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魔術師団の内情

『早く家に帰れる』


魅力的な殺し文句で、うっかり魔術師団長の口車に乗せられてしまった。迂闊にも程がある。


王都に戻ったら王宮内にある魔術師団の塔へ赴く、などと約束してしまった。口約束だけに然程拘束力は無かろうが、反故にするには気が引ける。


言いたい事だけ言い、さっさと元いた所へ引き揚げて行くイェレミアスの後ろ姿を見遣りながら、溜め息が溢れた。


(何なんだ、彼奴は! 言い逃げだろう、全く……)


しかし、イェレミアスは一体、何を目的に魔術師塔へ誘ったのだろうか。確かに神殿の紐付きではない癒し系魔力持ちは貴重だろうが、わざわざ魔力操作の指導を請け負ってまでして呼び寄せる価値があるのか、素人には分からない。


「俺を塔に呼んで、何か得があるのか?」

「癒し系魔力の研究とかかなー?」

「研究目的なら学究派(ひきこもり)連中の領分だろうな。イェレミアスはバリバリの武闘派(のうきん)だぞ」


ライの物言いに、何やら不穏な単語が混ざっていた。それについて追求してみる。


「何? 学究派(ひきこもり)とか武闘派(のうきん)とか、魔術師団にそんな派閥があるのかよ」

「ああ、王都住まいならよく耳にする噂だ。魔術師団は序列一位イェレミアスと二位ヘルムートをそれぞれ頭にして対立しているってな」


巷で噂になるレベルで対立しているとは、穏やかではない。それとも、対立構造を演出して、得をする輩でもいるのだろうか。


「魔術師団といえば、見習いのテオがいるし、エルも基礎訓練で通ってるって言ってたよね。結構知り合いが多いかもー」

「テオの師匠とも以前、街で会った事があるな。どっちの派閥なんだろう」

「研究の為に地方廻りするくらいなんだから、学究派(ひきこもり)じゃないのー? 籠もってないけどさー」


ステフと知り合いの魔術師について話していると、ライが口を挟んだ。


「そういや、前に魔術師団から指名依頼を請けたな。魔力の調査って名目で、実質はエルの護衛役だったな」

「護衛? エルがそんな危険な目に遭っていたのか?」

「いや、エルの特殊な魔力がイェレミアスに目を付けられて、付き纏われた事があったんだ。イェレミアスに対抗するには、俺くらい攻撃力がないと牽制にもならんからな」

「成る程……」

「その時の依頼主がエルの師匠で学究派(ひきこもり)のヘルムート師なんだが、イェレミアスから離す為に依頼名義を別人にしていたな。確か、ガイラル師だったか」

「ガイラル師? 例の街で会った事がある魔術師って、そのガイラル師だよ。テオの師匠の」


思わぬ処で、人脈が繋がった。お互いに同じ人と別々の場面で面識があったらしい。世間は広い様でいて、案外狭いのかもしれない。


雑談の後、粛々と浄化作業を(こな)す。休み休み白炎半球障壁(ホワイトファイアドーム)を展開し、瘴気を一掃した。


「セス、来い!」

「ヒューイ、ルーイ、銀色(ズィルバー)、待たせたな、おいで!」


窪地の瘴気が晴れたら騎獣達を呼び寄せ、残る魔獣を一気に殲滅した。窪地の上でウロウロと主を待っていたストレスを発散、とばかりに騎獣達が張り切る。


特に、白狼軍団を従えた銀色(ズィルバー)の活躍ぶりが目覚しかった。端で見ている国軍関係者達の目が点になっていて面白い。


浄化を終え前線に戻ると、国軍の幹部は王都への帰還を算段し始めた。事後処理に一部が残り、他は砦に引き揚げる。其処で王都帰還組を編成し直すとの事だ。


復路は往路の様な急ぎではないので、歩兵部隊を魔法で底上げしたりはせず普通に行軍するらしい。なので、足の速い騎獣部隊は先行して帰るという。我々冒険者達も、騎獣部隊に同行する事になった。


銀色(ズィルバー)、白狼達は連れて行けないぞ? 彼らと別れるか、俺のテイムから外れるか、選べ」


北の砦を発つ前に、銀色(ズィルバー)と向き合う。群れの頭だった銀狼は白狼達と鼻を突き合わせ、何やら相談しているらしい。やがて結論が出たのか、銀狼がこちらへやって来た。甘える様に鼻を擦り付けてくる。


銀色(ズィルバー)、残るのか?」


別れの挨拶かと思い、そう聞くと、銀狼は激しく首を横に振る。違うのか。


「じゃあ、白狼達を置いて行くんだな」


今度は合っていたらしく、銀狼に全身でのしかかられた。重い。仕草は犬と変わりないが、大きさが違うのだ、勘弁して欲しい。


白狼達は、銀狼に次ぐ序列二位が新たに群れを率いるらしい。銀狼と挨拶を交わしていた。


一晩砦で休み、翌朝早く国軍の王都帰還組と共に旅立った。





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