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僕がこの世界で生きるワケ  作者: 京衛武百十
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だから敢えて

結局、今回の一件は、


『死ぬこともできずにただ永劫の地獄に囚われていた魔王に安らぎを与えただけ』


だったと言えるだろう。


正直、リセイ自身、まだまだここでの暮らしや、人々との間にはある程度の溝があったことは否めない。どこか、転生者として<お客さん気分>だったというのもある。


転生者としての先輩であるシンの馴染みっぷりから比べれば、


『役割を演じていた』


感があったのだとも言えるかもしれない。


でも、ティコナや、ミコナや、シンに、


「おかえり」


と改めて迎えてもらって、


「ただいま」


と応えられたことで、ようやく、この世界での本当の生活が始まるのだと感じたのは、正直なところであった。




なお、ミィについては、当面の間、役所で預かりつつ監視下に置かれるのだという。そして彼女の世話は、ファミューレが担当するそうだ。


と言うのも、ミィ自身がファミューレのことを、


「オカアサン」


と呼ぶから。


しかも、魔王からの魔素の供給が途絶えたことで魔人としての形質が急速に失われているらしく、力も凶暴性も凄まじい勢いで衰えていったのだと言う。それと同時に体毛も薄くなり、数ヶ月後には、顔や手足のそれを処理すればほとんど人間と変わらない姿になったとも。


加えて彼女は、ルブセンのことを、


「オトウサン」


とも呼んだ。


年齢的には<祖父>でもおかしくないルブセンだが、毅然とした彼の姿は、実際の年齢よりも若く見えるからというのもあるのかもしれない。


また、リセイとは、彼が兵士としての務めのために出勤した時に顔を合わし、甘えることも許されていた。




そして、<魔王撃破>から一年が経ち、リセイは正式に市民としての籍を与えられることとなった。


しかし同時に、魔王を倒した<英雄>ではあるものの、


「街を守ったのは僕じゃありません。それに、あの一件以降、僕の<能力(ちから)>は失われてしまいました。今の僕は、本当にまだまだ半人前の一介の<兵士見習い>に過ぎません。


だから、英雄とか勇者とか、そういうのは僕には重すぎます」


として、英雄として遇されることについては強く固辞した。


実際に、あれ以降、組手を行っても、一度もライラには勝てていない。


だからか、ライラの方も冷静に見られるようになったらしく、リセイのことはあくまで、


<可愛い弟>


として接するようになったらしい。


と同時に、


「レイ()ぃ……♡」


魔獣との全身全霊をかけた戦いを経験したことで彼女も何かが吹っ切れたのか、レイへの想いを再燃させ、レイの方も亡くなった妻への気持ちを整理できたらしく、ライラの想いを受け止めてくれるようになったそうだ。




なお、トランについては、街の復興の際に家の片付けを手伝った縁で知り合った少女と交際を始めたという話もある。




こうして、人々の暮らしは、また落ち着きを取り戻したのである。


ここでの生活は生活で、多少の難しさや心がざわつくこともありつつも、それは人が生きていく上でどこでもあることなのだろう。


そんな中で、リセイは、一兵士として日々の訓練をこなしつつ、正式に彼の<家>となったエディレフ亭も手伝いながら、シンとミコナの<息子>としての人生を送り始めていた。




「リセイ! 背中流してあげる♡」


「わあ! だ、大丈夫だよ! 自分で流せるよ!!」




仕事の後の湯あみの際にはそうやってティコナの突撃も受けたりしつつ。


ようやく自分の生きる場所を見付けることとなった一人の少年の人生は、今始まったばかりである。


だから敢えて、『終わり』とは言うまい。









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