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砦の責任者(司令官)

先行する騎獣部隊は、荒涼とした北の大地を進んで行く。何時もと違い、この部隊には飛ぶ騎獣も多くいて、翼犬のヒューイが飛翔しても目立たない。ただ、大きさだけは他より一回り大きいので全く目立たないという訳にはいかなかった。


「ヒューイに乗ると、目線が高いなぁ」

「だろ? 翼犬は大きいから」

「ヒューイは頭いいし、言う事もよく聞くイイコだよー」


思わず溢したらしいテオの感想に、返答する。すかさずステフが騎獣自慢を被せてきた。


ヒューイの背に、ステフと前後を挟む様にしてテオを乗せている。この遠征での移動中は、ずっとこのポジションを維持していた。テオの抱える不安を少しでも和らげられたらと思いそうしてきたが、効果の程はよく分からない。


目に見えて暗かったレフと比べ、テオは淡々としていて思う処がよく分からなかった。北の領都でも孤児院にいたというし、故郷にあまり思い入れは無いのかも知れない。


途中、休憩を挟みながら部隊は順調に進み、予定通り約半日で砦へ辿り着いた。


北の砦は、西の砦と比べ規模は似た様なものだったが、損傷が激しく見窄らしかった。職人か兵士か分からないが、あちこちで外壁を補修しているのが目に入る。紛争が絶えず、補修が追い付かないのだろう。


よく招集が掛かる大規模討伐では、前線基地が置かれて其処から日々討伐に出る。この砦は、常設の前線基地といった処だろうか。


建物は頑丈な石造りで、関所も兼ねている。部屋数も多そうだ。他に何棟か並んでいる。厩舎は別棟らしい。


「上級冒険者諸君は、砦の司令室に向かってくれ」


部隊長に呼ばれて、砦内に入って行った。テオは砦前に集合している魔術師団に合流するので、そこで別れた。


案内役の兵士に先導されて、砦内を歩く。長い廊下に似た様な部屋が続き、案内無しには目的地へ行き着け無さそうだ。とても短期間では覚えられないだろう。そもそも、覚える気も無いが。


「こちらでお待ち下さい」


通された部屋は、がらんとした広い場所に長机と椅子があるばかりの簡素な部屋で、恐らく会議室か何かだろう。とても司令室には見えない。


「おい、司令室に呼ばれている筈だが?」

「司令官より、こちらへ通す様に言われております」


トールが案内役を呼び止め、問い質すと、案内役はしどろもどろに答えた。どうやら、砦の司令官には、冒険者は歓迎されていないらしい。依頼主の国軍中枢と前線とでは、温度差がある様だ。


「まぁ、俺達は依頼主の要望通りに動くだけだ」


トールは呆れた口調で言い、肩を竦める。案内役はぴょこんとお辞儀すると、逃げる様に部屋から出て行った。


「こんな事は、よくあるのか?」

「俺だって、国軍から依頼を請けるのはそう何度もある訳じゃない。少なくとも、前に請けた依頼では、こんな扱いはされなかったぜ」

「この砦の奴等の独断か」

「多分」


トールと話し、憶測してみるが、溜め息しか出ない。先行きは不透明だ。適当に椅子を並べ替えて座り、時間を潰す。ヒューイやルーイを厩舎に置いて来たのが悔やまれた。モフりたい。癒やしが欲しい。


暫く待っていると、一緒に移動して来た部隊の軍人が慌てた様にやって来て、司令室に招き入れられた。


司令室は先程の部屋と違い、調度品も整っていて豪華だった。机がコの字に配置され、片側に移動して来た部隊の面々が並んでいる。見覚えの無い側が、この砦の奴等だろう。中央に鎮座しているのが、恐らく此処の責任者だ。


「冒険者諸君、座り給え」

「何処に?」


その責任者と覚しき奴が口を開くが、座る席など無い。すると、部屋の隅に控えていた兵士が、予備の粗末な椅子を壁側に人数分並べた。コレに座れという事らしい。


部屋の温度が、冗談抜きに下がった。レフが怒りで氷系の魔力を垂れ流した様だ。此処で怒って相手のペースに嵌まるのも癪に障る。


ステフとアイコンタクトして、魔法鞄(マジックバッグ)から上等な毛皮をこれみよがしに出し、椅子の上にしいて座った。責任者の眉がピクリと動く。


トール達もそれに倣い、各々自慢の絨毯やクッション等の上級品を取り出して座り、責任者をチラ見する。責任者の蟀谷(こめかみ)に血管が浮き出ていた。ステフは笑いを堪えるのに必死だ。


「では、会議を始める」


責任者の声が震えている。見えないが、臨席する軍人達の腹筋もさぞや震えている事だろう。怒りか笑いかは知らないが。


会議そのものは滞り無く、当たり障りの無い情報交換や日程を確認して終わった。もう依頼の最終日まで、あの責任者と顔を合わす事は無いといいが、どうだろうか。





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