砦での過ごし方
それから、増援部隊の本隊が合流するまでは、砦での待機となった。その間も砦の軍人達は、斥候を出して情報収集したり、最前線へ布陣する為に先行部隊を送る等、戦の準備に忙しい。
一方で、我々冒険者はのんびりと過ごした。
「トール、何処に行くんだ?」
「訓練場を借りて鍛練さ。サイラスも行くぞ、ヴィルもどうだ?」
「俺達は森に行くよ」
トールやサイラスは訓練場にて自主鍛練に精を出し、ライやレフは砦に近接する森に出向く。
「ヴィルも狩りか? ヒューイが見当たらないが」
「ヒューイは何時もの自主的な狩りだよ。俺はステフと薬草採集さ。レフ、随分と吹っ切れたみたいだな」
「まぁね」
こちらは狩りには参加しないが、ステフと共にライ達と森へ向かった。目的は薬草採集。
森を歩きながら周りを観察し、街の周辺や王都辺りとは違う見慣れない植物の数々に、感想が口をついて出る。
「此処ら辺は、ウチの方と植生が違うな。余分に採集出来たら、ダールの所へ持ち込んでみようか」
「お土産にいいかもー? 砦の人から事前に聞いておいて良かったねー」
「ステフのお陰だよ」
ステフのコミュニケーション能力により、砦の救護室で衛生兵達に話を聞く事が出来ていた。使われている薬草の種類やら、その出所についてやら、様々な情報を得られた。
薬草の大半は、領都経由で王都の商会から取り寄せているらしい。だが、一部の薬草は近接する森からの現地調達だそうだ。今回その薬草を狙い目に、森の奥へと分け入った。
「それにしても……紛争地域だろ、此処。依頼で討伐に来て、こんなに長閑でいいのか……」
「いいんじゃないー?」
あまり人の出入りが無いらしく、目当ての薬草は採り放題だった。救護室に売る分以外にも沢山採れて、街への土産にも充分な量を確保出来た。持ち帰り用は、軒先を借り干しておく。
「……それにしても、酷い襤褸屋だな。滞在中に崩れなきゃいいが」
「本棟もコレと似たりよったりだよー」
「……北の辺境伯は余程カネが無いんだな」
「西の辺境伯とは大違いだ。辺境伯って大貴族なんじゃないのか?」
軍から宛行われた宿舎は、砦本棟では無く別棟だった。兵士用の造りで、質素な上に狭いが、移動中の宿や野営を思えば何という事も無い。嫌な奴等と顔を合わせる機会もぐっと減る。万々歳だ。
「……何してるんだ、ステフ。ライも」
「「模様替え」」
兵士用の四人部屋で、ライとステフがバラバラに置かれたベッドを一箇所に集めていた。
「これでオレ達三人とルーイは余裕で寝られるよー」
「ルーイは厩舎じゃないのか?」
「その日の気分で、ルーイの好きな方に寝ればいい」
「「ヴィルは真ん中な!」」
拒否権は無いらしい。
本隊が砦に到着し、再び司令室に集められた。今回は最初からちゃんと冒険者達にも席が用意されていた。やれば出来るのに、何故やらない。可笑しな砦責任者だ。
軍議が始まり、粛々と各種報告や質疑応答が進む。大半は聞き流していたが、斥候からの報告に気になるものがあった。例年に比べ、魔物が増えているらしい。その大部分が北からの流入だそうだ。
「もしかして、北の方に新規のダンジョンか瘴気溜まりがあるかも知れないな」
「どちらにせよ、あるのは国境の向こうだ。直接の介入は無い」
「越境して来た分の魔物を討伐するだけでは、埒が明かないぞ。いずれ人里への被害に繋がる」
「では、そのダンジョンだか瘴気溜まりだかの辺りまで、国境線を押し上げるか?」
「何処にあるかもはっきりしないのに、出来る訳が無いだろう。もっと建設的な意見を言ってくれ」
会議は紛糾したが、結論は出ず、魔物を間引きつつ様子見するに留まった。軍人達にしたら、魔物関連は二の次だろうから仕方がないが、発生源や位置の特定は頑張って欲しいものだ。
軍議の後、準備に中一日おいて、いよいよ最前線に出発する事になった。国軍の軍人達が前列を固め、兵士達は隊列を組んで後に続く。我々冒険者は最前列の両翼についた。
「では、出発!」
号令を掛けるのは、増援部隊を指揮して来た指揮官だ。砦責任者は、この場に残るらしい。
「へぇ、彼奴は居残りかよ。別にいいけど」
「どーしたのーヴィル?」
「ちょっと毒吐いてただけ。気にしないで」
ヒューイの背でうっかり吐いた毒舌をステフに聞き咎められた。ステフはクスクス笑い、頭をぽんと叩く。その流れで軽くイチャイチャしていると、セスの背に乗ったライから苦情が入った。
「俺の混ざれない時にイチャイチャしてんじゃねぇ!」
「「突っ込み処、そこかーい‼」」
どうにも締まらないまま、進軍開始した。