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ナイトメア:落ちる銀嶺は夢の中 ルフィナ2


 溜息をつく。

 最近、ルフィナ自身そうだが、アイナも空気を重く吐き出すことが多くなっている。

 お互いここに来るまで他人だったとはいえ、よくやれていると思う。お互いがよくやろうとして、それがうまくかみ合ったと思うのだ。ルフィナは自分を悔いたことから、アイナはどうやらもとから、相手にすぐ『マウントをとる』というよな精神的優位を無意味に取ろうとしたがる性質でないこともうまくいった要因でもある。

 実際のところ、アイナがどこまで信用や信頼を傾けてくれているかはルフィナにはわからなかった。

 ルフィナは大雑把だとよく他人に言われるし、言われて育ってきた。

 だから、アイナのような見た目大人しいタイプは庇護対象のように、無意識的とはいっても上から目線で付き合ってきたのだ。

 対等の位置においての付き合いなど、したことがなかった。そういう人間だったのだ。粗雑で、乱暴で、傲慢だった。

 ルフィナは自分が単純であることも理解している。

 手っ取り早く殴ればいいじゃん! という脳みそが筋肉でできている思考よりだということも。

 しかしというか、だからというか。自分がそうであるから、うまくいっている大半はアイナのおかげだということもわかるのだ。

 自分が上から目線だったということを、瓦解したパーティーで他の人間と望まぬ殺し合いにまで至って理解した。

 むしろ、無意識だったからこそたちが悪いとも。

 自分も悪いとわかっているが――仕留め切って冷静になってなお、相手のほうが悪いから仕方がない、私は悪くないのだと思いきりそうになる程、自分が逃げに走る人間だったことも。

 アイナと組んで、気を付けようと思っても、言った後に知らずそうなってしまっていることに気付いて血の気が引いたことが何度もあるのだ。

 それで問題に発展しなかったのは、アイナが注意をしても、怒りなりに変換して攻撃をしなかったから。

 単純な自分は、いくら自分が悪いとわかっていても攻撃されてしまえば全力で反撃してしまうことがわかっている。だから、ありがたかった。そして自分が小さく思えた。直そう直そうと思い続けて居る。反省もしている、つもりだ。少なくとも、ルフィナはそう思っている。直そうとは思っていても、治らないから悪癖というのだ。


「気弱タイプでも、気が強すぎるタイプでもダメという困難さ」

「あー、気の強いタイプはわかるけど、気の弱いタイプでもだめなのかい? 私みたいなタイプだと、やっぱダメか?」

「無理。もう結構な日数が立っている現状で、わかりやすく気が弱いことが見えるままソロでいるのなら、無理。この状況でも開き直りができなかったり、弱点にしかならない気の弱さが全面に出るタイプだと、発言ができなくなる。それでも力は強くなる。どこかで破裂する――そうじゃなくても弱点になる。リスクが大きくなるだけ。無意味」

「あー。あー。そういう」

「カラスの真似? それは流行らない。わかりやすくいうと、ださい」

「あー!? ってこりゃ別に鳴き声じゃないよ!」

「知ってた」

「その顔はむかつく」

「うぁーやへろぼうろふおんなへ」


 ステレオタイプのコミックのようなやり取りもわざとやっている面がある。

 しかし、コミュニケーションはどうしたって必要だ。

 初期のころ、ルフィナは自分がどれほど粗雑だったかと自覚してへこみ続けていた。

 いまだかつてここまで自分に失望したことはないという事くらいへこんだ。アイナが注意はするが、大きな怒りをで一方的にならないことがありがたくて申し訳なかった。その当時はまだ色々他の人間にうつることもできるし、自分よりも器用なアイナなら他の人間を選んだほうが楽だったろうと思うのだ。

 それでも見捨てもしないし、信頼関係を気付こうとしてくれるアイナに対して、ありがたくも申し訳ないという気持ちがあって、言葉数がどうしても減ってしまいがちな時期もあったのだ。

 わかりやすく自信というもがなくなっていた。今までの自分が、今の自分から見てゴミのように思えたのがそれに拍車をかけた。

 こういうわかりやすい会話をよくするようにしたのは、そういうことがあったからだといってもいい。

 アイナ自身も喋るのはあまり得意ではないといい、しかし、お互いがこのままでは駄目であると。

 無理やりでも気安く話す状態に持って行ってみようと提案してきたのはアイナだった。

 色々参考にしたり失敗したりぎこちなかったりもしたが、結局それが――少なくともルフィナとアイナにとってはうまくはまってくれた。

 アイナがどれだけこちらを信用したり信頼したりしてくれているかは、ルフィナは仲良くなれていると思っているが今もわからない。

 しかし、それでもいいのだ、という納得はできたのだ。

 この人間を好いている。友人で居続けたいと、この環境で思える。それだけわかればよかった。

 命をかけれる理由ができた。それでいい、と。


(死にはしないんだけどなぁ)


