人目に触れなかった作品達へ。諦めようとしている君へ。
人目に触れなかった作品達へ。
諦めようとしている君へ。
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「こんにちは。ようこそいらっしゃいました」
燕尾服を着た女性は軽くお辞儀をする。
(こいつは誰だ?なんのためにここにいるんだ?)
「今、少なからずそう思いましたか?」
(誰に言っているのだろうか…)
「貴方ですよ。そこの貴方」
(…?)
「今、スマホを触っていらっしゃるでしょう?」
そう。君だよ。
「ふふふ、驚きましたか?なんだかメタいですね」
「こう言うのってなんて言うんでしたっけ?私、こういうの疎くって…」
あぁ、まって。離れないでよ。まだ話これから。
「ありゃりゃ…私達の悪い癖が出てしまってますね…」
すぐに本題に入ろうとしないところ…そういうところだな…
「『人目に触れなかった作品達へ』喧嘩売ってますよね。このタイトル」
ははは、自虐ネタだよ。
「貴方が来てくれたので人目には触れましたが。まぁそんなことはいいんです。本題に入りましょう」
そうだな。
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「貴方は小説を書きますか?それとも見ているだけ?どちらでも構いませんが…少しだけ聞いてください」
彼女はどこからともなく現れた珈琲を啜る。
「ちょっと。勝手に飲ませないでくださいよ」
えっ?雰囲気出るかなと思ったんだけど。
「話が進まないので黙ってください」
……はい。
「小説って面白いですよね。想像でどんな風景にもいけますし、どんな敵だって倒せちゃう!どんな服だって着れます。ほら、燕尾服似合ってるでしょう?」
「人が書いた小説なら尚更ですよね。その人の個性豊かな文章は魅力的です」
「けど…人目に触れなかった作品っていっぱいあるんですよね…。点数もブックマークもついてない…アクセスすらない作品が」
「それは仕方のないことだと分かっているんです。なろうは何万作品と毎日毎日出ては消えて、出ては消えて…」
「私達だってそうです。いつ忘れ去られるかなんてわかりません。だけど遠くないうちにその日は来ます」
「人知れずに朽ちた名作は数知れないでしょう。私達の作品がそうとは言いません。駄文で恥ずかしい物ばかりです」
「正直に言います。今から独りよがりで、愚かで、そして何より人を怒らせかねない言の葉です」
…
「プライドがありますでしょう。
『私の作品は素晴らしい』と」
「どこかで思っているでしょう。
『なぜ、私の作品を誰も理解せず、無視をするのか』と」
「そして後悔してるでしょう。
『そんなことをちょっとでも思った自分が恥ずかしい』と」
……
「けど、それでいいと思ってるんです。我々作者は自分の作品が素晴らしいと思って出しているんです。口には出しません。あまり考えてもいません。無意識なんです。『あぁ、私の作品は駄文しかないなぁ』と思っていてもどこかで『けど、この作品を理解してくれる人がきっといるはずだよな』と」
「だから作品を恥ずかしげもなくネットに晒すんです」
…………
「そして、人目に触れない。貴方達の作品がどうとかは言うつもりはありません。私達の場合は結局の所、本当に駄文だから埋もれるのです。」
「そしてこう思うのです『理解してくれないか』と」
「なんて愚かで、傲慢で、気色悪い自尊心でしょうか」
「しかも、こんな気味の悪い設定で貴方に語りかけている」
「これはほんの少し頭の片隅にある私達のドス黒い部分なんです。」
「失望しましたか。ペンを握るなと罵りますか」
…そうしてくれたらどれだけ楽になれるか。
「けど、貴方は否定できますか。何も思わず、ただ文字を連ねるのが楽しいから、そんな事だけで貴方は根気よく物語をかけますか」
「私は無理です」
「埋もれてしまった作品達も、それを書いた作者もドス黒い部分なんてあるんじゃないですか」
…書くのは辛い。しんどい。
「そしてどこかで思うんです。『諦めよう』って
「『チンケなプライドを振り回して空振りして終わる。そんな虚しいこと初めからするんじゃなかったな』」
……
………
「貴方もそう思ってませんか…?」
「ドス黒い部分にとっくに気づいているんでしょう?」
「それを知っても諦めず書けることは素晴らしいと思うんです」
……
「だけど…どこかで貴方が自分を責めてしまっているなら」
……私は才能がないな
「いいえ、違うんです。才能なんてほんの一部に過ぎないんです」
……誰も見てくれない
「待ってください。今行きます」
…なにもなかった
「貴方は今、最高に輝いています。なにもなかったなんて言わないでください」
……こんな事なんの意味もない
「そんなことないです。貴方は素晴らしいんだ。ドス黒いなにかが蠢いても貴方は負けじと残した。自分自身を貫いたんです」
何かを残すこと。そこに意味があるんです。
「作品は見てもらって上等」それはわかっています。
だけど、もし、この声があなたに届くのならば…。
今これを読んでいる人はどうか、どうか、そんな自分の作品も愛してください。今の貴方が自分の作品を愛してなくてどうするんですか。いいじゃないですか、駄文でも、誰にも見られなくても。いつか、きっと、必ず私達もあなたの作品を愛しにいきます。いや、傲慢ですよね。わかってます。けど、あなたの作品が人目に触れることを祈って止まないのです。
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人目に触れた私達より。
諦めようとしていた僕より。