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僕がこの世界で生きるワケ  作者: 京衛武百十
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圧倒

「……え……?」


この時、その場にいた全員が呆気に取られていたけれど、実はリセイ自身が一番驚いていただろう。


『え? 僕、今、なにやった……?』


自分でも何をしたのかがまったく分からなくて戸惑うリセイの視線の先には、腕を極められて地面に押し付けられて、


「いてててて!」


と悲鳴を上げるトランの姿。


「あ、ごめん……」


思わず飛び退くようにして離れると、トランは顔を真っ赤にしつつ立ち上がって、


「てめえっ!!」


喚きながら再び飛び掛ってきた。右手の拳を大きく掲げ、殴ろうとしているのが分かる。


けれど、リセイの体は本人の意思とは関係なく勝手に動き、トランの拳を左手で受け流しながらくるりと回し、指を揃えて尖らせ、まるで鎌でトランの首を刈るような動きですっと押し当てていた。


リセイがナイフでも手にしていたらこれでもうトランは二回は死んでいる。


誰の目にもリセイが勝ったことは明らかだった。


むしろ、当のリセイ自身が、一番、何が起こったのか分かっていなかっただろう。


ただ、自分でも気付かないうちに作っていた手の形には、心当たりがあった。


『これ…蟷螂拳……!?』


と言うのも、実は、小学校の頃、蟷螂拳の型などが詳しく解説された<入門書>を古本屋のワゴンセールで見付けて、値段もたった百円だったこともあって思わず買ってしまって、自分の部屋でそれを見ながら蟷螂拳の練習をしたことがあったのだ。


いや、『あった』ではなく、実際には今も、気が向いた時にはやっていると言うべきか。


正直、強くなっているような実感はまったくないものの、少なくとも何度も何度も読んでたことで、無意識のレベルには記憶として定着していたのだと思われる。


<男の子>には割とありがちな、強さへの憧れからくる気の迷いのようなものだ。けれど、それが、彼に与えられた能力と結びついて、より具体的な<力>へと昇華したのだろう。


いずれにせよ、ただの<力自慢の少年>程度では足下にも及ばない強さになっていることだけは間違いない。


「お、覚えてろよ……っ!」


捨て台詞を吐きながら手下二人と共に、トランは逃げていった。


『うわぁ…なんてテンプレセリフ……』


リセイがそんなことを考えていると、


「すごいすごい! やっぱりあの時、ベルフはリセイの強さに怖気づいて逃げてったんだね♡」


ティコナが頬を染めながら顔を近付かせてきた。


『あわわ…っ! 近い近い……っ!』


可愛い女の子に詰め寄られて、リセイは慌てる。ふわりといい匂いが鼻をくすぐって、胸がドキドキする。こんなこと、元の世界じゃ有り得なかった。


正直、向こうにいた頃にもこういうことが起こるのを期待しなかったわけじゃなかった。何度も妄想したこともあった。でも、まさか現実に起こるとまでは期待していなかった。


それが今起こっていることに、リセイは内心では嬉しいと思いつつも、戸惑わずにはいられなかったのだった。



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