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ハード:救世主の王国 龍宮寺エレナ3


 思いつく限りの悪態を頭の中で吐き出す。

 今、落ち込んでいる場合ではない、と、奮起の材料になれと罵倒の限りを尽くす。

 己が考えていた『いつか』、は今来た。来てしまった。


(よく、も……)


 PK。

 プレイヤーキラー。

 同じく被害者でありながら、同じ被害者を殺し楽しむ者たち。

 『究極的には死んでないから』という、エレナにとっては反吐が出る言い訳をするものさえいる、異常者としか呼びたくないもの。

 予感がなかったわけではないのだ。

 自分はソロで、このダンジョンでは他にペットスキルを持っているものにあったことがない。目立っている。容姿も悪くない。

 エレナにはそういう自覚はあった。

 だから、特にそういう方向での警戒はしていた。

 狙われるなら、まず自分であろうと思い込んでしまったのだ。

 第一に警戒すべきは、異性で、そういう目で見てくるようなものだと思考を固めてしまったのだ。

 現実、あちらの日常では――むしろ被害は同性から出ていたほうが多かったというのに。


(あっちで犯罪なことがこっちでは誰も取り締まらないし、そういうのがどうしても目についたからって……)


 ダンジョンに警察はいない。

 法もない。

 ルールは各個人のモラルだけだ。

 そして、モラルがある人間ばかりではない。

 『だって、誰も咎めないのに我慢する必要がどこにあるの』と平気な顔をして言える人間は特に珍しくもないのだ。

 だから、PKも、地球であれば犯罪になるような行為も、いろんな場所で発生している。それが例え状況から考えれば少ないとしても、襲われる人間はいるし、そういう人間にとって少ないという事実はなんら慰めにはならない。

 なんだかんだといっても、エレナは自信があったのだ。

 己の見た目というものに。

 自分は、他のものよりも優れていると思っていたし、思っている。エレナ基準で、実際比較してもそうだった。

 だから、女のソロで活動という事態に立った時――驕った。

 殺す前にそういう行為をしようとする。間違いはない、と。

 まさか、そのままさくりとやってしまうような、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 自分の価値を、高く見積もった。


(たまゆら……)


 隙だ。

 それは、隙でしかなかった。

 単に貶めたいだけの人間にとっては、特に舌なめずりしてしまうほどの隙以外のなんでもなかった。

 大切だと、お前らと違うという目をし、私にはたまゆらという存在がいるから他はどうでもいいのだと、そう思いながら―――現実、目を向けるのは自分ばかり。

 それでも、たまゆらというのはエレナにとって唯一の味方であることに間違いはない。

 ()()()()

 エレナの側に、もうたまゆらの姿はない。


(嫌な予感は、あった……でも、でもそんなの……)


 繋がりが切れてしまっていた。

 ペットにまつわるスキルの消滅。

 それが原因だ。

 現実とは違うのだ。金を出すなりして共にいて、逃げないようにかこうでも住処に認定させるでもない。

 スキルで繋がり、共に戦うという戦わせるという存在。

 エレナはエレナなりに愛情というものを注いできたつもりで、仲良くしてきたつもりだ。

 そこには、今までの人生で得ることも感じることもできなかった絆と呼ばれるそれを感じるほど。

 けれど、それは幻想でしかなかった。

 それを叩きつけられたのだ。

 他人から敵視されるのが慣れているエレナも――心が折れかけた。

 たまゆらと呼んでいた大きな猫のような姿の生き物は、スキルが亡くなると同時に当然のように()()()()のだ。

 エレナには目もくれずに、逃亡したのだ。

 エレナの心が折れていないのは――目をそらしているからでもある。

 逃げたのは、きっと、いきなりだったからだ、と。


(スキルは取り直した。もう一回、もう一回契約すれば、元通りになる、なれるのよ)


 使われたのは、この前のイベントで話に出ていた嫌がらせとしか思えない『対プレイヤー専用スキル』に属するものだ。

 エレナもいくつか所持しているが、使用経験はない。

 『スキル戻し』である。自分にも使えるそれは、いくつかの手順が必要なもので、場合によってはそれほど意味が出ないものでもある。

 まず、()()に一定時間以上触れ続けなければならない。

 そして、スキルを指定しなければならない。

 スキルの指定に失敗すると、スキルの回数も減って、ペナルティとしてその場で麻痺状態になってしまうという大きすぎるデメリットがある。

 指定に成功すると、ポイントに戻る。

 再取得できないわけではなく、ポイントに戻るだけだ。

 それが、攻撃に関係のあるスキルならかなり有効に働くだろう。しかし、これが戦闘中使えるか? というと、集中時間がいるし、触れ続ける条件のため現実的ではないのだ。そこまで一方的な優位にあれば、使う必要がないともいえる。

 その隙。

 使えないだろうという、自分も持っているから思ってしまっていた。


(人は友好的なんかじゃないって……あれほど!)


 たまゆらが目的であるように――ある種間違ってなかったが――で、『かわいいですね』と近寄られて油断した。

 そういう経験がなかったから。

 自分の()()を褒められるのは、初めての経験で、気分がとてもよかった。

 満たされるような心地だったのだ。

 警戒は解いていなかった。そのつもりであったし、実際警戒はしていたのだ――自分の。

 信用などしていない、しないと思いつつも――砂糖をなめるような気分で。

 結果、たまゆらの契約状態というスキルを戻されたのだ。

 目の前で悠々と触れて、発動されたのだ。

 スキルのつながりがある。

 だから、ペットも対象に含まれるというのはおそらくエレナを貶めたがった人物の推測に過ぎず、確認も確証もなく行動したのは愚かで短絡的ではあったが――効果は、確かに発してしまった。

 繋がりは消え、呆然自失状態になったエレナは無防備状態で鈍器により頭を粉砕された。

 警戒も予測も何も役に立たず、一撃でさくりと葬られた。

 死のショックから立ち直っても――そこには、たまゆらの存在も、感じていたつながりも、あったはずの絆も、何もかもがなかった。

 スキル自体はもう取り直している。

 あくまでも、使用されたそれはスキルをポイントに戻すというものだ。


(たまゆらを取り戻すのよ――()()()()()()()()()()()()


 あったはずの自信も、あったはずの思いも、あったはずの警戒心も、改善傾向にあったはずのものでさえ。

 人生で『いらないモノ』扱いされた少女は、ポイントを払えばいとも簡単に戻ったスキルという意味の分からない力のように簡単に取り戻すことができていないことには、全く気付くことはできなかった。


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