日常
ただ惰性のような生き方をしてきた。
何も目標もなく大学に行き、バイトに出かけ休みの日は課題をして寝て過ごす。
そんな日々に生きていた。
色にするなら、きっと白よりも濁っていて、黒よりも薄い微妙な色。
こんな日々で何か変わる日がくるのだろうか。変われる日がくるのだろうか。
俺はきっと、人生を楽しめない。だからといって死にたいとも思わない。微妙な人生。
そんな日々の中で桜舞い散る坂をいつも聴いているアニソンを聴く。
それを無心で聴きながら坂を上る。
春も、夏も、秋も、冬も好きでも嫌いでもない。
そう思っていた━━━━━━━━━━━━━━━
桜舞う最中、強い風が吹く。
目をつむって、見上げた坂の頂きにいたのは奇跡だった。
俺の人生はここで大きく変わったのかもしれない。
いや、きっと変わったんだ。この人との出会いで。
それはもう3年も前の話。
今、俺の腕には小さな命が小さな寝息をたてている。
小さな手のひら、小さな身体だ。
でも、俺にとって大きな命。
俺は自然と涙を零していた。今までの微妙な色を桜色に変わっていくようだ。いや、きっとそれはこの人との出会ったときからだろう。
「ねぇ、倫也くん」
優しい声音がそっと優しく届く。
「ん?」
少し掠れている自分の声に違和感がぬぐえなかった。
それでも声音は自分でも分かるくらい優しいと思った。
「今、幸せ?」
あの日と同じ質問をきいてきた。
俺はあの日とは違う答えを返す。
その答えはきっと模範解答以上に大切な答えだって言えるくらいには自分の気持ちと寄り添って出した。
「幸せだよ。あの日から桜と会ったあの日から俺はずっと幸せだった。だから、ごめん、、、、守れなくて、、、、」
「うぅん。大丈夫だよ」
それでも桜の声は優しい。
俺はもう無理だ。感情のダムが崩壊する。
「ごめん、、、、桜、、、、」
「謝らないで、倫也くん。お願いだから」
彼女はそっと手を伸ばし、俺の頭を撫でる。
「その子のことお願いね」
「あぁ、、、、」
「きっとママがいなくて悲しむと思う。強い子に育ててね。パパ」
「あぁ、、、、」
俺は桜の手を握って返した。
その数日後、桜はすっと息を引き取った。
奇跡は起きなかった。
俺の人生は彼女のためのものだった。
だけど、次からは違う。俺はこれからこの子のために生きよう。強い子に育てよう。それが桜とした約束だ。それでもしんどくて崩れそうな時は桜のお墓参りをするとしよう。
俺の腕の中で眠る小さな命は彼女が守ろうとした命だから。
絶対に俺は守るんだ。
ありがとう、ごめんが言える彼女の背中が遠のいでいく。俺はそっと背を向け返す。
またって手を挙げて振り返る。もう戻ることの無い人に対して。
俺の好きな季節は春になった。
夏も、秋も、冬も嫌いじゃない。
だけど春は大好きだ。
この子もそう思ってくれたらいいな。