Paragraph 0~3
学者という、人種がいる。
日々研究に没頭し、時たま新発見をしてメディアに取り上げられては、いつの間にか記事から消えている人々。
彼らは一体どんな人間なのか?
半数以上の人間は「知るか」と親切に教えてくれるだろう。
しかし、残りの半数以下はこう答えてくれるはずだ。
「物知り」で「頭の良い」人間だと。
なるほどそういう人々が殊更多いのは紛れもない事実。
アリストテレスからアインシュタインに至るまで、その例から漏れた学者は、まあ存在しないだろう。
しかし───それは彼らの本質ではない。
────────────────
深い海を、漂っていた気がする。
流れの無い、ゆらゆらとした、漆黒の海。
「思考」も、「知覚」もそこには無く。「自我」すら存在しない、無の海。
それでいて心地よく、母親のように暖かな、眠りの海。
そんな、安らかな海に微睡んでいた僕を乱暴に引っ張り上げたのは──────耳をつんざく鳥の声だった。
起き上がらずに辺りを見渡せば、極彩色の森林が木洩れ日をカラフルに彩っている。
そして中でも特に目についたのは──黒耀石のように黒い葉を茂らせる、謎の木だった。
「.......」
どれも自室にはない.....いや、屋内ですらないか。
ともかくにも、僕は自らの置かれた状況を再確認すべく、記憶を探ろうとする。
───が。
「...................?」
ここにきて最大の問題に──即ち、自分が記憶喪失であるという事態に、やっと気づいた。
「.......む?」
自分の名前が思い出せない。
幼少期を共に過ごしたはずの家族も思い出せない。
どの記憶が、どこまで消えているのかもわからない。
しかし───言葉は覚えている。
長らく読み込んだ教科書もありありと思い出せる。
何かの法則があるのだろうか。いずれ検証しなくては。
ひとまず、生まれた「問い」は心にメモしておこう。
情報も必要か。
さしずめ──この森と自分について。
野垂れ死にも悪くはないが、せっかく訪れた未知の世界だ。
生きねば勿体ないだろう。
さあ、まずはサバイバルだ。
思考にはエネルギーを使う。特に脳にはブドウ糖が必要だ。ビタミンや必須アミノ酸も摂るべきか。
しかし──見知らぬ土地の、見知らぬ生態に無策で突っ込むのは自殺行為だ。
今も、目の前に美味しそうなキノコがあるが、これがどんな毒素を持っているかわかったものではない。
では、どうするか?
まずは──観察。
実は、さっき目に入った黒い葉の木は果実のようなものをつけていたりする。
地面に落ちている実もあの木のものだろう。
トゲだらけではあるが、栗もトゲだらけだから大した問題ではないはずだ。
まずは、あれをどんな生物が食べるかを、半日くらい張って────
「************?****?」
....
..........
「.......む?」
どうやら、現地民がいたようである。
しかし............妙だな。
赤みがかった金髪で、長さは短いが声色からしておそらく女性。
肌は白人のものに近い。
しかし、顔の彫りは浅く、虹彩の色が緑色。
......ふむ、赤毛のアンをボブカットにすればこんなもんだろうか。なかなかに可愛らしい。
しかし──こんな人種、地球にいただろうか?
「.....***?********?」
──言語は詳しくないが、いつか聞いたドイツ語の発音と、やや似ているように思える。
しかし、似ているだけだ。これは聞いたことがない。これは決して──ドイツ語ではない。
では、一体これは──────
「*********!?***********!?」
──────
私は今日も今日とてスワルト拾いです。
はい。正直面倒です。
そりゃね? おいしいよ? 甘くて。
だけどね、このトゲと皮汁がいただけない。
トゲも地味に痛いし、皮汁も真っ黒な上に服に付いたらなかなか落ちない。
そして一滴でも付けようものなら、それはもうひっどい目に遭う。ママに。
とは思ってみても、甘い食べ物がこれ以外にないし、ママは忙しいから、私が行くのは仕方ないことだというのは、わかってる。
そんなこんなでスワルトの木の近くまで来た。 木になってる実は高くて取れないから、落ちてるものを拾う。
スワルトの黒い実は見つけやすい。あそこにもあんなに大きな実がある。拾いに行こ───ん?
