身元引受人
ライラの向かいに座ろうとした時、リセイは視界の隅に、見覚えのある何かを捉えた。だから意識がそちらに向いてしまった。
瞬間、さっと動く影。
でも、今のリセイにはその一瞬で十分だった。
「ティコナ…!? ファミューレさん…?」
思わず声を上げる。
すると、普通に座ってたらリセイからは完全に死角になって見えないはずの衝立の陰で、ティコナとファミューレが、
『しまったぁ…!』
という表情をしていた。
上手く身を隠してやり過ごせたはずが……
しかし、名前まで呼ばれてしまったらもう誤魔化しきれない。
「は、はぁい♡ 偶然だね、リセイ」
おずおずと歩み出ながら、小さく手を振りながら、ティコナは引きつった笑顔で声を掛けた。けれど、その後ろから、
「ティコナさん、もう今さらです。正直に話しましょう」
ファミューレが諦め顔で言う。
「ぐ……っ!」
ティコナは言葉を詰まらせるものの、確かにどう取り繕っても何ともならないことは彼女にも分かった。
「そ…そうですね……仕方ない……」
何とか自分を抑えながら、呼吸を整え、改めてライラに向き直ってティコナは口を開く。
「隊長さんですね。失礼をお詫びします。その上で改めて申し上げます。ご一緒させていただいていいでしょうか? リセイの家族として、一度ちゃんとご挨拶したいと思ってたんです」
と申し出た。
彼女の真剣な眼差しに、ライラも、
「あ…ああ、そうだな。せっかくの機会だ。私としても、隊員のご家族とは親交を図りたい」
そう応える。
本音では、
『リセイと二人きりになれると思ったんだが……』
などと思いつつ。
それでも、
『まあ、それはまたいずれ機会があるだろうし……』
なんとか自分を納得させる。この辺りはさすがに責任ある立場にいる者としての矜持だろう。
だがそこに、
「なんですかあなたは!? 騎士様に対して失礼じゃないですか……っ!?」
強い調子の声。
「!?」
ティコナとファミューレが振り向いた先には、明らかに怒りを含んだ眼差しで睨みつけてくる女性が五人。その内の三人は、昨日、<エディレフ亭>に押しかけて強引に今日の約束を取り付けた女性だった。
『増えてる!?』
人数に一瞬怯んだティコナだったものの、女性達に向き直って、
「私は、リセイの家族として隊長さんに直接お話がしたかっただけです。家族にはその権利があるはずです!」
言い返した。
けれど、女性の方も引き下がらない。
「家族? あなたは彼の家族じゃなくて、ただの<居候先の娘>ですよね? 下がっててください…!」
しかしティコナも、
「私の両親は、リセイの<身元引受人>です。身元引受人は、その人の管理監督について、家族と同じ権利を持つことができると決まってるはずですよ!」
やはり一歩も引かなかった。
この世界では、<社会保障>という面ではまだ弱さもあるものの、その分、個人同士の<相互扶助>という部分では、法によって明確に定められているのだった。




