デバフ『パーティ追放』にかかった勇者がパーティ追放されるのは常識では?
「な、なあ…待ってくれよみんな…」
「待ってくれったって、なあ?」
「そうよね。あなたのパーティ追放はもう決まったことだし」
「確かにこのタイミングで勇者がいなくなるのは痛いけど、まあしょうがないよねー。これからは三人でがんばろー」
「待てよ…だって俺たち、帝国の支配を打ち破るためにここまで協力してきたじゃねえか…」
「ったく、お前もしつこいやつだな。いい加減納得しろよ」
「納得できるわけないだろ!なんだよこの『パーティ追放』ってデバフは!これが付いたから何だっていうんだよ!」
「何って、文字通りじゃない?」
「うん、パーティを追放されるデバフ」
「そのデバフにかかったやつはパーティから追放されなければならない。そんなの、この世界の常識だろ?」
「ふざけるなよ!そんな理由で納得できるわけないだろ!こんなデバフに偶然かかったくらいで、なんで俺がパーティから追放されなきゃいけないんだよ!」
「ねー勇者ー?あなたも子供じゃないんだからさー」
「まったく見苦しい。あんたがそこまで常識知らずだとは思わなかったわ」
「常識…?だったら、そんな下らない常識のせいで、帝国に世界を支配されてもいいっていうのか…!?」
「良いわけねーだろ!!死んじまった故郷の仲間たちのためにも、俺は何があっても帝国に復讐するって誓ったんだ!!」
「だ、だったら、こんなよく分からないデバフごときで俺を追放しなくたっていいじゃねえか…!」
「いや、それは話が別だ」
「なんでだよ!?俺がいなきゃ帝国とまともに戦えないってことくらいお前らも分かってるだろ!?」
「だって、そんなデバフにかかっちゃったんだもんねー」
「じゃ、じゃあなんだよ…?無理やりパーティに戻ろうとしたら何か悪いことが起きるのか…?例えば、俺が死ぬとか…?」
「いや、そんなもんはない。でも、お前は追放されなきゃいけない。そういうルールだ」
「だったら!無理やりそのルールを破ろうとしたらどうなるんだ!?」
「ルールを、破る?どういう意味かしら…?」
「もしかしてー、どうしてもパーティから追放されたくないってことー?」
「なあ勇者、お前何言ってんだ?だって、お前は『パーティ追放』のデバフを持っちまったんだから、俺たちはパーティからお前を追放する。それだけの話だろ?なんでルールを破るとかそんな話が出てくるんだ?」
「いや、だから…」
「待って、勇者の言うことにも一理あるわね…確かに、パーティ追放のデバフにかかった仲間と無理にでも一緒に戦おうとしたらどうなるのかしら?」
「な!気になるだろ!?だったら一度試してみようぜ!?もしかしたら、案外何も起こらずに普通に戦えるかも…」
「でも、よく考えたらそんなこと起こるはずがないわね。だって、パーティを追放されてるんだから、パーティから追放されてるのは当たり前でしょ?こんな単純なこと、これ以上どう説明したらいいの?」
「たしかにー。勇者の口車に載せられるところだったよー」
「いやおかしいだろ!?そこはさぁ!『デバフを無視するとは、なんて斬新な発想なんだ…!さすがは勇者だ!』とか言って納得するところだろ!?」
「何言ってんだお前。そもそもお前の論理が最初っから破綻してるんだよ。お前はな、すでにパーティから追放されてるのにパーティから追放されたくないって言ってんだ。こんな屁理屈がおかしいことくらい、子供だってわかるぜ?」
「理屈とか…!そんな話じゃねえよ!俺はただ、こんな意味の分からないデバフなんか無視して、これからも一緒に戦ってくれって言ってるだけなのに…!」
「だから!パーティを追放されたお前とは一緒に戦えないんだよ!!お前はいったいどうしたら納得するんだよ!?お前はパーティ追放のデバフにかかってる。だからパーティから追放されてる。それだけの話だろ?」
「ねー、なんで勇者はそれだけのことが分からないの?デバフを無視できるんだったらさー、ちょっと毒とかも無視してみてよ。出来ないでしょー?」
「全く…このデバフにかかると話が通じなくなるっていう噂は本当だったみたいね」
「く、くそっ…分かったよ…だったら最後に、状態異常回復の魔法をかけてみてくれないか…?」
「え、どーゆ―こと?」
「だから、いつもやってるみたいにさ、俺に状態異常回復の魔法をかけてくれたら、もしかしたらパーティ追放のデバフも治るかも…」
「何言ってんのー?勇者に回復魔法をかけるなんてそんなことできるわけないじゃん」
「は!?だって、目の前にいる俺に魔法をかけるだけだぞ?お前なら、どれだけ離れた敵にだって…」
「だって、勇者はもうパーティから追放されてるでしょ?パーティメンバー以外に回復魔法かけられるわけないじゃん。常識でしょー?」