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イージー:偽兎の草原 工藤俊朗


 余裕でしかない。

 笑いもでるような気持ちで俊朗は仲間と共にのんきに話していた。

 唐突に、気付けば豪華な部屋に一人でいることに気付いた時は取り乱して何事かと不安になり、騒ぎもした。

 しかし、恐る恐る部屋を出て、馬鹿みたいに広くてまた豪華な共通スペースらしい場所に行けばそこには友人たちも戸惑った様子でいたのだ。

 即座に合流した後、無理やり連れてこられた割に、過ごしやすいなとげらげらと笑っていた。

 多少余裕が出てみれば、俊朗はそういった小説を実際に読んだことはないが、どうやらそういうものが一部界隈で流行っているらしいということは知っていた。ゲームなどなら、しないこともない事もあって、なんとなくこれがそういう類であると推測したのだ。

 そして、どうやら俊朗の友人二人もそうであったようだった。


「こーいうのって、あれだよな。勝ちゲーってやつ」

「あぁ。難易度もイージーで、ダンジョンの名前? 見たあれ。偽兎の草原だぜ、偽兎ってなんだよ」

「なめてんのかって話だよな! さすがに兎にどうこうされないっての!」

「なめてるっていえば、この状況自体がそうだけどな。いつ連れてこられたんだっつの」

「でも部屋も食いもんもいつもより豪華だっつー話しな。ゲーム機まであったぜ、さすがにやってねーけど」

「マジかよ」


 友人二人と、部屋にあったいくらでも指定範囲の飲み物なら出せる不思議な装置で出したジュースを片手に、同じく指定範囲のものならいくらでも出せる食料品のうちスナック菓子を適当に選んで食べながら、気楽そうに笑う。気にすることはないとばかりにゴミはあたりに散らかしている。彼らとしては抗議の意味もあったのだろう。

 しかし、不安はなかった。

 スマートフォンがなくなってしまっていることだけは大いに不満ではあった。ネットに繋がらないことも。

 それでも、なんとでもなるという根拠のない自信があふれていたのだ。

 一人ではない。

 友人がいる。

 怖いことなにもない。

 何も問題はないじゃないか、と。


「なんだっけ、チートだろ。あれ、チート」

「あぁー。周りからスキルうんたらって話も聞こえるっしなぁー。それ系でしょ。はいはい知ってる知ってる」

「ダンジョンっての? クリアすりゃ、帰れるんだろ。まぁーもうちょい楽しんでもよさそうだけどさ、ちょっと覗くくらいでいってみねぇ?」

「あぁ、話のネタくらいになりそうだもんなー。いや、でもさでもさ、見た? 部屋に映画もあったのよ。俺が見て―のもいっぱい。クリアすんなら見終わってからにしてーわ」


 学校の帰りにどこどこに行こうというようなノリで、雑談を交わしながら無警戒に、俊朗を含めた三人は気軽に踏み出した。

 無駄に豪華で座り心地のいい、馬鹿みたいに広い共有スペースから出口とかかれた扉をくぐって抜ける。

 光が差す。強い強い、太陽光に似た光だ。


「うぉぉ、まぶっ」

「人間の言葉になってねぇじゃん。いやまぶしぃけどさぁ」

「原っぱだ原っぱ」

「あーいってー目いってーわ」

「マジじゃん。草ボーボーですわ。てか草原だろ。そーげん」

「変わんないっしょ」

「確かに」


 目の前には広く草原が広がっていた。

 立札が無数に立っているようで、どうやら方向を誘導しているらしいというのが形と文字ですぐにわかる。

 後ろを振り返ると、ぽつんと出てきただろう扉がある。草原にぽつんと立ったそれは、えらく不自然でどこか頼りなさそうに見えた。

 俊朗が開けてみると、向こう側は暗闇で1m先も見えない。


「ちょー。扉暗いんだけど」

「ん?……マジじゃん。これ帰れるの? マジ勘弁なんすけど」

「いやー、大丈夫でしょ。あれじゃね、ワープする系のノリでしょ」

「あー」


 誰かが試すという事はなかった。

 俊朗もそうだが、二人も自分が試すという事はしたくなかったのかもしれない。

 ノリで進めていたような陽気さに、少しだけ棘が刺さった気分だ。


「つか、誰かいんじゃん」

「先に誰かいってたやつじゃね」

「おー、仲間仲間。さらわれ仲間じゃんね」

「なんかとバトってね」

「あれでしょ。モンスター。経験値よこせ丸ー」

「だれだよよこせ丸」


 景色に圧倒され、帰り道を心配して気が付くことができなかったが、右方向の少し遠めの場所に動く人間を見ることができた。草原はほとんど背の高い木などなく、辺りは平面で見やすく確認がしやすい。

 どうやら持っている剣のようなものを振り下ろしたり、薙ぎ払ったりしているのを確認することができる。


「なにあれ。すごくね。オリンピックじゃん」

「いやもう映画でしょ。ワイヤーどこよ」

「格ゲーかよ。ジャンプ力ありすぎでしょ」


 それは現実味のない光景だった。

 数mのゲームようなジャンプに、重そうなゲームじみた剣を先がかすむ速度でびゅんびゅんと振り回しているのだ。

 その先はどうやら小動物じみた奇形の生き物のようで、剣を振られた結果がきらきらと散らばっていっている。


「グロは無理なんだけど」

「いや、なんか一瞬赤く見えるけど、すぐキラキラした何かに変わってね? マジファンタジー」

「お、マジやん。グロなんてなかった」

「経験値的なきらきらか」

「経験値きらきら丸ー」

「なんなんそのこだわり」


 俊朗がちらりとあたりを見回してみると、背の低い草に紛れるように確かにウサギに似ているが目の数や足の本数が多い何かよくわからない生物が移動しているのが見えた。注視してみればそこら中にいて一瞬びくりとしたが、どうやらこちらを気にしてもいないようだった。

 俊朗がそうしているうちにあちらで何かあったのか、隣にいる友人が『うお』と声をあげる。


「魔法じゃね! 超ファンタジーじゃん!」

「凍ってんじゃん! 涼しげ!」

「涼しいってかもう冷凍食品じゃね。レンジないし終わりじゃん」


 視線をやれば、巨大な氷の塊が発生していた。嘘のような光景だと、俊朗は思う。

 そして、先ほどまであったどこか棘のような不安な気持ちは消え、わくわくとした気持ちが次々と湧き上がってくるのを感じた。

 それは純粋に、幼い子供のような期待に満ちたものだった。


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