倒してあげなくちゃ……!
『おかあさーん! おかあさーん!!』
魔王によって踏み潰されていく、亡くなった母親との思い出が詰まった我が家を見て叫んでいた少女の姿が頭をよぎる。
命さえ助かれば壊れたものはまた作ればいいとは思うものの、失われた思い出はほとんど戻ることはないだろう。
それを考えれば、多くの人々の暮らしがある街がただ蹂躙されるのは許せなかった。
「くそおっ!!」
そう唸って力を振り絞るものの、クォ=ヨ=ムイにはまるで通じない。
けれど、しばらくそうしてムキになって殴りかかったリセイは、ハッとなった.
『心は熱く、頭は冷静に』
と自分自身に言い聞かせていたはずなのに、いつの間にか頭に血が上ってしまっていた自分に気付いて。
クォ=ヨ=ムイが癇に障る笑い声をあげているのは、もしかしたらこれを意図してのことかもしれない。ムカつく様子を見せることで冷静さを奪うのが目的なのかも。
自分にできることをとにかくやろうとしているライラ達の姿が、それに気付かせてくれる。
『くそっ! だめだ! こうじゃない! こうじゃないんだ!! 感情的になるだけじゃコヨミの思う壺だ!!
コヨミに勝とうとしても無駄なんだ。こいつはたぶん、楽しんでるだけだ。そして、人間の力じゃ倒せない!
倒すべきはコヨミじゃない! 魔王だ!! 魔王を倒せば、封印できれば、今回は勝ちなんだ!!』
リセイは改めて自分にそう言い聞かせた。
けれど……
けれど、その時、改めてハッとなる。
『封印……? 魔王を封印……? 封印して、何になるの? そうやってまた、何百年後かの人達に魔王を押し付けるの?
違う…! そうじゃないよ!! 魔王は泣いてた…! トレアに会えないことを悲しんで泣いてた! 魔王もコヨミの玩具にされてるだけなんだ!!』
そして、ぎゅっと眉を引き締めて、唇を噛み締めて、思う。
『魔王を、倒さなくちゃ……倒してあげなくちゃ……!
もう、楽にさせてあげなくちゃ……!
一万何千年もトレアを探し続けて、魔王も泣いてたんだ!!
それを終わらせる!!
僕の<能力>なら、たぶん……!!』
そうだ。
『自分が望んだことが実現する』
この能力なら……!
<透明な目に見えない巨人>でただ殴りかかっていたやり方は、きっと違う。自分の力の使い方は、こうじゃない。こうじゃないはずなんだ。
それに気付いたリセイは、魔王の前に降り立ち、構えた。左半身を前に出し、両手の指を尖らせて、蟷螂の鎌に見立てたその構え。
そう、<蟷螂拳>の構え。
もちろん、蟷螂拳で勝てると思ったわけじゃない。ただ、自分にとって一番馴染みのあるこの構えで、自分の意識を集中するために、そうしたのだった。
『魔王の命を…魔王の<存在>そのものを、この鎌で刈り取る……!!
魔王…! 今、楽にしてあげるからね……!!』