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すれ違い

翌朝、冒険者協会に行ってダールからの指名依頼を受けた。ついでにこなせそうな採集依頼を見繕って、窓口カウンターに持って行く。このクエストもいつものように、森の拠点に数日間籠もることになるだろう。


手続きを待つ間、エントランスに協会の幹部職員と冒険者パーティー数組が集まっているのに気がついた。増えてきた魔物を間引くために、大規模な討伐クエストを合同で進めるという。参加する冒険者達の中に、見知った顔があった。アベル達のパーティーだ。つまり、ステフもクエスト期間中は街を離れるということだ。窓口職員に手続きの完了を告げられ、席を立つ。帰りがけに、ステフが近づいて来た。


「ヴィル、仕事?」

「あぁ、いつものだ。準備でき次第、森に行く」

「オレ達、合同クエストに参加することになったんだ。暫く帰れなくなりそうだよ」

「初級まで駆り出すとはね。無理するなよ」

「ありがと、またね」


離れ際、ひらひら手を振るステフの手首に、あの使い古しの髪紐が巻かれていた。そこに口づけるような仕草をすると、ステフはアベル達のところへ戻る。程なく、討伐参加者達は大挙して前線に向け旅立っていった。


こちらも通常クエストに出発する。森の拠点に移動する間、魔物とのエンカウントがいつもより多く感じた。やはり、大規模討伐を組むぐらいに魔物が増えているのだろう。角ウサギや灰色狼程度だったが、ソロで倒すには骨が折れる。解体も数が多いと手間だ。薬草採集の合間を縫って、食べる分以外の肉を干したり塩漬けにしたりして保存食に加工する。そんなこんなで、森での滞在期間が延びた。


街に戻って、協会に依頼達成報告に行く。合同クエスト組はまだ戻っていない。協会主導での討伐なので、野営場所や食事の心配はないだろう。自分のペース配分を分かっている中級冒険者ならともかく、初級のステフ達がこの長丁場を無理せず乗り切れるだろうか。


依頼ボードを見ると、通常依頼が色々と溜まっている。合同クエストの方に人手を取られて、依頼が消化できていないようだ。指名依頼は外せないが、その他の依頼も手の届く範囲で多めに受けておく。窓口職員も頭を抱えていた。


「ヴィルさん、助かります。最近、この手の依頼が滞りがちなんですよ」

「合同討伐の影響?」

「ええ、おそらく」

「彼らはまだ戻らないの?」

「討伐自体は順調な様子なんですけど、なにぶん数が多くてきりが無いみたいです」


職人組合に出向いて、ダールを訪ねる。こちらの窓口職員も、依頼の滞りを気にしているようだ。薬草採集の他、鉱物素材の供給も減っているらしい。坑道に潜るような依頼は守備範囲外だが、露天掘りのものなら受けてみてもいいだろう。ダールによるいつも通りの馬鹿話を流しながらブリーフィングを終えた後、協会に戻って追加で受けておく。採集用の道具や袋を準備して、まずは鉱物採集クエストに向かう。


採集地点は黒い岩肌が剥き出しになった小高い丘で、鼠型の魔物がちょろちょろと鬱陶しいところだった。鼠は狩っても屑魔石くらいしか採れず、割に合わない。鉱物を掘る傍ら、狩った鼠を隅に積み上げる。採集が終わり、少し離れた場所に穴をあけ鼠を放り込む。まとめて燃やし、灰の中から屑魔石を拾って、穴を埋めた。


回り道したが、本来業務に戻っていつもの拠点に向かう。森での採集中も、やはり魔物は減った様子がない。余裕を持って依頼を受けてはいるが、採集にもその他の処理にも時間を取られ、期限ギリギリに街へ戻った。協会に報告すると、他の同業者達も苦労しているらしく、期限延長を望む声が多いという。


「ヴィルさん、やはり魔物はまだ多いですか?」

「雑魚が多いな。時間ばかりかかって実入りが少なくて困るよ」

「協会でも、期限延長は検討中なんですけど、依頼主の同意を得るのが難しくてなかなか延長できないんです」

「しかし、そもそも何故こんなに魔物が増えてるんだろうね」

「瘴気溜まりでも出来たかもしれないですね。あと、新たに迷宮が出来たとか」

「冗談きついよ」


定宿に戻ると、宿主が何時にも増してニヤニヤとしている。留守中にステフが訪ねて来たらしい。鍵と一緒に包みを渡された。


「この間の坊やが、これ預けてったぜ。一時帰還で、すぐ戻るんだとさ」


部屋に戻って包みを開けると、わりと大きめな半貴石が出てきた。よくアクセサリーに加工される石だ。討伐中に見つけたものなのか、石は角張っていて土で薄汚れている。色は灰色がかった水色、ステフの目の色だった。世間では、恋人同士がお互いの目の色のアクセサリーを持ち合うのが流行りだと聞く。ステフの精一杯の意思表示だろう。


その後も、すれ違いは数週間続いた。

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