人じゃん。
え、なんで?
というか、黒い髪の人っていたの?
なんで白い服着て寝転がってるの?
.......話しかけて.....みようかな?
でも眠ってるし.....あ、起き上がった。
私には気づいてないみたい。
そのままスワルトの木のそばまで歩いて.....あ、また座った。
なんでだろう。ちょっと話しかけたくなってきた。
「........こ、こんにちわ? ぁの、大丈夫?」
あ、こっち見た。
ていうか、めっちゃ見てくるんですが。
「.....えっと?もしもし?」
え、これどうすれば───って倒れた!!?
「えっちょっあの!? 大丈夫です!?」
..........どーしよ.....これ......
「ママ? ママー!?」
「はいはいどうしたのローデ。あとおかえりなさい」
「黒い人が倒れちゃった‼」
「......色々と聞きたいことはあるけど......その『黒い人』はどこ?」
「引っ張ってきた!」
「.......横になってる人を引きずっちゃだめっていつも言ってるでしょ.....とりあえず彼の容態は見ててあげるから、さっさと実を拾ってらっしゃいな....」
─────
「........っと?」
ふと、目が覚めた。
確か、僕は黒い葉の木のそばをそばで観察していたはずだ。
そして少女と出会って────
もしや、夢だったか?
夢だったとしたら、少し悲しいな。
少なくとも、あれ程黒い葉をつける樹木は未発見のはずだ。
新種として学会に持ち込めばさぞかし驚かれた事だろう。
さて、ともかく、朝はコーヒーがなくては始まらない。
ああ全身が痛むな。
今日はラテの気分だ。
さてコーヒーメーカーはどこだったか.......
「───ん?」
.................
....................................ふむ。
どうやら、夢ではなかったようだ。
少なくとも、現代都市にこんなボロい木造住宅があるだろうか。室内なのに空が見えるじゃないか。
しかも、記憶も戻っていない気がする。
いっそ、自分の頭を殴れば記憶は戻ってくれるだろうか?
壊れた機械はそうすると治ることがあるそうだが。
物は試しだ。消えた記憶が戻ることを願って、いっちょ頭を殴ってみよう───
『えっ!?ちょっと何してるんですかやめてください!?って意外と力つよっ!?』
─────
──────さて、困った。
目の前に女性が二人。
片方は森で見た。
もう片方は母親だろうか。
自分の頭を殴ろうとしたら羽交い締めで止めてきた。
以来、ずっと胡乱げな眼差しで見てくる。
その母親と思しき女性が、また何事か言ってきた。
『.....あなたはどちらから来られたのですか?』
うん。わからん。
『....やっぱ通じてないよママ』
こういうときどうするべきか。
ひとまず、この場は無難な手法を試してみよう。 まずはお辞儀から──
『......~~~っと.....【こんにちは】?』
『.....で.......【食べ物】?』
『......ママ、スワルトの実、まだ残ってたよね?』
『.....ええ。というか、あなたがさっき採ってきたんじゃない』
『食べさせてみていい?』
『きちんとトゲは処理するのよ?』
『わかってるわよ』
......身振り手振りも伝わるものなんだな。
腹が減ってることを腹を押さえて表現してみたら、何やら相談したあとに何やら黒い皮に包まれた赤い果実が出てきた。あのときの木の実だろう。やはり食べられるのか。
一口かじってみる。イチジクの中のような見た目に反して、さっぱりとしたリンゴのような味だ。
だが──目的は食べることじゃない。
『........?......【これは何?】、かな?』
『ああ───ここの言葉を知らないんだものね』
『そっか.....[スワルト]。[スワルト]よ。────これでいいの、かな?』
なるほど。「スワルト」というらしい。
ではこの器は?......「ブラッテ」か。水は何というのだろうか?.....「ファウルン」と。なるほどなるほど。 親切なのはありがたい。
ならこれは?─────
────
「ありがてう。 スわルト、おいシい。」
男は満足したかのような雰囲気を無表情に滲ませ、たどたどしく母娘に感謝の言葉を伝える。
「.....言葉を教えるって、疲れるのね......ママ、一生懸命私に教えてくれてありがとうね」
一方ローデは、やたらしみじみと母親のラーナに感謝していた。
「いきなりどうしたのよ.....はぁ、全くこの子は.....」
せっかく感謝したのに、なぜか一層疲れたかのような顔を見せるラーナに若干の理不尽さを感じたローデだが、ふと、あることを思い出す。
「そういえばママ」
「なぁに?」
「名前──聞いてなかったよね?」
「え、聞いたわよ? たしか────」
ガクシャ、だったかしら?
