表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/396

ナイトメア:落ちる銀嶺は夢の中 本上如月


 殺し合うモンスターと、プレイヤー。


(アイテムに価値を見出さなければ、イベントには価値がないかな? そもそも、イベントに参加する事自体にデメリットがあるのか、ないのか。そも、イベントとは?

 場所が違い、もらえるものが違うだけで、やることはといえば変わらないのでは? わざわざわける理由は? 何か意図があるのか? 気まぐれか? かく乱か?

 ガチャというシステムを利用することで現実感を喪失させることを加速させる手伝いにしたいのであれば、それはガチャを常備して、気分でその中身を切り替えればいいだけでは?)


 如月は一人、部屋(マイルーム)でイベントと呼ばれるフィールドを思う。

 そこは前回も今回も場所は違えどモンスターがいて、殺し合わねばならない。つまり、基本的にはダンジョンと同じだ。

 前回は同じ――形が多少違っても恐らく種族的なものは同じだろうと推測できる――ものが群れをなして襲ってくるものだった。

 今回は、群れをなして襲ってくるのはかわらない。

 しかし、その数もそうだが――行動が、不可解であった。殺意もそうだが、行動力がありすぎるように思えた。

 クリア条件がないだとか、ポイントがどうだとかは、些細な問題だった。

 そんなもの、前回こそが例外だったのだ、と如月は思う。

 なにせ、この前提とされているダンジョンにだって明確にクリア条件が示されているわけではない。

 『出口』とされている場所を通れば消えて、帰ってこない。それをクリアと呼んでいるだけ。それが安全に変えるための手段だとまで運営は言っていない。


『クリアするまでは、死ぬこともできない』


 運営がいったのは、これだけだ。どうすればクリアになるのか、クリアすればどうなるのか、というのは明確には示されていない。

 『出口にたどり着けばクリアすることができて、それは良い事に違いない』ということが誘導されていたふしさえあると如月は思っている。

 その後どうなるのかははっきりとしていないし、甘言を弄されてすらいない。

 ただ、出口を通れば帰ってこないという事実だけがそこにある。残っているのはおおよそそこに恐怖を覚えたか気付いて探っているものか。

 チュートリアルはそこ(出口らしい場所)には誘導するらしい。

 が、誘導する何かは決して『クリアしろ』だとか『ここを通らなければならない』とか『ここを通れば帰ることができる』といった発言はしないらしい。


(仮想現実の可能性は決して否定できないが、考えても無駄だ。我々は死して蘇る。泥が思考を持った存在であるかもしれない疑問はある。しかしスワンプマンがどうこうだって、どうしようもない。それは、知ったところでそうだという話でもある。考えてもいいが、悩むのは無価値)


 くるくるとこの場所というものについて思考を回す癖がついてしまった如月は、別段出れないということ自体に悩んでいるわけではない。

 ただ、このダンジョンというのがなんなのか? という事が気になっているだけだ。

 連続している。続いているという事は、死んでいないという事だ。

 じゃあ別にそれでいい、と、如月は自分を納得させることができる。共にいく仲間にはそう漏らしたことはないし、真実内心を吐露したこともない。自分がそう思ってしまえることが奇異であることは自覚しているからだ。別に仲間がいるほうがリスクコントロール的には便利だし、誰かいたほうが楽しいのは事実なので、わざわざ変に目立つことはしない。

 自分の未だ解消に至らない生き死にに対して興味がもてない性格がうまい具合に作用してくれたな、悩むだけの時間を使うことがなくてもうけた、と思っている。


(これが、実はゲームで参加した記憶だけが飛ばされている可能性は? そんな技術があったという記憶も一緒に飛ばせるかという問題があるな。少なくとも、VRはゴーグルつけての視界が限界だったはずだ。実際、もし技術が発展してゲームとしてよりリアルにダイブできるようになったとしても、痛みや味覚や感覚等々は規制が入りそうなものだしな。あぁ、自分がいた現実にすでにそんなものがあれば、少しだけ色づけることができたかもしれないな)


 インベントリから一つよくわからない形をした果物を取り出し、齧る。

 しゃく、と小気味のいい音と共に、甘酸っぱい果汁があふれ出す。

 それは梨の食感に近い、苺とキウイを混ぜてヨーグルトをかけたような味がする果物だ。


(食べ物一つとっても、素晴らしいな。小気味のいい『知らない』が溢れまくっているな。頭がパンクしそうだ。あちらでは感じることができなかった、謎の高揚感がある。スバラシイ。

 誰にもそれをとがめられることがない、それも素晴らしい。

 いや、自分自身がこういったものもようやく素直に楽しめるようになってきただけということなのか? あぁ、つまらないとすら思えないただの栄養補給が、こうも愉快なものに変わってしまうとは。人間というものは、色がとっても大事なんだね)


 知らない食べ物、安全である食べ物、安全でない食べ物。

 ポイントというものを使うことによって手に入る無数の何か。

 何かそういう成分でも入っているのか、気分が高揚してくるのがわかる。

 ただ、それは別段肉体的な中毒性はないものだということは、何度も食べて実験した如月には理解できている。

 精神的な依存度もそう高くない、味も悪くない、でお気に入りになっている向こうではなかった果物の一つだ。

 舌で楽しみつつ、もう一つごくりと飲み込めば、ぐるぐる回る思考がついわき道にそれたのの気付く。


(思考がスライドしてしまった。悪い気分ではないが、いけないな。イベント、イベントだ。いや? モンスターについてだったか? 別にそれようが問題なんてないけれど。誰がいるわけでもあるまいしなぁ)


 おかしくなって、くくくと笑う。

 愉快気に笑う。楽しそうで、濁っていて、歪さを覚えるが、どこか無邪気というか純粋性を持った奇妙な笑い。

 そんな一人でただ笑うという現状すら楽しくて、しばらく一人で考えることも忘れてただただ笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