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ダンジョン跡地へ

瘴気溜まりへは、国軍の突入組から半数が先に入って行き、浄化担当の三人を中にして、残りの国軍突入組が殿(しんがり)を務めた。


騎獣達は瘴気を嫌うので、地上に残し湧いた魔物の間引きをさせておく。特に翼犬のヒューイは戦力になるので、地上居残り組には有難がられた。


国軍に続き、瘴気の中へと足を踏み出す。黒い靄の立ち込めるダンジョン跡地は、結界(バリア)を張っていてもずしりと重くなる様な圧迫感があった。


「あの親戚の人、先行班にいるみたいだな」

「イェレミアスだ、ヴィル。名前、覚えてないのか?」

「覚える気がないだけさ」

「オレもー。どうせ絡まれるの、ライだけだしー」

「おい……」


内輪で軽口を叩き合っていると、(くだん)の人物から鋭い視線が刺さる。こっちを気にせず、瘴気の中の魔物に注意を払って欲しいものだ。


ダンジョンだった頃の階層が階段状に残る壁面を伝い、一行は慎重に下層を目指し降りて行く。魔物の対処は、先行班が殆ど処理してしまうので、時折来る取り零しをライが剣を揮い斃していた。


元ダンジョンとはいえ、核を失った今は斃した魔物が吸収される事は無い。地上と同じく、屍累々といった状況になる。只でさえ足場の悪い崩落地に、場所塞ぎな死骸が山になっていては敵わない。


「燃やすか」


ライを始め、国軍の魔術師の中で火術を扱う者達が、死骸に炎を放ち灰にする。洞窟型ダンジョンなら、空気が無くなって危険だろうが、窪地と化した今なら燃やし放題だ。


「火術、便利だなー」

「制約も多いぞ。森や洞窟では使えないし」

「どの属性でも、利点や難点はあるさ。ステフは得意分野を磨けばいい」


羨まし気に呟くステフにライが返答するのを聞いて、横からフォローする。だが、フォローになったかは微妙だ。ステフが本当に羨ましく思っているのは、魔法属性ではないのは薄々感じていた。


ステフが欲しているのは、ライの豊富な魔力や恵まれた体格、培われた経験に裏打ちされた、その圧倒的な戦闘能力だ。ライが持つ其れ等を、ステフは何一つ持っていない。


行動を共にする機会が増えて、今まで見えていなかったものが見えてきたのだろう。いや、敢えて目を逸らしていたのかも知れない。此処に来て、ステフは何時に無く弱気になっていた。


勿論、表立って騒ぐ訳ではないし、変わらぬ風を装っている。でも、口には出さなくとも、内に抱える不安な気持ちがじんわり伝わって来る。


ステフは取り立てて目立った能力は無いものの、明るく健康で勤勉な好人物だ。生まれ育った村に何事も無ければ、其処で一生幸せに暮らせただろう。冒険者になる事も無かった。


村の全滅によって彼の人生が一変し、冒険者となってしまったから、無いものを求め焦りや不安に苛まれる破目に陥った。せめて、冒険者になる事を選ばなければ、こんな思いをする事も無かったのに。


でも、もしステフが冒険者にならなかったら、こうして出会う事も無く、二人で過ごした時間も、紡いできた絆も、何も無かった事になる。ウルリヒも生まれて無かっただろう。


──嫌だ。有り得ない。


思わず、隣を歩くステフにギュッとしがみつく。


「どうしたのーヴィル?」

「いや、ちょっと……考え事してたら、怖い方に流れて行って……」

「あははーヴィルってば、こんな最前線で余裕ー」


ステフは明るく笑い飛ばす。つられて一緒に笑い、嫌な気分を散らした。ステフの落ち込みも一緒に消えていった様だ。


「おっと、気を抜くなよ! 来てるぞ」


ライの声掛けと共に剣が一閃、近付いていた魔物を屠る。先行班の取り零しが増えてきたらしい。物思いに耽っている場合ではない。


掛けている結界(バリア)は瘴気避けの為に範囲を広げているので、魔物避けには効果が薄い。自力で排除しなければならない。


「ライに怒られちゃったーえへへー」

「気を引き締めて行かないと、だな」


ステフは改めて剣と盾を構え直し、(シールド)も展開する。この術は、ステフが努力の末、後天的に身に付けたものだ。


こちらのダダ漏れな魔力を常に浴び続け、元は備わっていなかった魔力を身の内に取り込み循環させて、更に術として発動する。ステフは誰に教わる事もなく、己の感覚のみでこれを成した。


元々持っていなかった魔力だから、潜在魔力量など無いに等しい。張った結界(バリア)を維持するならともかく、自前で張るのは難しい。その少ない魔力で実用的に使える形にしたのが、このピンポイントで敵を弾く(シールド)だ。


「頼りにしてるよ、ステフ」

「任せてー」


ヘラリと笑う彼に、こちらからも微笑み返した。



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