────
驚いた。
この国の文明レベルは意外と高いようだ。
まず、装飾付きの鉄器が普及している。
これは、鉄が安定的に供給されており、かつ安価に高品質なものを効率よく生産できる程には技術が発達していることを示している。 でなければ鉄製の食器が出てきたりはしまい。
また、穀物がある決まった型の袋に入って並べられている。 つまり、生産者から仲介業者を経て消費者に届くという一連のシステムが組まれている。
更には水洗トイレまである。 上水道はないようだが、下水道は遥か下流まで川と平行して引かれており、海際で合流するようになっているようだ。 おそらくはコレラなどの感染症対策.......
総合的に見て、古代ローマと近現代の間くらいの発達度合いか。
ただ───
「........あれ、なに?」
「....? だから、[マキア]だって」
───この「マキア」というものがわからない。
今、ラーナが用途不明のタンクに水を貯めようとしているのだが、僕は既に若干混乱気味である。
なぜ水が宙から出てくる? しかも、なぜ浮いている? 何かで支えていなければ──何で支えればああなるのかはわからないが──不可能なはずだ。
残っている記憶───あらゆる科学知識を動員しても正体不明の力。
───これはどうやら、面白いテーマになりそうだ。
────
最近黒い人──ガクシャさんが変だ。
最近と言っても、一週間くらいしか泊めてないし、もともと変だけど。
何なら、家事もよく手伝ってくれるし、それもなぜか異常にうまいからむしろめっちゃ助かってるけど。
カラアゲ....また食べたいな.....
──ともかく、スワルトの葉を部屋にたくさん持ち込んで引きこもるのは、間違いなく、なんか、変だ。
気になってしょうがない。
ちょうどガクシャが散歩から帰ってきたので訊いてみることにした。
「ガクシャさんガクシャさん。スワルトの葉っぱをどうしてるの?」
「........? みてる。 たずねてる。」
「見てるって....尋ねるって誰に?」
「.....せかい?」
......ちょっと何言ってるか分からないです。
「ぇと、お部屋、入ってもいい?」
「......いい」
........実はこの人、アブナイ人なんじゃないかな...?
