魔王ミュージアム
こうして、おそらく<過去の魔王>との邂逅を果たしたリセイだったものの、だからといってこれからどうすればいいのかはまったく分からなかった。
一方、魔人の少女は、虫や小鳥がたくさんいるここが気に入ったのか不満そうな様子を見せるでもなく、腹が空けばそれらを捕らえて食べるという形ですっかり馴染んでいる様子だ。
それがせめてもの救いだった。
とは言え、ティコナ達のところに戻る方法も思い当たらず、途方に暮れる。
すると、
「何かお困りですかぁ~?」
忘れたくとも忘れられない、心底相手を軽んじて嘲っているその喋り方。
「コヨミッ!?」
声の方に反射的に振り向く。そんなリセイにつられて魔人の少女も、
「かあっっ!!」
と牙を剥く。
「あらあら怖い顔~」
『怖い』と言いながらも一ミリたりとも怖がっていない淫猥な表情を浮かべつつ、またあの着物なのかドレスなのか分からない扇情的な服を着たコヨミ、いや、クォ=ヨ=ムイが草むらの中に立っていた。
「……今度は何の用だ……?」
リセイは自分の中に湧き上がってくる感情を抑え付けながらもどうしても抑えきれずに少々強い口調になりながら問い掛ける。
するとクォ=ヨ=ムイは、
「あらあら、せっかく迎えに来てあげたのに、ツレナイのねえ」
とにかく癇に障る物言いで話す。
「迎えに……?」
『迎えに来た』という言葉がおよそ額面どおりに受け取れなくて、リセイは眉間にしわを寄せながら問い返した。
そんなリセイの懸念を裏付けるように、クォ=ヨ=ムイは、
「そうよお♡ でも、せっかくだから<魔王ミュージアム>もついでに見学していったらいいかもねえ♡」
と、またパキン!と指を鳴らした。
瞬間、周囲の景色が、映像の倍速再生のようにすごい速さで動き出す。
「!?」
リセイは少女を抱き上げて、身構えた。けれど、<映像>が突然、普通の速度になる。
と、彼の視界に捉えられたのは、<魔王>の姿。
が、
『魔王……?』
何とも言えない違和感に戸惑う。
<魔王>の姿が少し違って見えたからだ。
いや、『違って見えた』のではない。明らかに違っている。
あの<墓>らしきものの前に陣取って周囲を見回しているその姿は、間違いなく二周り以上は大きくなって、しかも体つきもより歪になっているように思えた。
<変化>が進んでいる、ということだろうか。
そんな<魔王>の前に、誰かが立っている。立派な鎧を身にまとった、いかにも<中世ヨーロッパの騎士>といった風情の者が五人。
「貴様か! 旅人を襲う怪物とや……!!」
『怪物とやらは!?』
彼らはおそらくそう問い掛けようとしたのだろう。
しかしそれをすべて口にする前に、恐ろしい速さで襲い掛かった<魔王>に、一瞬で薙ぎ払われてしまったのだった。