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視線の先

その後、浄化作業は通常よりも休息を長くとり、魔力を回復させながら進めた。白炎半球障壁(ホワイトファイアドーム)は一発の消費魔力が大きいが、比例して浄化する力も大きい。ただ魔力を流すよりも効率良く浄化出来る。


「ふぅー、キツい……」

「ヴィル、お疲れー」


ステフに労われ、休息に入る。浄化一回毎に休息、魔力回復はマジックポーションと魔力譲渡を交互に。ポーション酔い対策には効果的だが、ライがすぐ調子に乗るのが難点だ。素直に魔力譲渡だけする気は無さそうで、一回一回がしつこいくらい長い。


「……ライ、いい加減にしろ!」

「このくらい、役得があってもいいだろうが」

「……はぁ……」


最早、溜め息しか出ない。


休息時間は、見るとも無く周りの魔物討伐する様子を見ていた。瘴気溜まりの只中とはいえ、浄化されて瘴気の靄が晴れた所は視界も良好だ。国軍が少人数の班に分かれて、魔物に対峙している。


どの班も、概ね前衛に守られた魔術師が魔物に術を放ち魔物を斃していく。前衛と魔術師を兼ねられる、ライの様なタイプは少ないらしい。


「ん?」

「どうした、ヴィル」

「いや、何処からか視線を感じる」

「どうせ、ライが例の親戚に睨まれてるんじゃないのー」

「彼奴も討伐中だ、そんな暇無いだろう」


休息中は特に、度々視線を感じた。それを辿っていくと、大概は例のイェレミアスというライの親類に行き着く。ライ自身は気にも留めていない様だが、端から見ている方は気が気ではない。視線の流れ弾に当たった気分になる。


「ライ、少しはその親戚の人、気に掛けてやったらどうだ? こっちまで纏めて睨まれてる様な気がする」

「そうそう、気分悪いよねー」

「気に掛けてどうするってんだ? 仲良くお話しするってか?」

「仲良く、はともかく、話があるなら聞いて来いよ」

「俺には無い」

「……ライもあの親戚の人、キライなんだー」


そんな内輪での雑談中も、チラチラと視線が刺さる。本格的に対策をとらねば、こちらの精神的苦痛が増えそうだ。只でさえ魔力の消耗が激しいのに、こんな些末な事で精神をゴリゴリ削られたくない。


「とにかく! 次に目が合ったら話して来いよ」

「ライ、頼むからアレ何とかしてー」

「……ったく、何なんだ? 俺の所為じゃねぇ!」


いや、確実にライが原因だと思うが、口には出さない。ステフも口を噤んでいる。賢明だ。


それから何回目かの休息中、件のイェレミアスを含む班が休息しているのを見つけた。


「ほら、ライ! 今なら向こうも休息してる、行って話聞いて来いって」

「……」

「ライーお願いー放って置くとずっと睨まれたままだよー」

「……俺が行く迄も無い様だが」

「「えっ?」」


ステフと二人してライをせっついていると、ライが可笑しな事を言う。ふと目線を上げたその先に、こちらへと歩いて来るイェレミアスの姿があった。


イェレミアスはゆっくりとこちらに近付き、ライの目の前に立つと、(おもむろ)に口を開いた。


「ラインハルト、お前……相変わらず魔力の扱い雑だな」

「イェレミアス。そんな嫌味を言いたくて、こっちをチラチラ伺ってやがったのかよ」

「お前も雑だが、問題は其処の聖女サマだ。魔力の扱いが全くなっとらん! これでは魔術師塔の見習い達の方が遥かにましだ」

「この非常時に、わざわざ喧嘩売りに来たってか? 依頼が終わったら、幾らでも買ってやる、失せろ」

「それこそ、この非常時にわざわざするか。俺も今や魔術師塔の序列一位だ、お前への私怨でばかり物を言っているのではない」


イェレミアスは、ライに向けていた目線をこちらへよこすと、言い放った。


「聖女サマよ、お前の魔力の扱いは見るに堪えない。せっかくの貴重な癒し系魔力も、その膨大な潜在魔力も、宝の持ち腐れだ」

「俺は『聖女サマ』とやらじゃねぇ! 上級冒険者『翠聖(すいせい)』ヴィルヘルムだ」

「では『翠聖(すいせい)』ヴィルヘルム、お前はその持ち腐れた宝を活かす気はあるか?」

「宝だって? こんなもの、煩わしい枷でしかない。活かすも何も、使えるものを使うだけだ」

「その雑な魔力操作を矯正するだけで、術の効率が飛躍的に伸びるんだぞ? 浄化の効率が上がれば、依頼に掛かる日数も減らせる。それだけ早く、家に帰れるって訳だ。どうだ?」

「……早く家に帰れる……」


魔力の扱い方など全然興味無い事だったのに、イェレミアスの煽り文句にうっかり心が動いた。こちらの弱みを的確に突いた、会心の一撃だ。


「そうだ。やる気あるか? なら、魔術師塔に来い」

「行ってみてもいい」

「王都に戻ったら、一度顔を出せ」


うっかり、イェレミアスの口車に乗せられた。



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