ローデはそう思いながら、長らく空き部屋だった倉庫に入る。
そして、そのあまりの惨状に息を呑んだ。
壁には、削り跡からなる無数のスケッチと記号の列。 即席の寝台には、スワルトの葉が規則正しく並べられている。 そして机の上には────
「.......これ、なに?」
「みる、めがね。はっぱ、みる。」
──どう見ても眼鏡には見えません。
彼は一体何を見ているのかしらと、「めがね」とやらの見方を身振り手振りで教わりながら、ローデはその小さな穴を覗いてみる。
するとそこには────別世界が広がっていた。
まるで花びらのように並んだ極彩色の泡。
別の「めがね」を覗けば、そこにはキラキラと光る唇のような模様が一杯に。
また別の「めがね」を覗けば、そこには虹鳥の羽のような模様が目に飛び込んでくる。
それはローデが5歳のときに、親に連れられ訪れた都市の教会。
色のついたガラスから差し込む光が、まるで神話の世界のようで見入ったのを思い出す。
それほどまでに───神秘的で、美しい光景だった。
彼女が夢中になって、自らが作った顕微鏡を覗いているのを見て、男は誇らしげに笑み、更に彼女を驚かせる言葉を放つ。
「それ、ぜんぶ、はっぱ。」
「............───えっ?」
はっとしたローデは「めがね」の台に張り付いた欠片を見る。
それはまさしく、スワルトの葉だった。
彼は続ける。
「でも、スワルトの葉っぱ、くろい。────なぜ?」
「.........え?」
────
その疑問は、実を言うと、ここで目覚めたときから既に抱えていた。
黒っぽい葉を持つ植物は確かに存在する。観葉植物のコロカシア・ブラックマジックなどは有名だろう。
だが、これは、黒そのもののように黒い。
初めは、植物性の新たな黒い色素があるのかと考えた。
だが、顕微鏡を自作して断面を拡大すると、予想とは裏腹に、その内部の細胞は───極彩色に彩られていた。
これを説明しうる仮説が二つある。
その仮説がどのような意味を持つのかは───まだ誰にもわからない。
─────
「では、これより、第3769回皇前会議を開始します。全員起立!───礼! 着席!」
「エインスト鄕は欠席か」
「仕方ないでしょう。彼女は奔放だと聞いてますから。おそらく今頃──」
「ジェドヴ伯爵、クレイトマン政務官、静粛に───本日の議題は、皆さんのお手元の資料にもある『ダイムス皇国におけるマキアタイト鉱脈の探索・開発計画』についてです。」
「その前に進行係、質問をいいかね?」
「どうぞ。パイス教授」
「私は、この計画の草案を作成するにあたって学術顧問を務めていたはずだ。ところが、見たところここにある草案とやらには私の知らない変更が為されているようだ。私には知る権利がある。なぜ、事前に変更が通達されていないのだ?もし、仮にこの草案が不正な手段で作成されたものならば即時撤回していただきたいのだが。」
「それは.....」
「ああ、それについては私が答えよう────この計画の権限が私に移るにあたって、人員の大幅な変更があってだね。教授はその際に顧問を外されている。今の貴方は専門家として会議に招致させてもらったのだが──もしや、忘れてしまったので?」
「......権限の委譲?聞いておりませんぞ、ホード経済大臣。一体いつの──」
「おととい、計画の前任者であるコルグバ生産大臣が病に倒れ───」
「なっ──!?な、ならばなおさら!なぜ!それを通達しなかった!貴様にはそれを知らせる義務が──」
「......通達、通達と。うるさいぞ、パイス。物忘れとは、学問の徒らしからぬな?」
「ですが皇王陛下───ッ」
「これは、この場の者全員が、既に知っていることだぞ?」
「──まさか」
「もういい。───休まれよ。朕が許す。」
