駄文でも、誰にも見られなくても。いつか、きっと、必ず私達もあなたの作品を愛しにいきます。いや、傲慢ですよね。わかってます。けど、あなたの作品が人目に触れることを祈って止まないのです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人目に触れた私達より。


諦めようとしていた僕より。


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