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レフの内憂 テオの外患

日も中天を過ぎた頃、明日からの遠征に備えて買い出しに出掛けた。近くなので、騎獣達は留守番だ。のんびり歩いて行く。


「まずは雑貨屋か」

「食品類も買い足したい。穀物とドライフルーツは何処が品揃えがいい?」

「武器屋も寄って行こー」


消耗品の補充ばかりなので手分けすれば早いのだが、王都での誘拐事件以降は単独行動を避けているので三人一緒に動いている。


そういう訳で、折角の王都での買い物なのにゆっくり見て回ったりじっくり品定めしたりは難しい。


限られた時間で買い物を済ませる為に、王都に慣れたライが主導して店を選び、交渉は人当たりの良いステフが担当する。


「此処なら大概の物は揃うぞ」

「じゃあ、コレとコレと……小母ちゃん、纏めて買うからこんだけでいいー?」


二人の後に付いて回りながら、黙って財布役に徹した。


「あ、ヴィルさん!」

「お久しぶりです」


買い物途中、エルとテオにばったりと出会(でくわ)した。恐らく、テオの遠征準備にエルが付き合っているのだろうと思い、聞いてみる。


「久しぶり。テオも明日、北門に来るのか?」

「北門って……ヴィルさん達も……ですか?」


軍関係の依頼は守秘義務があり、お互いに大っぴらには言えないので、どうしても(ぼか)した言い方になる。だが、意味は通じたらしい。やはり、テオにも招集が掛かっている様だ。


「じゃあ、テオ、また明日。エル、またな」

「はい。明日、北門で」

「はぁい。ヴィルさん達も気を付けてねぇ」


エルの無邪気な挨拶から察するに、テオから今回の遠征に関する詳しい説明はされていない様だ。テオが紛争地への遠征に駆り出されたと聞いていたなら、幾ら楽天的なエルでもあんな呑気にしていないだろう。


「テオはまだ魔術師見習いなのに、やたらと現場へ連れて行かれてるな。テオの師匠は学究派(ひきこもり)と聞いていたが」

「将来有望なんじゃないー?」

「奴に目を付けられたのかも知れん」


二人と離れてから、思う処を口にすると、ステフとライからそれぞれ返答があった。ライの物言いが引っ掛かる。


「奴って、誰だ?」

「魔術師団長のイェレミアスだ。魔術師団では武闘派(のうきん)の急先鋒で、俺と同じ一族の者で、歳が近いせいか何なのかライバル視されて鬱陶しい奴だ。今回、奴も遠征に出張るんだろうな。会いたくは無いが」


問い質すと、如何にも辟易したという風にライが答えた。そのゲンナリした表情を見ているだけで、そのイェレミアスという魔術師の為人(ひととなり)が窺える。


「それは……気の毒だな、テオ……」

「現場では、出来るだけ庇ってやろうねー」


ステフと顔を見合わせて、そう呟いた。


翌朝、集合場所の北門前広場に、時間より早めに出向くと、国軍の者達は既に整列していた。軍の組織はよく知らないが、百人近くの兵が幾つかの部隊に分かれて並んでいる様に見える。


列の前方は騎獣連れの兵が固まっている。その後ろに騎馬で重装備の兵が続き、更に重装や軽装の歩兵が続く。後方には荷馬車が並んでいた。


軍の列から外れて、見知った顔が見える。お馴染みの上級冒険者達だ。サイラスがこちらに気付き手を振る。


「ヴィル、ステフ、ライ、こっちだ」

「皆、早いな」

「国軍相手の仕事じゃ、気が抜けないからね」

「堅苦しいな、参るよ」


冒険者の一団に加わる。トールと挨拶していると、国軍側の責任者から呼ばれて離れて行った。レフは今日も物静かだ。


「レフ、今回の遠征先、故郷が近いのか?」

「……まぁな」

「どうした? 何か心配事?」

「……いや、別に……」


やはり、レフの様子がおかしい。ちらりとサイラスの方を見ると、やれやれという風に首を振り両掌を上にして肩の高さに上げる。処置無し、という訳だ。


国軍側と話していたトールが戻って来た。今回の遠征隊司令官は、鷲獅子(グリフォン)に乗った騎獣兵団の長だという。


この遠征隊を騎獣兵団が先導して周囲の守りを固め、魔術師団の風術使いが複数で広範囲に速度向上(スピードアップ)を掛け、北辺境の砦まで通常は十日掛かる処を半分の(およ)そ五日程で踏破する予定だそうだ。


「そんなに大掛かりな行軍で、その後に前線出ても大丈夫なのか?」

「さぁな。軍のお偉方の考える事何ぞ、下々には分からん」

「魔術師団の魔力切れが無きゃいいが」


そう言って軍の方に目を遣ると、騎獣兵団と重装騎馬隊の間に魔術師団がいるのが見えた。魔術師達は、使い魔なのか召喚獣なのか、それぞれ騎獣と覚しきものと一緒にいる。一部に、騎獣を連れていない者もいた。その一人がテオだ。


「テオ!」


声を掛けると、テオは振り返り目を細めて会釈した。その傍に寄り話し掛ける。


「テオは騎獣に乗るのか?」

「俺達見習いはまだ使い魔を持てないので、先輩達に同乗させて貰う事になってます」


やはり、魔術師達が連れているのは使い魔らしい。見習い達はと見ると、テオを含め五人いる。


「テオ、俺達の騎獣に乗って行けよ。どうせ目的地は一緒なんだし」

「えっ……でも……」


テオはおろおろと魔術師団長や遠征隊司令官を見遣り、俯く。集団行動で勝手は赦されない、という事か。


「トール、司令官に許可取ってくれないか」

「ヴィルも大概だな」


トールに呆れられたが、無事に見習い達の騎獣同乗許可を取ってくれた。テオ達を連れて、冒険者達の集まる所に行く。それぞれ見習い達が乗る騎獣を決め騎乗した頃、司令官による号令一下、遠征隊が動き始めた。


「総員、出発!」


騎獣兵団を先頭に、遠征隊が王都を出て北へと向かった。









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