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白っけ


 首を捻る。

 どこまでも白い空間で白い人物が首を不思議そうに捻っている。


「わからんね。アレは、あの時点であまり倫理にかけていないものをなるべく選んだそうだけど――まぁ、アレのいう倫理ってなんだよって話だが」


 悪意。

 自分の快楽のために人を犠牲にできる能力は、ほとんどの人間に備わっている。誰しも、やろうと思えば誰だってないがしろにできる。

 そうしないのが理性であり、培われていく人格というものであろうと白い人物は思っていたが――それにしては、崩れる者が多すぎると感じていた。


「コレとか、こいつとか。多分、アレも想定してない感じだよな。そういう配置とかにしたくって何人かはぶっこんでるっぽかったけど――むしろ、アレが選んだのは普通にやってるやつのほうが多いっていうね。皮肉だねぇ」


 白い人間はうまく思い出せないが、確か人間はそういうものだっけと思いだす。

 頭を振る。テーブルを思い切り殴る。

 痛みが走る。


「――ふぅぅぅぅぅ。むかつくったらねぇな。俺に対する嫌がらせといい、争いを基準にした役割といい――性格はよくないっていや……むしろそりゃそうか。納得すべきだよな。無理やり連れてきてる時点で、人格に期待すんのなんか無駄だったわ、って独り言何回いって何回それを忘れるんだろうな俺は」


 一つのモニタを操作してみる。

 体に鱗を生やし、その顔も魚に近づいている男が、頭を抱えているのを見る。


「こいつとか。確か、ええっと、そうそう」


 空中で何かを操作して、空に画面を移す。

 そこには誰かのプロフィールが映っているようだった。


「うん。優秀だねぇ。善良だねぇ。歳のせいもあるんだろうけど、まだまだ清いんだねぇ……それがこんな状況になるたぁ、イイ人間ほど損する世の中ってクソだよなぁ……と思うけど、アレらが世の中っておもいたくない俺もいる。いい人間ってのも、結局は俺の主観でしかねぇしなぁ」


 幾人かの気になる人物のプロフィールを意味なく並べ、眺める。

 良いと悪いの評価の間をさ迷う学生、善良な正義感で働いていた警官、テキトウな学生、真面目だけど友達がいない学生、チンピラ、学生ドロップアウトした奴、誰からも愛されなかったと信じている学生。


「うん、学生多いなー。いやはや、まぁ歳食ってる奴よりも若いのすくってきてるらしいとはいえ、なぁ。おっさんでも活躍できるってクソゲで証明されちゃってっから。おっさんいうて、まだ50超えてもねぇんだけど。おっさんおばさんも活躍できっからな」


 そういや、と思い出す。

 こっちは思い出せるのか、とため息をつきながら脳内に描くそれは、確かに若者のよう。


「合わせてるのかね? ――参加するつもりでもあるのか? ハッ、癇に障りやがる。箱庭ゲームなら箱庭ゲームやってろよ。箱庭ゲームの中の人目線になろうとまですんなよ鬱陶しい」


 とはいえ。

 できることは、と考えても、何も思い浮かびはしないのだ。

 彼にできるのは、あくまでも運営すること。

 うまく回る程度の手出しはできても、それ以外ではない。

 プレイヤーとなることもできないし、他の何物になることもできない。


「まぁ? プレイヤー側になりたいとは思わないけどよ」


 ハード以下、キッカー以外はサクサクと、もはや手慣れたといわんばかりに惨殺されては光となり、アイテムを落とす存在を見る。

 モンスター。

 モンスター?


「いじられてるっても、そりゃ素養がありゃなおさらだわな。モンスター。便利な言葉だよなぁ」


 創作があふれている世界。

 モンスター。倒される存在。

 モンスター。襲ってくる化け物。

 自分たちと違って、言葉が通じない。

 襲ってくるのだから殺すのは仕方ない事だ。

 そう納得させやすい素養がある。

 何も殺したことがなくとも、命を奪った実感を得たことがなくとも。

 さらりと誘導すればはいこの通り。


「あぁ――若い方がいいって、そういうのもあるのかね。そういや、あのおっさんは知り合いの若いのに付き合ってってのもあって、ゲームとかも趣味にする程度には色々しってるってプロフィールにあったしなぁ。そーゆーのも条件だったりするのかね」


 そういった娯楽は、若い方が手にしやすいものでもある。

 歳をとると、思考の固まる方向性によっては操作し辛いこともあるのだろうと白い彼は思う。


「ま、それもめんどくさいって程度でしかねぇんだろうがな。できるけどぉ、面倒ははぶきたいんですぅーってか。気色悪い。今すぐ死なねぇかなぁ……」


 なんのために、とはじめは考えもしたが、今はもうそれもない。

 それはそう考えられないのではなく――望めば、それを知ることができたからだ。


「これを慈悲なんざ呼びたくはないがね。クリアしようが、しまいが――もう、例え帰れたとしても安寧はないんだって知ったら、こいつらはいったい何を思うのかね? 全部諦めちまうかな? それでも戻せって叫ぶか? 信じないと目をつぶるか?」


 テーブルに一つだけ置いてある小さなモニターに目をやる。

 それは、ここにきてしばらくたってから手に入れたもので、自分で出したものではない。


「残されるのと、連れ去られるの、いったいどっちが地獄だったのかね――玩具でも、いきれりゃ幸せだって、そう思えるならいいんかね」


 そこに映るのはプレイヤーたちがいた場所。

 今、プレイヤーが思い描く日常はすでにないとは知らない故郷。

 連れてきたものがそうしたわけではなく、知りようのないまま終わりが始まっている、そんな世界の風景。


「自由に選べりゃいいよな。生きるも、死ぬもさ」



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