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僕がこの世界で生きるワケ  作者: 京衛武百十
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湯浴み

風呂は、軍の宿舎のそれなら、しっかりと水道から直接水を引けていることで、完全に全身浸かることのできる湯量が確保されていた。


だからゆっくりと風呂に入りたいならそっちを選ぶという手もあった。


けれど、リセイとしては早く<家>に帰ってホッとしたいというのもあったようだ。


なので湯浴みは簡単に済ませようと思った。


でも、その時、


「リセイ、背中流したげる」


と言ってティコナが風呂場に入ってきた。


「えっ!?」


まさかの展開にリセイは慌てるものの、当のティコナの方は平然としている。


実は、ある程度の階層以上だと男女別々の入浴も当たり前なものの、平民レベルだとそこまで厳密に分けられていなかった。公衆浴場も、仕切りは簡単な衝立(ついたて)があるだけで完全には分けられていない。


こういう部分ではとても『おおらか』な世界だった。


まあ、そこまで完全に分けてしまえる設備を整えるだけの技術的な余力がないというのもあるのだろうが。


だから、<エディレフ亭>の風呂場も別に男女で別れているわけでもないし、


『まとめて入った方が手っ取り早いから』


という理由で男女でも一緒に入ったりすることはある。


もっとも、その場合だと、それこそ汗を流すだけといった感じになってしまうことがほとんどらしい。


とは言え、それについても、庶民レベルの宿屋程度に設置できる風呂では、先ほども触れたように、


『腰まで浸かるのが精々』


という程度の湯量なので、そもそもシャワーに近い感覚で入るものなのだろう。


まあ何にせよ、大変な思いをしたリセイを労いたくてティコナが背中を流そうとするくらいのことは、そんなに特別なことでもなかったのである。


なにしろ、今でもティコナは、父親のシンとでも一緒に風呂に入ったりもするくらいだから。


そういう<文化の違い>も思い知らされる。


「え…と。あの…ありがとう……」


この時、ティコナはまだ店の手伝いが残っていたので服を着たままだったものの、女の子に背中を流してもらうなんて、当然、初めての経験だったリセイは、顔を真っ赤にしながらそう応えた。


そんな彼の背中を布でこすりながら、


「お疲れ様。本当に大変だったよね」


穏やかに話しかけてくれる。彼を労わりたいという気持ちが込められているのが分かる。


だからすごく恥ずかしいのと同時に、なんだかとても安心できた。彼女の指先が触れるたびに、ドキドキするのにすごく癒される感じもあった。


いろいろ大変だったのが、全部、綺麗に洗い流される気もした。


だから、


「ありがとう…」


自然にまたお礼の言葉が出た。


すると、ティコナも、


「ううん。リセイは頑張ったんだからこのくらい当たり前だよ」


と言ってくれたのだった。



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