北の地ヘ
王都に着くと、真っ先に冒険者協会に向かう。受付カウンターに声を掛ける前に職員が気付き、奥の部屋へと案内された。
中では、協会幹部の他、お馴染みの上級冒険者達が揃っている。普段見掛けないがあるが、恐らく軍の関係者だろう。
「おお、『紅刃』『翠聖』ステフ、来てくれたか!」
「頼りになる最強戦力と浄化エキスパートには、今後是非とも王都に居て欲しいが……」
協会幹部らが口々に言葉を投げ掛ける中、上級冒険者の最年長にしてリーダー格のトールが口を開く。
「それは今話す事ではないよな。役者が揃った処で、本題に移ろうか」
その声を皮切りに、協会本部長を議長にして北部辺境地区への遠征と上級冒険者派遣の話し合いが始まった。
話の大筋は概ね事前の予測通り、紛争に当たる主体は国軍で冒険者にはあくまで威嚇や遊撃を期待するのみ、戦力には数えていないとする旨を軍関係者は強調した。
「戦力に数えていない者をわざわざ召喚するのは何故だ」
「単なる箔付け?」
「いや、そういった側面は否定しないが、名のある冒険者の参戦は味方の士気を上げると共に、相手方への牽制にもなる。影響力は計り知れない」
「そういうもの?」
その他、辺境地は普通に魔物の生息域なので、その排除も仕事に加わる。こちらの心構えとしては、何時もの大規模討伐と変わらない。魔物討伐をする隣で軍同士が睨み合っている状態と思えばいいらしい。
ただ、便宜上軍の招請を受ける形となる為、指揮命令系統は守って欲しいそうだ。現場での線引きはどうしても曖昧になるので、あくまで心に留めておく程度のことではあるが。
「では、出立は明朝、王都北門前の広場に集合。騎獣部隊と共に移動してくれ」
「了解」
冒険者協会での会議は終わり、軍関係者は帰って行った。残った協会関係者と軽く打ち合わせを済ませると、その場は解散となった。
「じゃあ、一旦邸に戻って休憩してから、買い出しとか行くか」
「そうだな。王都に着いていきなり会議だ、息つく暇も無い」
「賛成ー」
途中、トールに呼び止められ食事に誘われたが、疲れを理由に断り王都の邸に帰った。住み込み使用人の老夫婦に迎えられ、漸く一息つく。
「軍人でもないのに従軍だなんて。不本意だ! 冒険者は自由な筈だろう⁉」
「まぁ、建前はな。以前に西の辺境での大規模討伐で辺境伯軍と共闘した時と似た様なもんだろ」
「結果的にはそうだろうが、今日来てた軍の奴の口振りが、如何にもこっちを下に見てる風でムカつく」
「確かに、そういうとこあったねー」
居間でだらだらと寛ぎながら、つい愚痴が口を突いて出る。気分が悪い。もっと街でウルリヒと居たかった。
紛争が長引けば、インゲ女史の新作披露会にも影響が出る。何としても早く事態の収拾をつけたいものだ。
そう思うものの、一個人の想いなど国同士のイザコザの前では霞んで消える程儚い。せいぜい、影響力とやらを期待して、派手に動き回る位の事しか手が無い。
そんな事をつらつら考えていると、隣から手が伸びて来て顔に触れる。
「ヴィル、考え過ぎ。眉間に皺が出来てるー」
ステフが笑いながら、皺を伸ばす様に指で撫でる。
「やめろって」
「やめなーい」
ステフとじゃれ合い、笑っていると、何時もなら混ざりに来るライが珍しく難しい顔をして考え込んでいる。
「ライ、どうしたんだ?」
「……いや、大した事ではないが」
「気になる事ー?」
「気になると言えば、気になるかな。今日、レフがやけに大人しくしていただろ? 今回の紛争地、確かレフの出身地が近い。それと関係あるのか、とな」
言われて見れば、何時も煩いくらい賑やかなレフが、存在を忘れる程静かにしていた。
「もしかして、トールが声掛けて来たのって、レフから話を聞き出す前振りだったとか?」
「其処まで回りくどい事はしないだろ、トールは。まぁ、序にって思いはあったかも知れないけど」
レフの出身地、というキーワードで、何かが記憶に引っ掛かる。北の村、同郷、知り合い……テオだ。エルの友達で、宮廷魔術師見習いのテオが、レフと同郷だった。
国軍が出るなら、魔術師団も従軍する可能性がある。おまけに、テオは見習いとはいえ魔力量の多さから師団長に目を付けられて、先の大規模討伐にも参戦している。今回も呼ばれているかも知れない。
「レフの出身地なら、同郷のテオも無関係じゃないよな。今回の遠征に魔術師団も出るのか?」
「テオかー、此処に遊びに来た時には何も言ってなかったけど……どうだろねー」
どことなく似ている二人の北出身者達を思い浮かべ、彼らの故郷の無事を祈った。