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ハード:救世主の王国 龍宮寺エレナ2


 イベントというやつは素晴らしくストレスがたまらないいいものである、とエレナは認識していた。

 ペットのたまゆらとは入れても、人間は自分一人だけ、他には誰も存在しない。

 想像以上の爽快さがそこにはあった。

 敵として存在するのが、生理的にエレナにはどうしても受け入れられないフェイスと臭いの魚人っぽい存在なのがとても残念ではある。

 それ以外には、特にストレスがないのだ。


「たまゆら!」


 イベント、中級。

 初級とは違って、だだっぴろいただの砂浜に適当に水たまりと敵がちらほら配置されいるだけではなく、壁のようなものが随所にあって、敵の数自体も増えている。油断をすれば無造作に立っている壁から不意打ちを食らうようなステージ。

 それでも、ソロ慣れしているエレナからすれば簡単というほかない。

 壁も、エレナ自身の強化やスキル等では厳しくとも、スキルで身体を強化しきったたまゆらの全力なら壊せる程度。

 怪しい壁は壊せばよく、警戒を解くなどありえない。


「ありがと」


 腐ったような魚類顔の敵をがりぼりとかみ砕いたたまゆらが戻ってくる。

 その状態で顔を寄せるのは正直勘弁してほしい気持ちもあったものの、褒めないという選択肢はないのでいつものように撫でて褒めた。


(大丈夫。スプラッターな肉がついていることなんて日常茶飯事じゃない。これだっていっしょ……いっし……ダメやっぱ臭い)


「にぁー!」

「ごめんね、だって臭いの!」


 褒めながらもすりよってくるたまゆらの口内から漂う、なんとも耐えがたいスメルに強制的に水と風のスキルを使用して洗う。抗議の声は無視された。いつだって、力あるものがその理由を行使するのだ。


(上級よりも、やっぱり中級を回したほうが効率がいいわね)


 クリア判定がでて、退場ゲートをくぐりイベントの初期エリアへ戻る。

 鼻が曲がるような臭いにちょっと精神を削られたこと以外は無傷での帰還だ。

 インベントリから精神を安らがせる効果があるらしい栄養ドリンク系の飲み物を出して、豪快にあおる。

 上級までのクリアをエレナはすでにこなしている。

 特別階級チャレンジ! とかいうのも最後に出ていたのだが、さすがに怪しく思えて詳しく掲示板で調査すると、エレナには厳しいと確信できる内容だったのでチャレンジはしていない。

 上級もぎりぎりといえばぎりぎりであった。

 上級は乱雑に置かれた一般家庭のドアほどの大きさの壁が縦横無尽に動いている。

 その上、中級まではほぼ肉弾戦しかしない魚類が水の弾を打ち出してくるようなスキルまで使用してくるのだ。

 正直、中級から上級で難易度が上がりすぎているとエレナは思った。

 なんとかクリアはできたが、1死している。しかも、穴だらけで、経験則から頭への直撃は避けつづけ、回復も自分でかけていたためじわじわ死ぬ嫌な死に方だ。位置と撃たれ方では、その時点で一人なら詰むと推測できる。もう一度死ぬようならやめようと決めたタイミングでクリアはできた。確かに中級よりもポイントは大きい。

 しかし、中級を回したほうが安全であり、中級ならほぼ無傷で回復剤がぶ飲みのソーシャルゲームの如く延々回ることができる。

 安全性というか、ストレスの低さだ。

 結果的に中級のほうがポイントが稼げると踏んだのだ。


(スキル強化アイテム。あれが欲しい。たまゆら自身を強化もできるけど――ペットスキルで枠を増やして、新しい子を入れることができるようになるかもしれない)


 最近、また露骨にエレナにとって不快な視線が増えているように感じていた。

 状況はよくない。

 このイベントはそれを打開するチャンスの一つだと思えたのだ。

 運試しになるのは気に入らないが、それでも通常手に入らないものが手に入るチャンスだから仕方ないとガチャガチャを回す。

 今のところ、ハズレも多いものの、目的となる強化アイテムもそこそこ出てきてはいる。


「にゃにゃ」


 たまゆらが演出で出てくる無駄としか思えないガチャガチャの丸い球――引いた時点で演出のち自動的に目の前にドロップするので、中には何もない――で遊んでいる。

 それに和みつつも回していく。

 嫌がらせだろう、10連などの機能はない。一回ずつ回さねばならない。これが本当にソーシャルゲームなら苦情が大量に来ること請け合いである。


「【浮遊サーベル:B】――スキルが合わない、ハズレ」


回す。


「【飲む! 回復アイテム詰め合わせ】――味がおいしいのがあるらしい。割と当たりか」


回す。


「【劣化ダンジョン移動券】――自分より上の難易度にしか行けないって、それただの罰ゲームでしょ?」


回す。


「【特上品質の大きな肉塊:謎肉】――いや、大きすぎでしょ。私、そこまで食べないしはず――れでもないのかしら、たまゆらからの視線が熱い……でも謎肉ってなによって話だし」


 たまゆらが喜んでいるのはいいことだけど、とエレナは苦笑する。結果はあまりよくない。


(本当、ままならないわね。意思を曲げてでも仲間を増やしたほうがいいんだろうけど、最低限、我慢が効く程度の相手すらいないってどういう事なのよ、ほんと)


 ため息をついて、無駄に転がっているガチャガチャのからの一つを蹴飛ばす。これも消えればいいのに、と愚痴を吐く。

 からからと転がっていくそれは、一つだけぽつりと寂しい位置で止まった。

 たまゆらがにゃぁと鳴いた。


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