ジュオフス
「ジュオフス!?」
リセイが捉え地面に叩きつけた黒い影を見た瞬間、ライラが叫んだ。
それは、オランウータンに似た、長い手足を持ち真っ黒い体毛に覆われた魔獣だった。しかし<ジュオフス>と呼ばれた魔獣は、四メートル以上の高さから地面に叩きつけられても、恐ろしく長い牙を生やした口をガアっと開け、リセイに喰らい付こうとする。
「!!」
しかしリセイは慌てることなく逆にそいつの喉に左の手の平を打ちつけた。
相撲で言う<喉輪>だった。
「げはっ!?」
喰らい付こうと勢い良く体を起こしたところにカウンターの形で喉輪が綺麗に入り、ジュオフスの意識が一瞬飛ぶのが分かった。
魔獣のタフネスさはアムギフを相手にした時に嫌というほど思い知らされたライラ達は、そんな魔獣すら圧倒するリセイに驚くしかなかった。
とは言え、驚いてばかりもいられない。
「他にもいる!?」
「囲まれてるぞ!?」
レイや隊員達が木の上を見上げながら緊張した声を上げる。
するとリセイが、自分の前にいたジュオフスの首を右手で掴み、自分の脚を地面に叩きつけるようにして体を大きく捻った。
と、明らかに百キロくらいはありそうなジュオフスの体がゴオッと音を立てながら宙を奔り、樹上にいた<ジュオフスの群れ>へと飛び込む。
ジュオフスが群れに戻ったわけじゃなかった。リセイがジュオフスの体を投げつけたのだ。
咄嗟のこととは言え、とても人間のものとは思えない膂力だった。
仲間の体が吹っ飛んできたことにジュオフスの群れが怯み、リセイは地面を蹴って宙を舞った。そして怯んだジュオフスの一匹の顔面に膝蹴りを食らわせる。
それら一連の攻撃のどれもが人間離れしていたが、今はとにかくそれどころではない。
リセイの先制攻撃に怯んだジュオフスの群れも、
「ガアアッッ!!」
と咆哮しつつ樹上から身を躍らせて、ライラ達に襲い掛かった。
しかし、ライラ達もそれに慌てることなく剣を構え、逆に飛び降りてきたジュオフスの勢いを利用してそれを突き立てて見せた。
が、中にはそれが上手くいかなかった者もいる。
「うわあっ!?」
長い手で掴みかかられ、すさまじい握力に骨が軋む。
と、次の瞬間、そのジュオフスの腕が有り得ない咆哮へと折れ曲がった。
「ギヒィッッ!?」
獣の悲鳴が空気を叩く。
ライラだった。自分に襲い掛かってきたジュオフスを退けたライラが、躊躇なく剣を振るい、下からジュオフスの腕に叩きつけたのだ。
針金のような剛毛と頑丈な皮膚に守られていたことで切り落とせはしなかったものの、すさまじい剣戟の威力は完全には打ち消せず、丸太のような腕がへし折れたのだった。




