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僕がこの世界で生きるワケ  作者: 京衛武百十
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もうこれで終わりだよ!!

『魔王…! 今、楽にしてあげるからね……!!』


リセイにとってのこの戦いは、そういうものだった。


オトィクの街とそこに暮らす人々を守るのももちろんだが、今の暦が始まるよりも以前からクォ=ヨ=ムイの玩具(おもちゃ)として弄ばれ続け、トレアを捜し求めて大陸中を彷徨い続けた魔王の、


苦しみを、


悲しみを、


怨念を、


絶望を、


いや、そんな言葉ではおそらく表すことのできないその全てを終わらせるための戦いだった。そのついでにクォ=ヨ=ムイに一撃を食らわせてやりたかっただけだ。


魔王の無数の手による拳を浴びつつ蟷螂拳の構えで自身の<能力(ちから)>を確実に具現化させるために集中するリセイの両目から、とめどもなく涙が溢れていた。


無数の人間達を苦しめ命と暮らしを蹂躙してきたはずの魔王が味わってきたであろう、永遠の地獄。それが悲しくて悲しくて……


魔王や、これまでの人々の苦痛を思えば、自分が元の世界で味わってきたものなど、本当に些細なものでしかない。


その些細なものでさえ、


『生きていても仕方ない』


などと思わせるのだ。生への執着さえ麻痺させるほどのものだったのだ。それよりも途方もなく大きな絶望など、自分にはとても耐えられそうにない……


「魔王…!! もうこれで終わりだよ!! 本当にトレアに会いに行って!!」


無数の人々の命を踏みにじってきた魔王がトレアがいるであろうところにいけるかどうかは分からない。そんな根拠は一欠片さえない。そもそも<あの世>とかいうものがあるのかどうかさえリセイには確信もない。


だけど、そう自分に言い聞かせることで、彼が目にし、耳にし、鼻に嗅ぎ、肌に感じた全てを込めることで、自身の中で<力>がはっきりとした形を持つのが分かった。


そしてその力を、強く、強く、途方もなく強く、送り出す。




「魔王を、トレアのところへ!!」




まるで機関銃の弾丸のように降り注ぐ魔王の黒い拳をものともせず、リセイは渾身の力を込めて地面を踏みしめ、構えた<鎌>に全てを乗せて打ち出した。


瞬間、地面が爆発するように震える。地震とは違いほんの一瞬だったが、おそらく重力加速度を超えて大地が揺れただろう。つまり、地面にしっかりと固定されていないものは、たとえ何十億トンの重量があろうとも、刹那の時間とはいえ、精々数ミリとはいえ、宙に浮くということだ。


それだけのエネルギーを伴う一撃が、いや、地面を揺らしたのはこの時に生じたもののごくごく一部だったと思われる、途方もないエネルギーの塊が、それこそ地面に向けて叩きつければ惑星そのものを粉砕できたかもしれないそれが、リセイが形作る<鎌>の先端の一点に集中し、魔王へと打ち込まれた。


魔王の<不死>を打ち消す、魔王の存在そのものを無に帰すためのものであった。



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