「..........ッッまだ納得して....」
「守衛。教授は疲れておる。休ませよ。」
「なっ!?離せッ───」
──
「──さて、皆には迷惑をかけたな。折角の機会だ。教授にはゆるりと暇をとって欲しいものだ。ああ、進行係。会議の続行を許す。」
「......では、会議を続けます。それでは、クレイトマン政務官。計画の概要をお願いします。」
「承りました───ではお手元の二枚目の資料をご覧ください。まずは、現在発見されているマキアタイト鉱脈についてですが、資料にもある通り、我が国にはまだ一つしか発見されていません。すでに採掘は行われていますが、その量は年間わずか36フレルと、国内需要を満たすにはあまりにも少く、大半をべレイエ国からの輸入で賄っているのが現状です。マキア工業は我が国の主要産業であり、自給率の回復は喫緊の課題と言えます。そこで───我々は地下に目を向けました。これまで採掘場となっていたイルム山脈の斜面から、資料の三枚目のように奥へと穴を掘っていき、鉱脈を探索、新たな採掘場とします。ゆくゆくは巨大地下採掘場を建設することが目的となります。」
「そこには、確実にあるのかね?」
「発言は挙手をしてからお願いしますが──はい。偵察部隊の報告から分析すると、確実に。」
「しかし──ああ、挙手からだったか。発言いいか?」
「どうぞ。ラグネレ国防大臣」
「では。──そこはべレイエ国との国境だろう? いいのか? そこに穴を掘るということは──」
「───構わん。朕が、許した。」
「───左様でございますか。では私めからは以上で....」
「他に──」
「私からも一つ。いいかな?」
「どうぞ。アダム民労大臣」
「人員はどこから確保するのかな? 国防大臣が指摘したとおり、そこは国境の真下だ。バレると痛いぞ。少なくとも、登録を済ませた正規の労働者では足がつくだろう?」
「では、それについては私が──」
「どうぞ。ジェドヴ伯爵」
「ありがとう。──私の領には非正規労働ギルドがある。彼らは既に、マキアタイト鉱脈掘削に携わっている。そのまま動員すれば問題無い。」
「なるほど。草案に記載が無かったのはそういう──」
「そこまでだ。──異論は?」
「ああ、いえ。───いつもありがとうございます。」
「───よろしいでしょうか。では、続いてはこの計画における予算の各領地の負担について───────....」
─────
あれから3ヶ月が経つ。
ガクシャさんは、我が家のみならず、村にも受け入れられつつある。
理由は───
「おっ、ガクシャさんじゃねえか! 散歩か?」
「おう。また少しばかり、森に用があってな」
「ヒョロいんだから無理すんなよ?」
「そっちこそ、あんまり食いすぎると──」
「言うなぁ!!気にしてんだからよぉ!!」
「はっはっは」
───とまあ、この異常な上達ぶりでみるみると言葉を習得し、ついにはスラングまで使いこなす程になったから。
どうやったのか訊いてみると、曰く、「文法」を押さえてしまえば後は応用するだけだ、とのこと。
なんのことを言っているのかは分からないけど、きっと簡単なことなのだろう。そういう感じで言ってたから。
あ、そうだ。
「ガクシャさん。ついていってもいい?」
「?どうしたんだ急に」
「最近いつも夕方に帰ってくるよね? どこ行ってるの?」
「......む。その手があったか......──ときにローデ。」
おもむろにガクシャが振り返る。
「な、何?」
「この辺りで、ジシャクがあるところ知らないか?」
「?ジシャクが何を言っているのかわからないけど......街の露天商で、たまに珍しい石を売ってるのがいるよ?買ったことないけど。」
「──ああなるほど。少し視野が狭かったか。よし、ローデ」
「?」
「少し、付き合ってくれ」
──へ?