 とはいえ、何度も経験したいわけでもない苦しみだ。

 アイナのいたパーティーが崩れたきっかけは、一度死を経験した人間がそれへの恐怖で()()反射的に仲間を盾にしまったことが端を発してるらしいとルフィナは聞いている。

 ルフィナも、アイナも、一度以上の死を経験している。

 だからこそ、と思う。


(少なくとも、アタシはアイナになるべくアレを経験して欲しくないと思う。思える)


 そう思える事だが大事なのだと。

 ルフィナは、自分にとって信用するとは、相手がこちらを思ってくれているのを確信するからではなく、もし相手が騙していたとしてもそう思うことに悔いがない相手であることと定義したのだ。そうできて、それで納得できた。

 そして、裏切られれば、悲しいだろうし、二度目の信用はそうできないだろう。しかし、そうした過程に後悔はいらない。したくない。

 相手が信用する自分であろうとする事が大事だと思うのだ。

 少なくとも――近くで戦うことになっても、自分が盾にするかもと思っている動きでないことくらいは、ルフィナにもわかるのだから。

 ルフィナは自分が単純だと思っている。だから、信用して、信用されるために疑う事、そして必要以上に気にして自分を押し殺すことをやめた。


「百面相か。手を動かして」

「お、すまないねぇ。はっはっは、アイナがやったほうが早いから、ついねぇ」

「お? 朝食もいらないと見える」

「すみませんでした」

「いいから手を動かすのだ、所謂一つのおまんまにありつきたければ」

「はい」


 だから、次の仲間ができにくくもある。結束を強めるほどに割り込めない、仲間外れにされているような感覚を味合わせてしまう事にもなりかねない。信用するまでには、必ず時間がかかる。次ですぐガチリとはまる人間がくる可能性のほうが低いのだ。

 けれど、必要なこともわかっているというジレンマ。

 集団で狙われた場合、対処ができない。

 女性二人パーティーという事もある。それだけで、この現状では馬鹿から狙われるターゲットになりやすい。スキル次第ではあっても、同じ強化なら最終的に素のスペックが高いものが勝ってしまう現実もある。

 先に進んでいる中にPKがいた場合も最悪だ。

 役割分担的にも。

 二人では、リスクが転がりすぎているのだ。

 自分たちがいる【ナイトメア:落ちる銀嶺は夢の中】にはPKがいることも確認されているし、危なげな集団を汲んでいるチームも見受けられる。

 たかがプラス1人。されどプラス1人だ。

 ルフィナとアイナはGシステムも別個にして運用しているからなおさら必要に思われたのだ。

 少なくとも、壁となる役割がルフィナだけでなくもう一人は欲しいのだ。アイナがとっているスキル構成上、そうなることができないからなおさらである。実質、主に攻撃を受ける事ができるのが一人しかいないのは問題だった。

 アイナがもしやられても、場所によってはルフィナ単体ならなんとかできる可能性もあるかもしれない。一斉攻撃などを受けなければ、被弾しても死ななければチャンスはある。

 しかし、ルフィナが死ねば、アイナが死ぬ――それプラスの屈辱を受ける羽目になる――可能性はルフィナよりもぐっと高い確率になる。そしてそれを見抜かれれば、対策をうたれやすく、狙われ放題にすらなりかねない。


「……仲間、共有スペースであぶれてるの探してみる?」

「うーん……あぶれてるっても、ソロで覚悟決めてやってるやつと、パーティーに弾かれた奴、あんましわかんないのがねぇ。こういう言い方をアタシがするのもなんだけど、正直、()()()が多そうだろ?」

「ルフィナは掲示板も見ないからダメなんだ。情報のありがたさを知らないのか原始人め、うほうほと言え。ああいう場所にもためになる情報というのは転がっているもの」

「あー。ごちゃっとしたのが苦手で、なんか気持ち悪いんだよ、ああいうの――誰が原始人だ石の斧ぶん投げるぞ」

「SNSとかもできなそう」

「いやぁよくわかったな!」

「照れるそぶりをするな、褒めていない」


 ルフィナはここから抜け出したい。

 それでも、仲間が欲しい理由は自分もそうだがアイナへの危険のリスクを減らしたいからである。

 そう思える自分になれた事だけは、このダンジョンに感謝してもいいと思った。


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