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魔物の発生源



膠着状態だった隣国との戦況が動きを見せた。隣国側が、本格的に撤退し始めたのだ。それ迄の、誘い込む様な見せ掛けの撤退では無く、正しく敗走と言うに相応しい有様だった。


元々、国力の劣る隣国だ。少しでも収穫の望める肥沃な土地を求め、飽きもせず毎年攻め入って来ていた。今回はそれに魔物の大量発生が加わったのだ。魔物の流出に便乗して国境線を押し上げるつもりが、思惑通りにいかなかったのだろう。


動かない戦況、相手を脅かす前に対処されてしまう魔物、その魔物に自軍のみが脅かされ持ち堪えられなくなった。這々の体で逃げ帰るのがやっとだった。


隣国の敗走に合わせ、こちらも進軍開始する。国境線を押し上げ、魔物の発生源の向こう側まで勢力下となった。


そして──


「ありゃー、こう来たかー」

「一応は瘴気溜まりになるのか、コレ」


隣国の撤退に合わせて押し上がった国境線の手前、勢力圏内に入った魔物の発生源を前にして、冒険者達が顔を突き合わせた。ステフの呟きに、サイラスが言葉を繋ぐ。


「元はダンジョンだったらしい痕跡は見えるけど……もうコレじゃあダンジョンとは違うだろうな」

「うーん……ダンジョン崩落跡地って感じか?」

「単なる窪地でも無さそうだし、ダンジョン跡地でいいんじゃないか?」


サイラスの言に意見を述べると、トールやライが賛同した。


魔物の発生源は、一見ただの瘴気溜まりに見えるが、その瘴気の下は底の見えない深さの窪地だった。蠢く瘴気の合間から、窪地の側面にダンジョンの階層だった頃の痕跡が見え隠れする。


元は何階層かのダンジョンだったのだろう。ダンジョンも攻略され核を破壊されれば、只の洞窟と同じだ。そういったものが崩落して、この窪地になったらしい。そこへ瘴気が溜まり、魔物が湧いた。


レフは顎に手をやり発生源を見据えていたが、こちらを振り返り言った。


「ちょっとコレの周りをぐるっと見回って来る」

「あ、なら俺も」


レフとサイラスが連れ立って偵察に行き、残りは瘴気溜まりへの対処をどうするか、国軍側と意見の擦り合わせに向かった。


冒険者側代表のトールと、前線司令の部隊長が話し合う。まずトールが魔物発生源の説明をした。


「今回の魔物大発生は、ダンジョン跡地の崩落した窪地に出来た瘴気溜まりによるものと見られる。瘴気溜まりではあるが、規模はダンジョンに準ずるものだ。我々冒険者側だけでは対処しかねる」


冒険者側の話を聞いた部隊長は、暫く思案した後、部下に指示を出した。


「これより、部隊を三隊に分ける。一隊はこの場に残り待機、一隊は砦に戻り報告と交代要員の派遣、残る一隊は冒険者達と共に瘴気溜まりの浄化に当たれ」

「「「了解」」」


国軍から慌ただしく動く中、魔術師団のテオを探す。魔術師団は待機と帰還の組に分かれており、テオを含む魔術師見習い達は帰還する組に入っていた。


「テオ」

「ヴィルさん、お疲れ様です。大活躍ですね」

「いや、地味なもんだと思うんだが……それは置いといて、テオは砦に戻るんだな。このまま王都に帰れるのか?」

「まだ詳しい事は聞いてないんで、分からないですけど……多分、見習いは長く前線に置いておけないから、帰されるとは思います」

「そうか。無事に帰れて何よりだ」


この慌ただしさの中では、次に何時(いつ)会えるか分からない。簡単に別れの挨拶を済ませておく。


こちらは、改めて追加依頼に当たる。国軍からの応援要員を得て、ダンジョン跡地の瘴気溜まりを一掃するのだ。


冒険者側は、浄化を担う我々三人が瘴気溜まり突入組、残る三人が周囲の魔物に対処する組に分かれた。国軍側も、結界(バリア)を張れる魔術師を伴う突入組と、居残り組に分かれる。


軍の突入組には、知った顔が居た。ライと因縁深いという、魔術師団トップのイェレミアスだ。王都帰還に加わらず、辺境に居残ったらしい。余程、ライが気になると見える。


突入に備えた打ち合わせ中の今も、イェレミアスはこちらを睨み付けている。


「ライ、あの親戚だっていう魔術師、ずっとこっち睨んでるぞ。そんなに根に持たれる様な事、何したんだ?」

「何も。俺は奴なんぞ眼中に無いが、奴が俺を目の敵にするんだ」

「その眼中に無いっていうのが、あの人からすれば気に入らない原因じゃないのー」


内輪でコソコソ噂する間にも、イェレミアスの視線はこちらを射貫く。鬱陶しい。


「只でさえ面倒くさい浄化依頼だ。余計な邪魔をしなけりゃいいがな」

「……ソレ、何かの前振りっぽいねー」

「不吉な事を言うなよ!」


内に不安要素を秘め、辺境での瘴気溜まり浄化が始まろうとしていた。





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