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4つの点がそこにある。出来上がるのは三角形14


 体を何かしばらく痙攣のように動かした後、如月はくるりと、メイスを振り下ろした体制で首だけを由紀子の方に向ける。

 由紀子は『あ』だとか『う』だとか、意味の分からない言葉だけを繰り返して呆然としている様子だった。


「お待たせしましたぁー。ガールズトークしましょ?」

『――』

「だまっちゃってぇ。女の子の友情は、男の子で簡単に壊れちゃうって本当だったんですかねぇ?

そんなことありませんよね! 私たち、オトモダチでしょう?」


 いまだかつてない1撃が放たれる。

 勘で体をスライドさせるも、いつの間にかその腕が節足動物ようなものに変わってしまっている。瞬間の出来事だった。今までのように、じわじわと変わっていくものではない。

 不可視のそれは避けれなかったか、その範囲に入ったようだ。

 如月は興味深そうにそれを一瞬だけ眺めると、当然のように切り離した。

 圧力が広がる。

 力の制御が離れれば、如月はつぶれてしまうだろう。

 それをわかっていながら、くすくすと笑って言う。


「あらあら、いいんですか? 死んじゃったけど、愛しいアベルさんですよ? 死んだら影響しないんですか? そこまで細かく、御自分の事を理解していらっしゃる? 気遣ってあげたほうがいいのでは?」

『お前、お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


 呪いの言葉のようだった。

 アベルにか、如月にか、それはわからないが、呪われてしまってでもいるかのようだった。

 影響しないかもしれない。するかもしれない。断定してもいない。

 ただ、問いかけただけ。

 それでも、それだけで、由紀子は全力を出せないままでいる。出せない状態に返ってしまう。


「ふ、ふふふ! 私、貴方みたいな女の子が大好きみたいなんですよ! ちょっと前に作った友達もそうでした。

こうしてつつけば、すぐにイイ反応を返してくれる。最高の人たちです。

絶対に殺したいほどの激情を込めてくれる!

綺羅綺羅した、その大きすぎるものを私に向け続けてくれるんだ! 自分が最高ってところがいいですよね! 見てるふりしてみてない、他人が大事だって面して自分大好きなところ、最高ですよ! いえーい! 自分がいっちばーん!」

『殺すっ! 虫になれ! 餌になれぇっ!』


 由紀子が今している攻撃を、如月は見えているわけではない。

 1撃目で察するに、体を一気に変化させてしまうようなものだろうと察することはできた。本来は、恐ろしく作用するだろう。

 ただ、わかりやすい。如月は、どこにどう攻撃されているのかが、見えずとも手に取るようにわかるのだ。


「私と、貴方は。

本来もう、比べ物になりはしない。

虫を追い払うより簡単なんだ、殺虫剤をかけるよりも楽に駆除できる。

本当なら、私はあなたに勝てないどころか、一方的にやりたい放題やられちゃうんですよぉ?

貴方が冷静じゃないから、こんな風に避けるなんてことができてしまう。

それができないのは――ふふ、友達だから、ですかねぇ? 優しいなぁ、由紀子ちゃん!

ねぇ? 由紀子ちゃん。アベルさん、いいとこで殺しちゃって(とっちゃって)ごめんねぇ?」

『死ね! 死んでよ! はやく虫になれよっ!』


 由紀子はもう、癇癪を起した子供のようだった。

 ただ、無視することもできずに如月の言葉を聞き、さらに激高してしまう。

 悪循環。

 如月にっては、楽しい時間か、笑い声はやまない。


「あぁ、そういえば言っていませんでした。

夢がかなっておめでとうございます!

これでどこにでも1人で逃げ出すことができますね!

逃げ出すくらい愛している人からも! 遅れてごめんなさいね、お手伝いできてうれしいです!」

『違う、私は! もう! さっきまで!』

「えぇ、えぇ。ハッピーエンドになりそうでしたね。スバラシイ!

それをもーっといい感じにするために壁になる私。けなげじゃないですか!? えー! 凄い友達思い! 私!

私も得する、貴方たちも障害で愛がもっと燃え盛る!

