王都からの迎え
ステフとの関係が進展して間もなく、アベル達のパーティーが護衛依頼を受けることになった。国境付近まで往復する商隊の護衛で、複数のパーティーが参加するらしく、先の合同討伐クエストで知り合った他パーティーにアベルが誘われて受けたものらしい。目的地まではかなり距離があり、おそらく数週間はかかりそうだ。
ステフは街を離れる期間が長いことに難色を示していたが、アベルをはじめパーティーの面々は皆乗り気で断れなかったという。この護衛依頼をこなせば、パーティーのレベルが中級に上がるらしい。意欲的な仲間達を前に、個人的な我が儘は言い出し辛いだろう。
「ヴィルとこんなに長く離れる依頼なんて嫌だな」
「前の合同討伐クエストだって、結構長かったじゃないか」
「あれは、受けた当初はあんなに長くなる筈じゃなかった」
「それもそうだな」
期間の長さはともかく、レベルアップはステフとて望むところだろう。中級に上がって一人前と言われる冒険者にあって、所帯を持つのも初級では憚られる。
「それに、前と今とでは、事情も違うし……ねぇ?」
そう言ってステフは、こちらに意味深な視線を向ける。多分、ステフの出発までは、定宿に帰れそうもない。酒場の二階で夜を明かす度に、二人で暮らせる部屋に早く移るべきか迷う。離れる期間が長いのは寂しいが、ステフの中級昇格が早まるのは、こちらにとっても好都合な話だった。
クエスト以外で度々朝帰りが続くと、定宿の主の妄想と、ダールの暴走を芋蔓式に引き起こす。日に日に、職人組合への足が重くなった。
「おぅ、ヴィル!新婚夫婦はお盛んらしいな」
「仕事の話をしてくれ」
「ヴィルは上級冒険者にも気に入られてたみたいだが、敢えて駆け出しの若いヤツの方を選んだってなぁ?」
「ガセネタに踊らされて、ご苦労なことだ」
「決め手は何だ?若さか、それともアッチ……」
「帰るぞ」
ダールのせいで、他の組合職員の目も心なしか生温かい。この際、他の街に拠点を移すことも視野に入れるべきか、考える。ガリガリと神経をすり減らし、いつものブリーフィングを終えた。
商隊の出発当日、見送りに街の南門へ行く。商人達は商人連盟の建物前に集まって隊列を組み、護衛と合流する。護衛はベテラン冒険者パーティーを中心に、アベル達を含む混成チームで、見たところバランスは良さそうだった。
「気を付けて、ステフ」
「待っててくれ、ヴィル。土産持って帰るよ」
「無事に帰ってくれたら何よりだよ」
旅立つステフを見送ってから冒険者協会に立ち寄ると、エントランス周辺がざわめいている。前の合同討伐の時を思い出して緊張が走り、手空きの窓口職員に尋ねた。
「何かあったのか?」
「あっ、ヴィルさん!ちょうど良かった」
窓口職員に伴われて、以前にも入った協会の応接室に向かう。何でも、王都の協会本部から指名依頼の迎えが来て、協会支部長が対応しているらしい。
「王都から?俺に?何で?」
「詳しいことは、支部長かお迎えにいらした方に聞いて下さい」
「厄介事は勘弁して欲しいんだがな。迎えの人って?」
「上級冒険者の方ですね」
「まさか『紅刃』が来てるのか?」
「いいえ、別の方です」
部屋に入ると、見たことのある人物が待っていた。
「ヴィルヘルムだな」