王都の家
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街に戻って数日、今度は王都からの呼び出しがあった。マネキン契約しているクリューガー女史から、今年の新作披露会の為の採寸に来いというのだ。今回は荒事ではないので、ウルリヒも一緒に連れて行っても大丈夫だろう。
「前に王都へウルを連れて行った時は、散々な目に遭ったからなぁ……今回は何事も無く済めばいいけど」
「そんなトラブルばっかり早々無いってー」
「分からんぞ、ヴィルが絡むと」
「不吉な事言うな!」
王都移動について話していると、ライがふと思い付いた様に言い出した。
「王都では、宿はとらなくていい。俺の持ち家に滞在すればいいぞ」
「えぇっ? ライ、持ち家あったんだ……じゃあ、何故ウチに居候してるんだよ」
「その家は元々、俺の母親が親父から手切れ金代わりに下賜されたんだ。住んでいたのもガキの頃の僅かな間だし、母親が亡くなって引き継いだんだが、管理人任せで今迄も碌に帰ってない」
「……ライって、ホントにイイトコの出なんだなー」
そこそこ大きい厩舎もあるというので、従魔達も引き連れて一家総出の王都移動となった。
騎獣達に分乗し、街道を直走る。ウルリヒに合わせて、途中の休憩は多めにとった。
「インゲ女史、元気かな」
「ウルの事、気に入りそうだよな」
「確かに……如何にも彼女の好みって感じだし」
休憩場所での雑談で、インゲ女史の話になった。ウルリヒが生まれてから初めて会わせる今回、彼女の創作意欲がウルリヒに集中するのは想像に難く無い。何着もデザインしそうだし、披露会にも出て欲しがるだろう。
「こんな小さな子を披露会になんて……まだヨチヨチしか歩けないのに」
「そりゃあ、俺達で抱っこしてって感じじゃないかな」
「はぁ……覚悟はしておくか」
慣れた道行きだからと、敢えて宿はとらずに野営で済ませ、丸二日かけて王都へ辿り着いた。外門では相変わらずの入都待ち行列が長く延びている。
「毎度のことだが、混んでるな」
「まぁ、馬車列の方が徒歩のよりは進みが早いから、我慢だ」
行列は徒歩で入る者用と馬車用のがあり、騎獣は乗り物扱いで馬車用の列になる。ウルリヒをあやしながら気長に待つと、順番が回って来た。王都の有名人であるライは、当然の様に顔パスだが、連れの自分達も同等にも扱われたのは驚いた。
「おい、ヴィル。自分も名の通った上級冒険者って自覚は無いのか?」
「……無い」
「あははーヴィルらしいやー」
何だかライやステフから呆れられている──解せぬ。
無事に王都の門を潜ると、ライの案内で王都の持ち家だという所に行った。何だか見覚えのあるその界隈は、王都の北西地区に当たり、知り合いの少女エルが勤めている邸に程近い場所だった。
家というよりも邸と言った方がいい様な大きさの建物で、敷地もかなり広い。庭もしっかり手入れされている。管理人は離れに住んでいる老夫婦で、通いの下働きも使い邸の内外を整えているそうだ。
「ひゃー、デカい邸! コレ空き家にしておくの勿体無いんじゃないの?」
「冒険者なんて旅暮らしが基本だろうが。王都に戻った時には顔出してるし」
誂い口調のステフに、ライが言い訳じみた返答をする。仲のいい事で。
「そう言えば、此処ってエルのいる邸に近いよな」
「エルかー元気にしてるかなー」
「エル? 王宮の文官秘書見習いのエルか? それなら俺も知ってる子だ」
エルは街で知り合いになった従魔好きな少女で、勤め先の主人に気に入られ王都へ連れて来られた。特殊な魔力の持ち主で、宮廷魔術師とも交流がある。聞けば、ライとも知り合いであった。顔の広い子だ。
「王都滞在中に、エルにも会えるといいな」
「伝言魔法で連絡しておこうよ」
「そうだな。後でしてみる」
取り敢えず、邸に入って旅装を解く。それぞれ湯を使いさっぱりして、居間に集まった。騎獣達は管理人が厩舎に連れて行ってくれた。
「インゲ女史へは、明日挨拶に行くのでいいかな」
「どうせウルに会わせたら、興奮して拘束時間が延びるのは分かり切ってるんだ。ゆっくり休んでから行こう」
「異議なし!」
居間で寛ぎながら相談して、明日からの予定を立てる。インゲ女史とエルに伝言魔法を飛ばし、後はゆるゆると躰を休める。
この処、立て続けに依頼が入って落ち着かなかったので、こんなゆったりした時間は久しぶりだ。デューイやルーイにじゃれついて遊ぶウルリヒを眺めながら、ソファーに並んで座るステフに凭れ掛かる。
窓越しに庭へ目を遣れば、ライが管理人夫婦や下働きと話しているのが見えた。留守中のあれこれの報告を受けたり、確認したりしているのだろう。邸の維持も楽じゃない。
「夕食は外に食いに行くか」
「ああ」
「行こう! お勧めの店ってある?」
邸内に戻って来たライに声を掛けられて、それに応じ立ち上がった。