私と、貴方と、アベルさん。ふふ、いびつだけど、これって三角関係ですよね! わくわくします、私」


 それでも差がある。埋められない格の差というものがある。

 余裕ぶっていても、如月は汗でぐしゃぐしゃであり、切り飛ばした手の傷は塞がらず、回復もできないでいる。

 怒りで誘導しているとはいえ、回避行動には神経も使い続けなければならない。

 体力が限界に近いのか、ところどころふらついてもいる。

 精神力でカバーているのか、ずっと声と表情だけは変わらない。


『お友達ができたって、思っていたのに!』

「んー……?

お友達ですよ?

貴方が思う、思い描く、お人形じゃあないってだけで。私はあなたがちゃんと好きですよ?

貴方が思うような、一方的に話しを聞いてくれて愛情を与えてくれだけの存在じゃあないってだけで」 


 その質問は如月には本当によくわからなかったのか、表情が平坦になり、声は本当に不思議そうなものだった。

 切り飛ばした己の片腕をちらりと如月は見る。

 それは切り飛ばされたのにもかかわらず、びくびくと跳ねるように動いていた。


「嫌な人は虫にする力ですかね?

多分――おいそれと死ねない感じですか?

エグイですねぇ! でも、由紀子ちゃんらしいと思いますよ! カワイイ!

昔いわれたんでしたっけ? お前は俺の餌みたいなもんだぁー、って?

思い出ですね! 自分のトラウマ(やなこと)追体験でもさせて理解させようってところ! わかってわかってー、はい虫ーって、カッワウィイ! 自分の嫌なことを進んで人にしましょう! みたいな?」

『うるさい! うるさい!』

「由紀子ちゃんは優しい子ですもんね?

幸せであってほしいから、無理やり幸福に(幸せでアレ)と。

嫌いだけど、一気に楽になど(殺す)してやる(までは)ものか(しない)


 今まで黙っていた、周りの鳥が鳴き始める。

 最初のような、楽し気な声ではない。

 怒るような声だ。敵意の声だ。

 それをちらりとみながら、動き続けつつも器用にふぅと息を深く吐き出す。


「はー。アベルさんに時間かけ過ぎましたかね。失敗続きです。メインは由紀子ちゃんなんだから、こっちに時間をかける予定だったんですけど」


 激しさを増す中、体内に仕込んでいたアイテムを力の操作で発動。

 じわりと広がっていく感覚。それは全てを回復できるようなものではないが、多少はマシになるものだ。

 取り出す手間をかけられない中では申し分はない。力の流れにどうしようもないダメージは入るが、仕方のない被害だ。

 何より、間違いなくいけるとわかって如月は更に笑いたい気分が増した。


「ねぇ、由紀子ちゃん。あなたは動かないシンデレラすぎたんですよ。

あなたは不幸だった。

だから、王子様を待ち続けたんでしょうけど。

それが悪いって言ってるんじゃないですよ?

ただ、手を取りに行かなかったのは事実です。

だから、ちょーっと時計の針を進めただけでご破算になんてされる。ガラスの靴だけ置いて逃げたって、割られちゃおしまいでしょう? 私が時間を決める前に、どうにかすることだってできたのに。

まぁ、由紀子ちゃんは舞踏会にさえ行こうとしなかったんですけどね! ただ、王子から来るのを待ってたってだけで! せめて舞踏会にいければよかったんですけどね! 魔女の私は、服も馬車も用意せずに時間だけ設定しちゃったみたいでごめんなさいねぇ? アベルさん(王子様)が少しだけでも手を伸ばそうとするのを、貴方が自分から迎えに行ってさえいれば、ガラスの靴も必要なかったでしょうけどねぇ?」

『私は、アベルさんに――! お前さえ、邪魔をしなければ、私はずっと、アベルさんと! そうなれたのにぃ!』


 ずん、と、その場の重力増したように空気が重くなる。

 事実、何かしらの力場のようなものが発生しているのか、押しつぶされて餡子がはみ出す饅頭のように、アベルの死体から中身がこぼれだしているし、如月も動きが鈍くなる感覚をとらえている。

 しかし、一気に押しつぶされるなりしていないだけまだまだ中途半端なままではある。

 それでも、アベルのそれを気遣えないレベルになっていることから時間の問題ではあった。


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