負けてなんてやらない!!
『コヨミ! 僕達は負けない! お前の玩具にされてなんてやるもんか!!』
ルブセン達が魔獣に負けずに戦っていることを、視線を向けずとも感じ、リセイの気持ちは昂ぶった。
『負けない! 負けない! 負けてなんてやらない!! 僕達は生きてるんだ!!
神でも邪神でも魔王でも、何でも相手になってやる!! 人間を舐めるな!!』
正直、それはただ興奮状態で気が大きくなっていただけなのだろう。クォ=ヨ=ムイとの力の差はすでに思い知っているのだから。
ただ、勝てないとしても、勝てなくても、単にクォ=ヨ=ムイの暇潰しの余興として利用されて殺されるのは、玩具にされるのは、認められない。認めたくない。
せめて、<人間としての意地>くらいは見せてやりたいと思った。そのために今の自分にできる全てをやろうと思った。
クォ=ヨ=ムイが気まぐれに与えたこの<能力>を、自分が思い付く限り活かして。
「ははっはははっはっはははははははははははは♡
あーはははははははははははっはははははは♡」
癇に障る高笑い。
その、美しいが心底憎たらしい顔に一発食らわしてやりたい!!
それをイメージして、<目に見えない巨人>の拳を何度も繰り出す。
けれどクォ=ヨ=ムイはまるで蝶のようにひらひらと体を翻し、躱してみせる。しかし躱された拳が魔王への攻撃にもなっていた。
もっとも、たとえ直撃させようともまったくダメージを与えられないであろうことはリセイも察している。人間からすれば彼女はそういう存在なのだと。
しかも、ミィやライラ達にも犠牲は出ないものの、疲れることもないものの、倒しても倒しても魔王の体から湧いて出る魔獣の圧力に圧され、徐々に下がっていく。おそらくこれも、魔王の力ではなくクォ=ヨ=ムイがやってることなのだろう。
「ほらほら、どうしたの!? 下がってるわよ!! 頑張って~♡
あははっはははっはははっははははっははははははは♡」
本当にどこまでも腹立たしい邪なる神。
だからリセイは、
「ごめん! 抑え切れない!! みんなも手伝って! お願い……!!」
声を上げた。
オトィクの市民達にも向けて。
自分の<能力>を使えばきっと人間に犠牲は出ない。けれど、街そのものまでは守り切れない。
普通に考えれば、命さえ助かればそれでいいかもしれない。壊れたものはまた直せばいいのだから。
でも、そんな簡単には諦められない。ティコナの<エディレフ亭>は、彼女達の思い出も詰まっている。転生者の先輩であるシンにとっても拠り所のはずだ。それが失われるのは辛い。
ならば簡単には諦められない。