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僕がこの世界で生きるワケ  作者: 京衛武百十
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敢えてそうしなかった

自分に抱きついた少女を抱えたまま、リセイはとぼとぼと歩いた。


日が明らかに移動したのが分かるくらいの時間歩くと、


「ミィ、モ、アルク」


それまで抱きついて甘えていた少女が不意にそう言って体を離す。


「ん、分かった」


リセイはそう応えて少女を下ろした。


そうして一緒に歩く。


すると少女は、自分が歩を進めるたびに飛び上がり目の前をよぎろうとするバッタに似た昆虫らしきものを素手で捕らえ、躊躇うことなく口に放り込んでムシャムシャと食べた。


どうやら彼女にとっては日常的な食事らしい。


「……」


それを見てリセイはさすがに少々驚かされながらも、


『まあ、そういうものだってことだよね……』


と自分に言い聞かせた。


それが彼女の<普通>なら、自分があれこれ口出しするべきじゃないと思った。


正直、あまり恵まれたとは言えない環境で育ってきた彼は、自分が置かれている状況について、それがなぜ生じているのか、その中で自分がどう生きていけばいいのかということについて、明確なそれではなくても、ぼんやりとしたものではあっても、考えるようにしてきた。


表面的にはむしろあまり考えないようにはしつつも、考えずに言われるがままにやり過ごすようにはしつつも、けれど実際には、


『どうして自分はこんな辛い状況にいなきゃいけないのか?


何が原因でこうなってしまったのか?』


というのを、自分でもほとんど無自覚のまま延々と考え続けていたのだった。


それが、今、


<クォ=ヨ=ムイから与えられた能力>


をここまで使いこなせる一番の理由になるなどとは、思いもせずに。


ただ気慰みとしてアニメや漫画を見ながら、


『これはどうしてこうなるんだろう?』


『このキャラクターはどうしてこんな態度を取るんだろう?』


『主人公はどうしてそう判断したんだろう?』


などということを、自分でも意識せず思考してきた。


それは同時に、


『自分ならどうするだろう?』


という思考ともなり、結果として膨大なシミュレーションをこなしてきた形になった。


リセイがこの世界に対して見せる<適応>は、その積み重ねがあってのことだった。


もちろん、彼と同じことをすれば誰もがこうして突拍子もない事態に適応できるようになるわけではないものの、少なくとも、何も考えずにただ漫然と過ごしていたよりは、ただただ悲嘆にくれていたよりかは、いくらかでもプラスに働いていたに違いない。


これが、単に、


『親が悪い! 社会が悪い! 世間が悪い!』


とばかり考えて、


『原因は自分以外にあるんだとしても、じゃあ、その中で自分はどうすればいいのか? どうすればこの状況を打開できるのか?』


という視点をもてなければ、きっと、


『どうして自分ばかりこんな目に遭わなきゃいけないの!? 誰か助けて!!』


的に、誰かに助けてもらうことばかりを考えていたかもしれない。


実はクォ=ヨ=ムイに与えられた<能力>は、そういう、


『何一つ努力しなくても自分にばかり都合のいい展開を招く』


ことさえできる能力だったものの、リセイは敢えてそうしなかったのだった。



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