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ナイトメア:落ちる銀嶺は夢の中 アイナ2


 明らかに他に誰も助けがなかったのだ。誰もが不審に思った。自分たちもそうだったけれど――ルフィナは動いた。

 アイナも――そんな人間を、助けられる余裕がある自分たちが見捨てて心の傷にならないだろうか? と、考えた。考えてしまった。

 その二択を俯瞰で見ている時点で、彼女が考える良心ある人間という象からはずれ始めている事には気付かないふりをした。

 ゲームで選択肢を選ぶように、アイナは選んだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな理由で。

 静かに、そっと、アイナは自分が削れていっていることを視界に入れながら見ないふりをする。


(大丈夫。大丈夫だから。私は、私たちは帰れるから――そうできないようなことは、そういうことになる原因になりそうなものに対しては、そなえなければ……)


 きっと、お互いが、非情であるなんて印象を与えたくないという見栄もあったのだろう。

 アイナはそうだが、ルフィナも。

 確かにもう友人のようで、それがお互いを保つことに対する綱にできるようなレベルに達していた。アイナがいた日常のように、流れで、まぁ仕方ないかなどとすぐに流れてしまって納得できるようなものではない、お互いがそうなるように努力した結果である。

 自然とそうなることが確かに理想としても、それは理想論だ。

 努力してそうなったことは、決して自然にそうなったものに劣るわけではない。

 少なくとも、アイナはそう思っている。きっと、ルフィナもそう思ってくれていると信じるし、信じられる。

 決して嘘ではない。益を考えたのが始まりだとしても。

 そう思えることが努力の結果なのだとしたら、その努力は意味のないものではないのだと確信している。


(今までの人間関係は、怠慢の結果だった、日常に戻れたらもっとうまくやれるし、作っていける)


 人に世話をやきたがるほうであるルフィナが世話を焼くことに対して、目が死んでいるようでいながらも、少し申し訳なさそうでいて『そうされるのが当然』と考えているのがスキルではない天然の観察と直感でそう思っていると感じるアイナは、歯ぎしりをしたい気持ちになる。


(このままだと、本当に拙い。今は数日。これが、いつまで続く? 立ち直るまで? 仲間にするとも、なりたいとも、私は聞いていないし、ルフィナも提案していない。離れることができる? そもそも、ルフィナにしてそこまでは考えていないはず。でも、エレナはきっと――)


 ルフィナがエレナの世話を焼いているのは、以前の日常でも子分めいた存在がいたというからその延長だろうとアイナは感じている。

 自分より弱いものが、自分を頼ってきているのだから優しくしている。そうするべきだ。そうして当然だという、よくいえばそれは優しさである。

 おせっかい甚だしくも、下心はない。ただ自然にそうあるべきと優しくしている。

 アイナと付き合う上で、傲慢さが多少なりとも顔を引っ込めたから、ガキ大将感も薄れ、世話焼きおばさんのような、どこか憎めない親しみやすさもそこにある。

 アイナ自身も、怪しまれないように拒否はしていないし話してもいる。表情が少ないことも手伝ってか、エレナが不審に思っている様子はない――それすら演技でなければ。


(ずるずると、寄生生物のように)


 目の奥の燻り。

 蛇のに巻き付かれてしまったような心地。

 沼に飲み込まれてしまうような。


(――でも、助かっているのも事実。今、トラブルが起きていないのだって、事実。根拠は、私自身の勘と推測でしかない)


 上の階層にいくものが増えた。必然的に、平均値は上がっていく。

 狙われないために、自分たちもある程度は上げねばならない状況に追い込まれていた。

 戦えたのは戦えたが――そのスタイル的に、失敗して死んでの回数も必然的に増えてしまう。

 観察もされている。アイナたちもそうしているように。別の人間だって、敵になるかもしれないものたちの情報を集めて、警戒している。獲物になるかもしれない人間の弱点を集めて、舌なめずりしている。

 どうにかしなければ、にすぽりとはまった。はまってしまったのがエレナだった。

 絶望したようで、心が折れたようでいても、しっかりとエレナは戦い、貢献したのだ。

 しかし『活躍して当然だ、だから私はここにいるのが当然でしょう』というようにも、アイナには思えた。


(モンスターを従属化させるスキルは、便利だ。パーティー人数が少ないというデメリットを打ち消せる。ペット化や従魔化までは掲示板情報で見たことがあるし、このダンジョンにもいるけど……それ以上だ)


 スナイパーで高火力、代わりに防御力がないようなものであるアイナ。

 前衛でタンクの役割も一人でこなさねばならなかったルフィナ。

 正直、手慣れたプレイヤーなら落とせない編成ではない。むしろ、アイナに攻撃すれば落としやすい弱点がはっきりとした運用。だから、仲間を探すことを求めていた。

 そこに、壁も火力も用意できて、仲間へのバフもこなせる要因がきたのだ。

 楽にはなった。

 狙われにくくもなったろう。

 そして、問題という問題は起きていない。

 それが事実。


(このまま、クリアして戻れるなら文句はない。日常ではスルーすればいいだけの話だし、日常なら離れることもできる――多分)


 嫌いだなんだでフィルターがかかっている可能性がないわけではない、などとアイナは思い込みたい気分になる。

 時限爆弾を抱えているような気分になる。

 杞憂だと、そう思いたい。

 思えたならきっと楽だ。

 しかし、そうしたくとも、どうしてもアイナの直感は警報を止めてくれない。

 今楽でも、今必要でも、もしそれで敵が増えるとしても、他の誰かに狙われるリスクを増やしても、死ぬ回数が増えて結果人格がなくなる速度が早まるとしても――()()から離れるべきだ、と。


(違う。大丈夫だ。争いになったって、二人なら制圧もできないことはないはず。それ以上のことだって、置きようがない。そこまで争ってもメリットはないということくらいは彼女にもわかるはず。

わからないとしても、そなえていればいい。そうなったときでいい、はず。そうならない可能性だってある。

そうならないなら、それでいいんだから……私が嫌いだと思うのは、押し込めれば済むことだ、大丈夫だ。私たちは大丈夫……勘も推測も、当然外れることもあるんだから……)


 楽観的な予測。信じたい妄想で作った花畑のような淡い未来。

 それがアイナやルフィナも好きではないただのレッテル張りでもあり、直感が鳴っているのは確かでも、エレナに嫉妬を持っていることも、自分が彼女をそもそも見下していることにも、ルフィナが構いすぎることを不満に思っている事にも、楽観しながら推測は外れないと心の奥では確信していることも、アイナは気付く余裕はなかった。気付きたくもなかった。

 ふと、エレナとルフィナが見ている。

 どこか責められているような心地がして、アイナはあたりを警戒するフリをして目をそらした。

 ぐるぐると、アイナは迷う。

 迷子のように、ぐるぐるぐるぐる。

 それで、何が解決するわけではないとわかっていても。

 不安も不信も。

 信用していると自称する存在に対して相談しないことも、ちっとも悪い事だとも思えないままに。

 死ぬ度何かが失われるようになったことに対する不安も、それから発生している不具合も、何も言わずに。

 ぐるぐると。

 3人いても、1人きりで。


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