石の加工
貰った石をどうしたものか、つらつらと考える。そのままでは持ち歩くにも不便だ。何かに加工するのが良いだろう。職人組合に出向き、窓口職員に声を掛ける。
「ちょっといいか」
「あら、ヴィルさん、こんにちは。ダールさんに取り次ぎですか」
「いや、今日は別件で。石の加工とかアクセサリーの細工なんかを請け負ってくれる職人を探してるんだ。いい奴いないかな」
「職人の紹介ですね。細工職人は、ここら辺でしょうか。石の加工となると、こっちになりますね」
「両方やる人はいないのか」
窓口職員が登録名簿を広げ、こちらの条件に合う職人を探してくれる。原石の加工と細工は別々らしい。とりあえず、石の加工職人を先に紹介してもらった。席を立つと、奥からダールがひょっこり現れた。間の悪いことだ。
「何だよ、ヴィル、素通りか?つれないな」
「まだ次の依頼は出してないだろう。じゃあ、用があるから、これで」
「待て待て、聞きたいことがたんまりあるぞ!」
逃げる間もなく、いい笑顔のダールに捕まる。このゴシップ好き爺は、冒険者を引退して久しいというのに、素早さと反射神経は衰えていないようだ。忌々しい。
「何なんだ、俺は用があるって言っているだろう」
「聞いたぞ、ヴィル。駆け出しのヒヨッコに貢がせてるらしいじゃないか、この色男め」
「知らん」
「純情そうなガキだって?どこまでいった?」
「聞こえないのか」
「今度、エール奢るから、話聞かせろよ」
「耳の医者に行け」
精神耐性値をごっそり削られて、ヨロヨロと組合を出る。組合には、ダールの対策マニュアルでも用意して欲しいものだ。もしくは、ダール警報装置を付けて欲しい。気を取り直して、石の加工職人の工房に向かう。それは西地区の外れ、南の商人地区に近いところにあった。工房を覗くと、職人が手を休めてこちらに声を掛けてきた。
「いらっしゃい」
「原石の加工を頼みたいんだが」
「見せてくれるかい」
腰のポーチから小袋を取り出して、中身を職人に手渡す。職人は石を日に翳して見たり、片目に拡大鏡を嵌めて覗いたり、小さいハンマーで軽く叩いたりした。
「ちょうど真ん中辺にクラックがあるな。磨くと二つに割れるかもしれない」
「それなら、割って二つとも磨いてくれ」
「耳飾りにするにはちょうどいいかもな」
「なるほど。じゃあ、頼んだよ」
「任せとけ」
石の仕上がりは明後日になるとのことで、工賃の半分を前金で払う。残りは石と引き換えだ。工房を出て、路地をいくつか過ぎると、商人地区に入った。雑貨屋を冷やかし、加工した石の細工を考える。職人は耳飾りと言っていたが、耳に孔を開けていないので見送る。他の選択肢は、首飾りに腕輪、指輪くらいだろうか。指輪は口さがない連中の目につき易いので、鬱陶しい。
つらつらと考え事をしながら歩いていくと、中央広場に出た。今日も数々の露店が並び、賑わっている。露店の中にも、食べ物以外を売る店があり、アクセサリーの類も並んでいた。そうした店の一つに、客の目の前で細工をしながら売っている店があり、目を惹く。そこの店主は、まだ若く見える女で、作るアクセサリーもどことなく可愛らしい。
「いらっしゃい。ゆっくり見ていってね」
「それ、何?」
「イヤーカフよ。耳飾りなんだけど、孔を開けなくてもいいの。こうして耳に嵌めて使うのよ」
「これは?」
「アンクレット。足首に巻くの」
「色々あるんだな」
「こっちはヘアクリップ、これはピンブローチ、そこのがアミュレット、あっちに並んでいるのがバレッタ、隣にあるのがカチューシャ」
「……」
「お客さん、美人だからどれも似合う!これなんかイチ押し!お客さんの目の色よ」
可愛い外見に似合わず押しの強い店主が薦めたのは、緑色の石が飾られたペンダントヘッドで、付ける鎖の長さで首飾りにもアミュレットにもなると言う。
「これ、後から石を足せる?」
「石を見てみないと何とも言えないわね」
「石は加工に預けてて、明後日まで手元に無い」
「じゃあ、明後日また来て」
店主の勢いに押されて、明後日の約束をしてしまった。