────
ほう、なるほど。
街とは言っていたが、予想以上に大きいな。
マキア───多分、「魔力」と訳すのが一番近いであろう、この能力。なんでも、体内のマキアを思い通りに変化させることで様々な現象を生み出しているらしい。
例えば、ラーナが水の塊を浮かせていたのは、「水を生み出して空中に留める」というイメージをマキアを消費して実行していたということになる。
全く以て意味がわからん。
確かに、エネルギーと物質は可逆的に交換しうる。
事実、核爆弾のエネルギーは、核分裂の際に少量の素粒子がエネルギーに変換されることで生じている。
しかし、ラーナは目測1L前後の水を生み出していた筈だが、それでは彼女の体内には最低でも太陽系を一撃で破壊するだけのエネルギーがなくてはならない。
荒唐無稽にも程がある。
閑話休題。ツッコミどころはあるが、まず確実に言えそうなのは、これが「個人のマキアに依存する」という点。
ところが──この街には40メートルはある高層ビルが建てられている。
人力では不可能。しかし、この国には薪と家畜と水力以上の動力源が全くと言っていいほど存在しない。
───マキアを除いては。
つまり、マキアを大量に保存し、利用する「何か」があるはずなのだ。一度に大規模に運用するために。
だが、その前に。
「.......石の露天商はどこだ?」
「......今日はいないのかなぁ.....」
かれこれ体感2時間程か。街中を探し回っているが未だに見つからない。
ローデも偶にしか街まで出かけないので把握できていないのだろう。
────と。
「.......ねえ」
「ん?どうした?」
ローデが問いかけた。
「家ではなんか話しかけづらい雰囲気だったから言えなかったんだけど──その石、何に使うの?」
「実験に必要なんだ」
「実験て?」
───ああ、そういえば話していなかったか。
「前に、マキアについて話してくれていたな?」
「まだ、わからないことがあるの?」
「さっぱりだ。まったく.....あんなの[相対性理論]への反逆だろうが。」
「ソウタイセイリロン?」
「力は物質に変化しうるという学説なんだがな。あれではどう見積もっても計算に合わん。しかもあれ、皆使えるんだろう?」
「......そうだけど.....」
ローデは首をかしげる。
そっちも理解できないだろうが、こっちも理解できない。
だからそんな可愛そうな人を見る目をするな。
「......まあいい。ともかく、あれはおかしい。何か裏があるはずだ。そう考えて手がかりを片端から集めている。今求めている石もその一環だな。」
「へー......そういえば、スワルトについても調べていたよね? あれは?」
そういえば、顕微鏡で見せてやったんだったか。
「あれは多分、葉の中に全色の色素が入っているせいで光が全て吸収されているんだろう。」
「え、なんで?」
「そもそも植物は光を使って生きて.....あーもっと長くなるが、大丈夫か?」
「5秒でお願いします。」
「わかった───植物の葉には葉緑体という光を栄養に変え(早口)──」
「あ、ごめんなさいもういいです」
「.........まあ、そうとは証明しきれてないんだがな。本当にあれが色素なのかどうか....」
「?」
────と。
「......おっ、あそこにお目当てのがいたぞ」
「あっ、ほんとですね」
見ると、建物と建物の僅かな隙間に風呂敷を広げる露天商がいた。
......露天商とは言っても、まだ幼い少年ではあったが。
男はできるだけ、穏やかに問いかける。
「君、ここで珍しい石が買えるというのは本当かな?」
「えっあっ、その、お客さま....ですか?」
「まあ、そうなるな。───商品に触れても?」
「は.....はい!どうぞ!」
さて、この中にお目当てのがあるかどうか────
────────
思いつくままに書いてみました。
誤字脱字、事実と異なる点などありましたらコメントをば。
現段階の主人公たちの設定としては、
男:30代目前。 典型的な学者。 会話には慣れておらず、語尾に常体(だ、である)を使いがち。 討論に参加するより自分で考えたほうが思考が深まるタイプ。と彼は思っている。専門は生物だが、他の分野もそこそこ高度に修めている。
ローデ:15歳ほど。実はそこそこ頭がいい一方でガサツな面がある。とはいえ基本的には善人。
ラーナ:30代前半。 娘のガサツな仕事の後始末は彼女の仕事となっており、手を焼いている。 ただ、同時に娘のことをこれ以上なく愛している。
パイス教授:50代の半ば程。誠実だが、融通がとにかく聞かないタイプ。 専門は鉱物。
なお、ここで言っている相対性理論とは次の式を指しています。
E=mc^2
mは質量で、cは光速です。
例えば、1kgの物質と交換できるエネルギーは、その物質を光の速さでぶん投げるエネルギーの2倍になります(1/2mv^2のあれ)。