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旧交を温めたい人 温めたくない人

怒涛のデザイン画ラッシュの後、漸く落ち着いたインゲ女史は助手達に指示して四人の採寸を始めた。


「流石は現役冒険者ね、皆サイズが以前と変わっていないわ」

「協会は上級冒険者を遊ばせておいてはくれませんから」

「ウルリヒちゃん、イイコねぇ。はい、バンザイして」

「あいっ!」


四人の採寸が終わり、続いてウルリヒの採寸もしていく。ウルリヒは育ち盛りなので、大き目に作って当日にサイズ調整する事になるだろう。


「早くイメージを形にしたいわ!」

「そうですね、先生!」

「これからパターン起こして来ますので、先生は生地の選定を!」

「「「ウオォォー、(みなぎ)って来たー‼」」」


やたらと張り切っている女達を横目に見ながら、アトリエを後にした。自分の好きな事に夢中なのは別に構わないが、何事も限度がある。雄叫びを上げて萌に邁進する女達の姿は、ウルリヒの情操教育的には、あまり目に入れさせたくない光景かも知れない。


要するに、ドン引きだ。


階下には、インゲ女史の秘書をしている女性が待っていた。その傍らに、何処かで見た様なオッサンが控えている。この店は、店員からインゲ女史の助手に至る迄、女性が殆どを占めているので、そのオッサンは悪目立ちしていた。


そのオッサンは身を縮め秘書の陰に隠れようとしている様だが、なまじ体格がいい所為か全く隠れられていない。そのくせ、こちらへじっとりと視線を絡み付けて来る。鬱陶しい。


「ラインハルト様、ヴィルヘルム様、ステファン様、採寸お疲れ様でございます。この次は仮縫いの仕上がります半月後に、またお出で下さいませ」


秘書が連絡事項を伝え頭を下げる。オッサンも同様に深々とお辞儀をしている……はて、何処で見たオッサンだったか。首を捻っていると、ステフに見咎められた。


「うーん……誰だっけ……」

「どうしたの、ヴィル?」

先刻(さっき)見たオッサン、何処かで見た様な気がするんだけど、誰だっけ……」


通用口を出て裏庭の厩舎へ向かう道すがら、記憶を辿っていく。何か、不愉快な出来事と結び付いている感じがして、思い出すのを阻んでいる様な気がする。


「まぁいいか、無理に思い出す事も無いさ」

「早く帰ろうぜ。ウルが愚図り始めたぞ」


ライに急かされて、騎獣に乗り込み帰路に着いた。


邸に着くと、留守番していたデューイとルーイが駆け付けた。帰り道で寝てしまったウルリヒをデューイに預けて中に入る。玄関口では、管理人夫婦が出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、坊ちゃま」

「……おい、坊ちゃま呼びは止めろと言ってるだろ」

「失礼しました、ラインハルト様」


管理人夫婦はライの母親に付いていた使用人だったので、ライの子供時代を知っている人達だ。逆に、子供時代しか接していない為、未だに「坊ちゃま」呼びが抜けないらしい。


「御指示通り、お部屋を整えて食材の買い出しも終えております。どうぞごゆるりと」


管理人夫婦は離れに下がり、邸は身内だけになった。広過ぎて落ち着かないきらいはあるが、宿に連泊するよりも寛げそうだ。


「じゃあ、一休みしたら夕食でも作るか」

「オレ手伝うよー」

「俺は戦力にならんから、邪魔せず引っ込んでいるかな」


夕暮れのひとときを、皆で思い思いに過ごした。


翌日は特に予定がなく、エルと会う約束の日迄まだ間があるので、王都の冒険者協会を覗いた。流石は王都の協会本部、朝イチではないのにそこそこ賑わっている。


とは言え、人影は疎らだ。単発の討伐や採集の依頼でもあれば請けてもいいと思い、ステフやライと依頼ボードを眺める。ウルリヒはデューイが抱いて待合スペースで大人しくしていた。


「よぉ、『紅刃(こうじん)』じゃないか。最近此処らで見ないが、何処か長期の依頼でも行ってたのか?」

「いや、別に……」


背中から声を掛けられて、ライが応じている。王都の知り合いらしい。チラッと一瞥するが、見覚えのない中年の男だった。ライも適当に受け流していた。特に親しい間柄では無さそうだ。


「おや、隣にいる美人は『翠聖(すいせい)』かい? ライと組んでいよいよ王都に進出って処か」


やけに馴れ馴れしい上に、思い込みの決めつけ発言が鼻につく奴だ。その男に直接返答はせず、ライにジロリと目線で訴える。ライは頷くと、その男に振り返りガバっと伸し掛かる様にして低音で囁いた。


「随分と俺達に詳しい様だなぁ? で、お前、誰だ? 何処かで一緒に組んだ奴か?」

「い……いや……一緒にとかは……」

「名も名告なの)れねぇ奴が、俺達の周りをチョロチョロするんじゃねぇよ! 一昨日おととい)来やがれ」


その中年男は、震え上がるとスタコラサッサと逃げ出した。


「王都は人が多い分、変な人も増えるんだな」

「そうそう変な奴ばかりも居ないって」

「だよねー」


溜め息を吐きながら呟くと、ライやステフから合いの手が入る。ちょっと気が削がれたので、依頼の物色は止め従魔達を呼んで外に出た。


王都の中心部に向けて歩を進める。先程の変な奴にケチを付けられ、下降した気分が入れ替わるよう深呼吸して空を見上げた。このモヤッとした気分が、何かと符号する気がした。


先程の馴れ馴れしい中年男、じっとりと視線の絡み付くオッサン──


「あ、思い出した!」

「何? どうしたの、ヴィル?」

「インゲ女史の秘書さんと一緒にいたオッサン、辺境伯三男(バカ息子)だ!」


西の辺境伯領に出向いた時、絡まれて嫌な思いをした辺境伯の息子が、インゲ女史の所にいたとは。そう言えば、ライがあの時辺境伯にインゲ女史を紹介していたが、どうやら話が纏まってインゲ女史がその息子を引き受けたらしい。


「インゲ女史も変なオッサンを引き受けて、とんだ災難だな」

「あのオッサン、何か役に立つのかねー」

「婆さんの事だ、タダでは引き受けたりしないさ。何かは知らないが、メリットはあるんだろうよ」


辺境伯三男(バカ息子)とは旧交を温めたくはない。どうせ旧交を温めるなら、数日後に再会を約束したエルやテオとしたいものだ。その日の為に、茶菓子等を見繕って街中をブラブラと散策した。









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