対魔獣戦
行軍は、王都からの移動でも使わった魔力ゴリ押しのスピードアップ方式で進む。それでも、騎獣隊と歩兵との間は開いていた。止める気配も無いので、このまま先行して構わないのだろう。
ヒューイを飛翔させて先を窺うと、遠くの方に魔獣らしき影が見えた。左翼側に群れが一つあり、中央から右翼側にかけてちらほら別口の魔獣が見えている。
単発で来る魔獣は、熊や鹿やら鼬に似た格好だが、何処かしら異形な部分を持っていた。脚が多いものや、角がグネグネと多岐に分かれ大きいもの、前肢に鎌の様な爪を生やしたもの等、どの個体も一様に纏う瘴気が濃い。
地上に降りて、部隊長に報告した。
「魔獣が近付いている。左に群れ一つと、右寄りに単発のがちらほら」
「冒険者諸君に任せる。先行してくれ」
「了解」
部隊長の指示をトール達にも伝言して、元いた左翼側に戻った。トール達には単発組を任せ、こちらは群れに当たる。
「ライ、こっちは大物だぜ」
「上等!」
速度を上げ魔獣の群れに対峙する。近付いて見ると分かったが、魔獣は北に多いという白狼だった。街の近辺で見掛ける灰色狼より一回り大きく、より獰猛な感じだ。
「あれ、群れのボスかな? 他の奴より大きいし、毛色も少し違うなー」
ステフの指摘する様に、群れの後方には一際大きい魔獣がいた。毛色は輝く銀色をしている事から、恐らく銀狼と呼ばれる魔獣だろう。体格は翼犬のヒューイと互角くらいか。
「この狼の群れ、他の奴より瘴気が薄い気がする。白炎で祓えるかもな」
「じゃあ、浄化してからボスを抑えたら群れを制圧出来るな」
「殲滅よりは早くて楽ー」
ざっくりと動きを打合せ、行動開始した。
「俺はルーイと此処に降りて、囮役になる。ステフはヒューイと後方に回り込んで。ライは側面から牽制を」
「分かったー行くよー」
「任せろ」
ルーイの前肢に掴まってヒューイの背から飛び降り、群れの正面に立つ。その間に、ステフはヒューイと群れの右側を回り込む様に飛んで行った。ライはセスと群れの左側へと走り出す。
結界を張ってから、白炎障壁の準備に入った。ルーイは咆哮をあげ、群れを足止めする。すかさずライが炎を放ち、群れの注意を引き付けた。
「白炎障壁」
瘴気溜まりを浄化する要領で、狼の群れに白炎を放つ。狼達から出ていた瘴気の黒い靄が消え去り、群れの統制が乱れた。そこへ後方から回り込んで来たヒューイが割って入り、ボスの銀狼を押さえ付ける。
銀狼は暫く抵抗していたが、ヒューイに噛み付かれ組み伏せられ大人しくなった。銀色の毛並みに血の色が目立ち痛々しい。白狼達は、銀狼に従い次々とその場に伏せていく。
群れの無力化に成功した。
「ヴィル、この銀狼どうするー?」
「瘴気は祓ったし、もう悪さしないだろ。取り敢えず怪我だけ治してやるか。上手く味方に付けば戦力が増える」
「おい、また従魔増やす気か?」
ライに突っ込まれたが、そこまでするつもりは無い。テイムするにしても銀狼なら、翼犬と同じ様に手間いらずで役に立ついい従魔になるだろう。ルーイの前肢に掴まって飛び、銀狼の間近に降りる。
「おいで。怪我を治そう」
銀狼へ手を差し延べ、魔力を流し込む。銀狼は嫌がる素振りを見せず、受け入れた。銀色の毛並みがキラリと輝く。澄んだ青い瞳の綺麗な狼だ。可愛い、様な気がする。
「クゥーン」
銀狼が甘い鳴き声で擦り寄って来る。テイムされてしまった様だ。
「うーん……テイム、されちゃった……」
「あはは……こうなると思ったよー。名前、どうするー? ヴィル、名付けは苦手だもんねー」
「考え無しに従魔増やすからだ」
「従魔にする気は無かった! 魔力流したらテイムされちゃったんだ!」
「ライ、冷たいー」
取り敢えず名付けは後回しにして、残る魔獣を片付けに回る。粗方トール達が斃していたが、後方から更に新手が来ていた。
「じゃあ、銀色、群れに命じて魔獣を片付けさせろ」
「それ、その子の名前?」
「ただ色の名で呼んだだけだろ、仮の名前だ」
「其奴には似合ってるぞ」
銀狼に騎乗して、ヒューイやセスと共にトール達の方へ向かった。銀狼に従って、群れの白狼達も付いて来る。新手の魔獣も、銀狼率いる白狼の群れにあっと言う間に蹂躪された。
「ヴィル、また従魔増やしたの?」
「瘴気が薄かったから、祓って無害化しただけだろ」
「だって、テイムしてるじゃないか。無害化だけなら野に放てばいいだけだろ」
「……成り行きだ」
「はいはい……」
サイラスにも呆れた様な声で言われた。またって何だ。どうしてか、こうなったんだ。
「ヴィルはなんだかんだ言って、世話好きだよな」
「ねー」
ライとステフが何か言っている。聞こえない。ないったらない。